TOOLS 61 骨董との楽しい出会いかた/さとう ゆか( 骨董愛好家 / アンドー機材 代表取締役 )

それを聞いた瞬間についアドレナリンが噴出してしまいました。私が骨董にのめり込んだのは、部屋置きの棚を買おうとぶらぶらしているうちに、何気なく近所の骨董屋さんへ入ったことがきっかけ。選んだのは120年ほど前に東北で作られた、ちまっとしていて柔らかい雰囲気の小さな茶ダンスでした
TOOLS 61
骨董との楽しい出会いかた
さとう ゆか  ( 骨董愛好家  /  アンドー機材 代表取締役 )

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自由に生きるために
時間を遊ぼう

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骨董、というとどんなイメージが湧きますか? ガラス細工や西洋家具、和の小物や器、もしくは壺を拭いている怪しいおじさんでしょうか(笑)。

私が骨董にのめり込んだのは、部屋置きの棚を買おうとぶらぶらしているうちに、何気なく近所の骨董屋さんへ入ったことがきっかけです。選んだのは120年ほど前に東北で作られた、ちまっとしていて柔らかい雰囲気の小さな茶ダンスでしたが、なんと同じ技法で作れる職人がもう存在しないとのこと。それを聞いた瞬間についアドレナリンが噴出してしまいました。

「なんか、持ってたら面白そうな気がする!」

今、自分が使っているものが世界で最後の1つ、もしくはそれになり得るかもしれない。これは否が応でも大事にしないとな、とズボラな性格もどこへやら、メンテナンスを覚え、耐震対策までほどこし、レジェンド目指して大事に使っています。

間口は大きく奥も深い骨董の世界。ジャンルも幅広いので「興味はあるけど、なんだかよく分からないなぁ… 」という方もいらっしゃると思います。そこで今回は、暮らしが楽しく丁寧になる骨董品とのつきあい方をいくつかご紹介します。

最近獅子の置物がお気に入りで、持ち歩き用の茶棚に乗っけて遊んでいます。下段は信楽焼の蚊取り線香入れです。(筆者本人私物)

最近獅子の置物がお気に入りで、持ち歩き用の茶棚に乗っけて遊んでいます。下段は信楽焼の蚊取り線香入れ。(筆者本人私物)

 

 

五感を使って楽しもう
骨董は意外にコーディネートしやすいです

 

骨董品を愛した人間が、ほぼ必ずと言っていいほど受ける洗礼があります。それは、まわりからの第一声。

「これ、どーすんの? 」
(内角低めの変化球は「これ、何? 」です。)

骨董の種類によっては、本来の使い方がわからないこともしばしば。それらと日々の暮らしを共存させるためのアイデアを生むためには、まず見た目、手触り(器であれば口に触れた時の感触)、重さ、匂い、響きなど、五感をいっぱいに使って楽しみます。個人的には、つるつるとザラザラ、ゴリゴリともふもふ、など特に触感の違うものをよく取り合わせています。

100年、200年… 1000年、2000年と、人が一度の人生では経験しきれない歴史が骨董品には含まれています。そのため(年の功?)、思いのほかアレンジの懐が深く、さまざまなコーディネートを受け入れる可能性を持っているのです。現代の暮らしではあまり使われないというもの、例えば重箱であれば花器や小物入れにするなど、活かし方を工夫することで、より素晴らしいアイテムになることがあります。

取り合わせのテーマを決める、というのも方法のひとつです。生まれた季節や干支、好きな色、出身地、興味のある時代など、自分と関連するものからスタートすると良いでしょう。そこから四季の移ろいを取り入れたり、時代を合わせたりしていくと、より楽しめると思います。

 

一緒に生活するから、時には別れも…

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自分にとって相性の良い品、骨董も人と同じように長くつきあえるものを選びたいものです。それらを見つけるには、これだ! と思ったもの、好きなものをいくつかに厳選し、自分の生活空間に置いて毎日目にする、使っていくことが大切。実際目に触れていると、使うものと使わないものが出てきて、自分の好みがわかってきます。一時的な流行りで手に入れたものは、しばらくすると飽きてしまい使わなくなります。

あるいは、2~3年前は大のお気に入りだったのが、今では「う~ん… なんか物足りないかも? 」と感じることも。日常で接していくことで、興味の広がりや深さ、着眼の鋭さなど、感覚的な成長を感じられることも骨董の魅力の一つです。ただ残念なことに、感性がレベルアップしたことで物足りなさを感じてしまった骨董は、もったいないと取り置いても押入れのタイムカプセルが増えるばかりです。感謝をもって手放し、心の赴くまま出会いに行った方が良いかと思います。

骨董はその人の人生を映す鏡になります。一緒に生活するという感覚を大事にしましょう。情報や流行に惑わされることなく、自分の感性にあったものを手元に置いてください。

 

骨董は世界を広げてくれる知的なアソビ

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古ければ古いほど骨董は面白い、という人がいます。それは骨董1つ1つの持っている時間軸が長いことが大きな理由です。自分が選んだ骨董の作られた年代やその時代の特徴、時代背景などを調べてみると、柄や色や形に意味があることがわかり、ますます好きになるのです。

一般的に骨董(アンティーク)は、大体100年以上前のものを言うことが多いですが、それこそ日本は16000年前の縄文土器をはじめ、遡ったら古代史になってしまうものがゴロゴロ出てくる歴史大国。かと言って「これは昭和のモノだから」なんてスルーされた日にゃ、激動64年間のそこかしこで物議を呼びかねません。実際、骨董の目安はその人によるところが大きいので、今のところ私は “時が経ったことでより味わいの深まった美術性・希少性のあるもの” 、要は「古いけどめんこいナァ」という感覚を基準にしています。

例えば、古くておシャレな焼物の器を1つ持ってみる。そうすると、何かに使ってみようと料理がしたくなり、作っているうちに友人を呼んでパーティでも… と人をつなぐ行動が増えます。旅行に行った際は、その器が作られているところに出向いたり、その地方の歴史や文化などをもっと知りたくなったりと、その器をきっかけとして自分の世界はどんどん広がっていきます。

いま、手にしているものが辿ってきた長い長い時間の歴史に思いを馳せる、そこに自分を乗せていく。日々の暮らしに骨董を取り入れることは、今すぐできる知的なアソビとなりえるのです。

 

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骨董との楽しい出会いかた
1.  お気に入りの骨董屋さんを見つけよう
2.  五感をフル活用して「これだ!」を探す
3.  干支、好きな色、出身地など、自分と関連するものからスタートするのもよし


PHOTO : peter-rabbit(一枚目),その他、筆者本人


さとうゆか

さとうゆか

骨董愛好家 / アンドー機材 代表取締役 1986年生まれ、岩手県出身。明治大学経営学部文化人類学専攻。宗教、歴史、民族、社会学など多角的な観点から骨董品の現代的価値を研究する。また、調理師免許を取得し「食と骨董」をテーマに、楽しく頭と身体を使えるワークショップを行っている。