井戸とラクダ 第7話  「なんでもある街から外れた、大地の渓谷で」 恩田倫孝

井戸とラクダ

 

 旅なんて、旅人の自己満だから嫌いだと。お金を払って、お金が無い国に行って 

第7話  なんでもある街から外れた、大地の渓谷で

TEXT & PHOTO  恩田倫孝
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大地の渓谷は、ただただ静かに目の前に広がっていた。
鳥の声が時々聞こえるだけの、その静けさに圧倒される。
足を止めて、時を止めて、鼓動さえも、大地に吸い込まれて。

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旅を終えたある人が言っていたのだが、旅なんて、旅人の自己満だから嫌いだと。お金を払って、お金が無い国に行って、その日本に無い光景を見て、それを刺激だと言って楽しむだけじゃないかと。

違う言葉を話す人達の中に混じり、必死に自分の思いを伝え、それを達成した喜びを感じる事に酔っているのかも知れない。その光景を見て、写真だけを取って来て、ここは悲惨でした。でも、その中の子供笑顔が素敵で、景色は良かったですと自分と遠い世界の物語を話すのは、どこか無責任なのかもしれない。

ただ、確かにその国で感じた悲しみ、喜びは自分の中に蓄積され、目に見えないそれは、これ以上ない「多分」という不確かな言葉を添えながら、どこかで役に立つのかもしれない、としか僕は言えない。多分、旅をするだけではなんの解決にもならないし、大切なのは、その後なのではないかと、もし時間を戻せるのならば、その旅を終えた彼に質問をしてみたい。

コロンビアからアメリカ行きの飛行機の中で

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機長の「W杯でコロンビアとウルグアイどちらが勝つと思う?」というアナウンスで、機内が盛り上がる中、僕は一人まだぼんやりと外を眺めながら、コロンビアの事を思い出していた。

1ヶ月近く滞在したアパートの隣の商店のおばちゃんとおはようと挨拶をしてから朝は始まり、暗いバスに乗り込んでコロンビアで一番綺麗な学校に行き、学校では生い茂る自然と美女を眺め、帰りにまたそのおばちゃんと一緒に話し、時々バナナを貰ったり、一緒に住んでいるスウェーデン人は、気持ち良さそうにタバコを吸いながら、外を見ていたり、メデジンの妖精こと、かおりさんと愉快な仲間と会ったりと、暖かい時間を過ごした、コロンビア。

さよなら。また来る日まで。Adios. そして、次に向かうのは自由の国、アメリカ。

 

日本を出発する前、僕は東京で海外が大好きな男9人でシェアハウスをしていたのだが、今では、彼らは、バンコク、東南アジア、世界一周×2人、ロスアンジェルスと日本を飛び出して、活動をしている。僕はその中のロサンジェルスにいる、「Hide」に会いに来た。

スペイン語で、天使達という意味の名の街は、ハリウッド、ビバリーヒルズ、サンタモニカ、ロングビーチと言った、日本でも良く聞く名前が集まる都市である。LAの空港に、颯爽と現れた「Hide」と一緒に彼の家へと向かった。

今回の旅では
いわゆる先進国には殆ど行っていない

先ほどの、【日本に無い景色】を求めているのかもしれないが、ここLAは、電車の中は綺麗で、バスも整備されているし、街の中に高層ビルは勿論あるし、アジアのスーパーというか、日本食を主に取り扱っているスーパー、日本のレストランや吉野家だって探す事が出来る。
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ラスベガスにて

ラスベガスにて

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週末に、ハリウッドに行ったり、サンタモニカに行ったりして、多くのお店、多種多様の人種、体格の人を眺めながら、ああ自由な国、アメリカ。等と、興奮しながら、街を歩いた。ただ、この文句の付けようの無い程に素晴らしい気候の下で、足が止まった。何でもあるアメリカ。でも、そのど真ん中にあるものは何なのだろうと。

車を走らせれば、多分多くの国の料理やら雑貨を手に入れる事が出来るだろう。ラスベガスに行けば、急に隣に座っていたダンディーなおじちゃんから、100$のチップを貰えたり、サンフランシスコに行けば、美味しいクラムチャウダーも食べれたり、勿論他の都市は色が違うようだ。

ただ、色々なものがあり過ぎるが故に、何だかきゅっと縮小された綺麗にぼんやりとした国が出来上がっているような気がして、でもそれを引き伸して見ると、その輪郭は曖昧で、多くの砂糖が入りすぎた水が揺れるように、なんだか実態があるのか分からないような気分になった。

自由に一番近い国なのかは知らぬが、その多様さ、全てを追いかける事になんだか、不思議な拒否感を抱いた。何かが欠けているくらいの街が、僕は好きなのかもしれない。

週末、グランドキャニオンに行った。静かで、荒々しく大地の肌が見えるその空間で、どこまでも広がる青空を眺めた。ずっとそこに居たかった。

Me gusta mucho.
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大地の渓谷

大地の渓谷

 

 

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(次回もお楽しみに。隔週月曜更新です)

 

連載バックナンバー

第1話 旅に出てから3回泣いた (2014.4.21)
第2話 空港に降り立つ瞬間が好きだ (2014.5.5)
第3話 砂漠に溢れる星空の下で (2014.5.19)
第4話 ラム酒に溶けゆく孤独  (2014.6.2)
第5話 過去を美化する病を抱えながら、病を自覚する事(2014.6.16)
第6話 ケーブルカーの下に (2014.6.30)

恩田倫孝くんが世界一周に出るまでの話
第1章 僕が旅立つその理由
第2章 編集部が訪れた恵比寿ハウス
第3章 いってらっしゃい、世界一周へ


恩田倫孝

恩田倫孝

おんだみちのり 旅人。 1987年生まれ。新潟出身。慶応大学理工学部卒業。商社入社後、2年4ヶ月で退社。旅男子9人のシェアハウス「恵比寿ハウス」を経て、現在、「旅とコミュニティと表現」をテーマに世界一周中。大学4年時に深井さんの講義「自分の本をつくる方法」を受講。旅中の愛読書は「サハラに死す」と「アルケミスト」。