子どもが、悩み、自問し、周りにいる魅力的な大人に影響を受けながら成長していく物語を幾つか書いてきた私にとって、『りんどう珈琲』はドンピシャで好みの物語だった。ああ、やっぱり小説が書きたい。心底そう思った。ボッと音を立てて灯がともるように、つよく。本当はずっと、その思いは消えなかったはずなのに、結果が伴わない中で、いつの間にか心がそこへ向かうこと
連載 「 ひとつの星座 」 とは 【毎月25日公開】
母になっても夢を追うことはできるのでしょうか。諸星久美さんが約15年前、27歳で母になると同時期に芽生えた夢。それは「物語を書いて多くの人に読んでほしい」という夢でした。とはいえ、3児の子育てあり、仕事あり、書く経験なしの現実。彼女は、家事や育児、仕事の合間をぬって、どのように書いてきたのでしょう。書くことを通じて出会ってきた方たちや、家族との暮らし、思うようにいかない時期の過ごし方など、記憶をなぞるように、ゆっくりとたどっていきます。42歳の現在、ようやく新人小説家としてスタートラインに立ったママが、本を出版するまでの話。
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第7話 書きたいものを模索する日々。2015 – 2016年
TEXT : 諸星 久美
とにかく、何でもいいから書きたい
夢に向かってまっしぐらな長男の影響を受け、フルタイムの仕事を辞めて、自由大学の「自分の本をつくる方法」を受講し始めた……ところまでが前回のお話。
でも、小説を書きたいのに、なぜ「自分の本をつくる方法」を選んだのか? と問われれば、当時の私はまだ、「書くことを仕事にしたい」という漠然とした思いはあっても、それがエッセイなのか、小説なのか、明確なものがなかったからだろう。
それでも、意欲だけはあったものだから、エッセイの課題がでれば、皆が一本書いてくるところを三本書いて提出し、自費出版本の『Snowdome』を深井先生に渡し、「とにかく書きたい!」という猛アピールをしていた。
初めてエッセイというものを書いてみると、意外と楽しいということが分かったし、講義を受けてはい終わり、というのでは、費用も時間も費やしたのにもったいない。そんな思いから、卒業と同時にオーディナリーでエッセイを書かせてもらうようになった。
題材は、「諸星家の子育て」について。我が家は、主人が幼稚園の体育指導員であり、私自身も幼稚園に勤めていた経緯もある。そして、3児の母であるわりには、自分の時間を追求することに貪欲な私自身をモデルにすれば、オリジナルな育児の在り方を書けるかも……と、TOOLSのコーナーでのエッセイを重ねた。
そして子育てについての企画書、原稿を書き、下北沢B&Bのイベントに参加した際、ディスカバー21の干場社長と名刺交換させてもらい、後日、原稿を送らせてもらった。
結果…… 企画は通らなかったが、落ち込むよりも、どこかほっとした気分だったように思う。なぜなら、有名人でもなければ、子育てブログのフォロワーが多いわけでもない一般家庭の育児論など、売れる本にはならないだろう、と自分でも納得できたからだ。
また、同時期に埼玉県の家庭教育アドバイザー(幼稚園や保育園や、小学校、中学校などで、親向け、子ども向けの講義をするお仕事)の資格取得途中で、様々な教育のプロたちの話を聞く中で、安易に踏み込んでいい分野ではなかったな……と痛感していたからだ。
けれど、企画書を書き、目次通りに7万字ほどの原稿を書いたことは、自分の子育て観を改めて客観視できたし、書くことはやっぱり楽しいと再確認できた。
そして何よりも、こっちは私の向かう方向ではない、と知ることができたことは、大いなる収穫だったように思う。
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オーディナリー編集部に。
TOOLSのコーナーを書かせてもらいながら、私はオーディナリー編集部にも入れて頂き、PUBLISHERSのインタビュー取材に同行させてもらうようになった。
記念すべき同行取材の1人目は、雑誌「CANVAS」の編集長、宮原友紀さん。1年前に代官山蔦屋で開催された、「CANVAS」創刊のイベントでお会いした方を、今度は取材させてもらうという展開に、喜びながら取材場所へ向かったのを覚えている。2時間ほどの取材はもちろん、その内容を記事に起こす作業は楽しかった。
そして、2人目のPUBLISHERS、クルミドコーヒーの影山知明さんのお話も大変興味深かった。宮原さんも影山さんも、しっかりとご自分の言葉を持っておられるし、ご自身で道を切り開いてチャレンジを続けている方の、豊富な知識と広い思考と、強いバイタリティに触れられたことは、大きな刺激になったと思っている。
人に出会い、話を聞いて、それを記事にする作業は、小説ともエッセイとも違う。けれど、「書く」という一点においては同じであり、取材、インタビューを記事にする仕事をしている人も、世の中には多くいるだろう。
けれど……。
それが本当にやりたいこと?
それが、本当に書きたいものなの?
という自問は、いつも私の中にあったように思う。
そんな思いを払拭してくれたのが、クルミドコーヒーのイベントでお会いした、古川誠さんだった。
古川誠さんはOZmagazineの統括編集長(当時は編集長でいらっしゃいました)。その古川さんの初小説『りんどう珈琲』がクルミド出版より刊行され、私はその出版イベントに参加したのだ。雑誌の編集長で、多忙であることは容易に予測がつくのに、その合間を縫って小説を書かれたことに感銘と衝撃を受けながら、おっとりと話される古川さんの笑顔に惹かれるようにして、イベント終了後に、自著『Snowdome』を渡させてもらった。
夜遅く帰宅して、次の朝から『りんどう珈琲』を読みはじめた。綺麗な箱入りの、水色と藍色の2冊組の本は、丁寧に製本されたことが分かる佇まい。こちらも静かな心持ちでページをめくり、すぐに「あ、これ好きな小説だ」と感じた。
ゆっくり、この世界の中を楽しませてもらおう。そんな心持ちで、昨晩のお礼を古川さんに……とパソコンを立ち上げると、すでに古川さんからのメールが届いていた。
イベント参加のお礼に加え、帰りの電車で『Snowdome』を読み進めてくれたことや、ありがたい感想、自分でここまで作ってしまった私の熱量を褒めてくださる言葉が並んでいて、本当に感激したし、ぽんっと背中を押してもらえたように感じた。
やっぱり、小説が書きたい。
小さな男の子が、ひとりの少年に。
少女が、ひとりの女性に。
子どもが、悩み、自問し、周りにいる魅力的な大人に影響を受けながら成長していく物語を幾つか書いてきた私にとって、『りんどう珈琲』は、ドンピシャで好みの物語だった。
ああ、やっぱり小説が書きたい。
心底そう思った。
ボッと音を立てて灯がともるように、つよく。
本当はずっと、その思いは消えなかったはずなのに、結果が伴わない中で、いつの間にか心がそこへ向かうことを拒否していたのかもしれない。
沸々と熱が戻ってくる中で、『りんどう珈琲』の中で出てきたCaravanというアーティストの『サンティアゴの道』という曲がループしていた。
私は物語を書くときに、ひとつの曲からインスパイアされることが多く、その曲をループで聴きながらパソコンに向かうタイプで、『サンティアゴの道』を聴けば聴くほど、歌詞が耳に馴染めば馴染むほど、私の脳内で生きていた人物たちが動きだし、物語が立ち上がってくるのが分かった。
もうこうなると発作のように、書きたくてしかたなくなる。
この曲が私の物語を運んでいくのも分かるし、最後まで書ききれるということも分かる。
書ける。
書きたい。
でもまだ、自分の熱い思いだけでは、何かが足りないような気がする。
それは何……?
何が足りない……?
そんな自問の中で数か月を過ごし、私はある小説講座を受講することになる。
次回はそのあたりから書き進めていこうと思う。
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<本の紹介>
『千住クレイジーボーイズ』は、かつて一世を風靡したことのある芸人、辰村恵吾(塚本高史さんが演じられています)が、千住のまちの人たちとの関わりの中で成長していく物語。ノベライズ本を書くうちに、恵吾との共通点に気づいた私は、作中に、ものを書く世界でどのように生きていきたいか、という私の想いも重ねて語っていますので、それも含めて、本を楽しんでくれたらうれしいです。
本のご購入方法は、版元であるセンジュ出版のウェブサイトにて。
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<ドラマの紹介>
【放送されました】ドラマ『千住クレイジーボーイズ』2017年8月25日(金)19:30~ NHK総合テレビ ウェブサイトはこちら。 .
(次回もお楽しみに。毎月1回、25日に更新予定です) =ーー
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