舛廣純子が聞く「しなキャリ図鑑」 【第24話】 観光協会職員のチカラ / 渡辺美樹さんの場合

masuhirojunko_long_banner当面はオリンピックがあるので、注目も期待もされていますよね。オリンピック以降のことを考えると、千代田区は今まで何もしなくても人が来る自治体でしたが、そこに胡坐をかかず、そうでなくなることも念頭に置いて動いていく必要があるとは思っています。外国人のお客様の80%は実は皇居に観光にいらっしゃるんですよね。だからこそ千代田区で観光
連載「しなキャリ図鑑」とは  【毎月1回更新 / 第4月曜】
「しなやかに生きる人のためのキャリア図鑑」の略称。キャリアカウンセラー舛廣純子が、イキイキと働く仕事人にインタビューし、その仕事に大切なチカラを中心にキャリア・仕事そのものも掘り下げます。10年後の未来に自分がどんな風に仕事をしているのかも見えづらくなった今の時代。インタビューを読むことで、自分の持っている力にも気づいたり、したことのない仕事に興味を持ったり、これから伸ばしたい自分の力を見つけられたなら、あなたの仕事人生も変化に対してさらに強くてしなやかなものになっていくかもしれません。

 

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第24話   観光協会職員のチカラ 
なんでも楽しむチカラで「広告代理店×旅行代理店×イベント会社×出版社×コールセンター」をマルチにやり遂げる

TEXT : 舛廣 純子


渡辺美樹さん

教えてくれた人 
渡辺 美樹(わたなべ みき) 千代田区観光協会職員 

大学卒業後、メーカーに就職。人事を経験し、結婚・妊娠・出産。二回目の出産が双子の出産であったため、退職。その後、育児をしながらPTA活動や地域活動に参加する一方、アルバイトをいくつか経験。双子の息子たちが小学校6年生の時に、縁あって千代田区観光協会職員になる。

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<観光協会職員にとって大切な能力はなんですか?>  
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1. なんでも楽しんで仕事をできるチカラ      受容力 マルチタスク能力

企画、イベント運営、取材、編集、情報収集、電話問い合わせ対応…… 観光協会は自治体によっても違いますが、たいていどこの自治体もそんなに大きな組織ではありません。そのため、なんでもやらなくてはいけないある意味「なんでも屋さん」です。長期的な仕事もあれば短期的な仕事もある、事務的な仕事もあれば体力勝負な仕事もある、クリエイティブな仕事もあればクレーム対応のような電話応対もある。どんな仕事でも楽しく受け止めて、それぞれの仕事の中にそれぞれの楽しさを見つけられることが大事です。企画だけやりたいとか、ひとつの仕事だけに集中したいという人には難しい仕事ですね。集中して仕事に取り組んでいる最中に問い合わせが入った時、それをつらいと思う人は向かないと思います。こういったチカラを持てたのは、計画通りには進まない育児経験とか、専業主婦をやりながらPTAもやったりとか、そういう経験があったことが私には大きかったなと思います。自分が新卒だったら、きっと今のようには楽しめていないし、うまくもやれていなかったなと思いますね。

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2. 人との会話を楽しむチカラ     会話力 電話対応力 対人理解力

 

本当にいろいろな方からのお問い合わせの電話が、日々あるのですよね。桜祭りのときなどは三本の電話回線はずっと鳴りっぱなしの状態です。桜祭りの思い出話をずっとしたい高齢者の方もいらっしゃって、時間があればおつきあいしたいところですが、その電話だけでなく、本当に観光についての質問をしたいお客様も電話がつながるのを待っています。そのため、一人のお客様にあまりに長い電話対応はできないのです。冷たいと思われるような対応にならずに、でも短時間でお客様にご満足いただかなくてはいけません。そのためには、お話しされている方が、何を一番扱ってほしいのかを理解はしても共感しすぎないような対応が大事になってきます。こういった電話対応力は厚生労働省での新型インフルエンザの対応窓口の電話アルバイトをしたときに、長く話せばいいのではない、ということを学んでいたことが大きいかもしれないですね。

短時間でいい会話ができると、ちょっと達成感もあったりします。あとは、「桜ってきれいに咲いていますか?」「桜はいつ咲きますか? 毎日そこにいるのでしょう?」なんていうご質問も毎年必ずありますが、断定的な返事はクレームを生む元なので、できません。「今日はきれいに咲いています」とか、「毎日見ても毎年見ても、咲く日は断定はできないです。今週の気温にもよるので、天気予報を見て私どももお答えするしかないのです。もしよろしければお手数ですが、お電話いただくかホームページを見て頂くとその日の開花状況をお伝えできます」など、言葉は選びますね。

また、問い合わせも時には観光ではない問い合わせや、最初から何か文句を言いたくて電話をしてくる方も中にはいます。そういった電話に対しては感情的にならずに、いかにスムーズに、短時間で、相手の感情を害さないで対応できるかが大事です。どんな電話も短時間で気持ちを切り替えて、いろいろな人とのコミュニケーションをストレスに感じず、受け入れ、楽しむぐらいの資質が必要かなと思います。

 

3. タフさ  体力

寒くても暑くても取材やイベントで外に出る仕事です。氷柱を早朝撮りに行ったり、雪の街並みや炎天下の中に咲くヒマワリを撮りに行ったり。夏場は「山田養蜂場みたい」と家族に言われながら、日焼け止めをして、帽子と手袋をして、撮影に行ったりしています(笑)。自転車の方が機動力もあるので、自転車にすぐ飛び乗って、区内を駆け巡っていますね。よくみんなにも「元気だね」「体力あるね」と言われています(笑)。もちろん、取材やイベントだけでなく、少人数の職場は一人倒れたら皆に大きな迷惑をかけてしまうので、タフそして健康であることは大事ですよね。

クリエイティブ作業や調べ物は覚えて馴れていけばできることかもしれませんが、タフか否かというのは、もともと持ち合わせていないと難しいですよね。大前提のチカラかなと思います。

渡辺さん写真②

相棒の一眼レフだけでなく、スマートフォンも使って、町の躍動感を伝える

相棒の一眼レフだけでなく、スマートフォンも使って、町の躍動感を伝える

暑い日も寒い日も千代田区のイベントや街並みの取材のために自転車で区を駆け巡る

暑い日も寒い日も千代田区のイベントや街並みの取材のために自転車で区を駆け巡る


 

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<なぜ観光協会職員になったのですか?>  
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新卒でメーカーに就職をし、人事の仕事をしていました。長女が生まれたあとも育児休暇を経て復帰したのですが、産後職場に戻った時は全く同じ仕事ではなかったので、ちょっと戸惑っていました。そんな時に、今度は双子の出産をし、復帰は無理だなと思い、正社員での仕事は辞めました。でも「社会から取り残されたくないな」という思いは、当時から強く、辞める時にMacを購入して、HTMLを勉強して、我が家のホームページなんて作ったりしていましたね。家事・育児をしながらも、子供たちの保育園や学校のPTAの役員をなぜか引き受けることも多く、ママ友にも恵まれました。ありがたいことに、ママ友や知人友人つながりで、ちょこちょことしたアルバイトを紹介していただくこともよくありました。障害者の方にパソコンを教える仕事をアルバイトでしたり、ご商売の事務的なお手伝いをしたり、厚生労働省の新型インフルエンザ対応のためのコールセンターでのアルバイトなどもしました。

実は観光協会職員のお仕事も、ママ友からの急な紹介で決まったお仕事だったのです。たまたま観光協会で欠員が出ることになり、もともと私が大学で史学を学んでいたことや、PTAで広報の仕事をよく引き受けていて、いつもカメラを持ち歩いていたことをママ友の友人は知っていたから即戦力になると思い、紹介してくれたようです。「歴史×写真×千代田区民」とたまたま私と求人条件が重なったのだと思います。

観光協会の仕事については、その自治体によって採用方法や構成要員、規模も異なります。千代田区観光協会についていうと観光協会の直接雇用の正規職員は2人で、あとは区からの出向者やアルバイト、派遣スタッフ、総勢10名弱の職場です。スカイツリーがある墨田区は結構人数を採用しているようです。また、中野区は区民から必要性を感じて生まれている団体なので、区は絡んでいないそうで、千代田区とは体制が全然違うようです。

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<観光協会職員とはどんな仕事?>

本当に色々な仕事があるのですが、大きな仕事の一つには取材があります。

ドラマなどで千代田区が絡むものがあれば、それを全部調べて、観光協会のホームページで特集を組んだり、ブログで紹介したりしています。新しいドラマが始まると、千代田区との関連についての情報収集を自分たちから始めます。

たとえば朝ドラで正岡子規が出てくれば、「正岡子規の妹が一ツ橋にある共立女子大で働いていた」とか調べてみたり、大河ドラマで西郷隆盛が主人公になると聞けば、西郷隆盛についていろいろ調べ始めます。そうすると、上野の西郷さんの銅像の元となった銅像は実は千代田区にあることが判明し、そういうところから何か企画的なものができないか、いろいろ考え、そこからどんどん調べていく感じです。もう一人のスタッフが建築を担当しているので、私は今はほぼ歴史担当で千代田区歴女みたいになっています(笑)。

WEB媒体だけでなく、千代田区の観光情報の広報資料やツールの作成もします。自分たちが主体となって実施しているイベントではありませんが、「各町会で行う夏の盆踊りをまとめたチラシがないね」という話に昨年の6月になり、急きょ7月のイベントに間に合わせるためにチラシも作成しました。他にも観光マップや広報冊子なども必要に応じて作っていっています。

記事もライターさんではなく、自分で書くことがほとんどですし、写真を撮るのも自分です。予算がないときはイラストレーターで、情報発信ツールのデザインも自分たちで行いますし、ホームページの直しも自分たちでやっています。PTA広報の時に小学校でイラストレーターを買ってもらって、自分で本を買って勉強していたのが役立ちましたね。仕事で使うようになり、より知識はステップアップしていきましたがベースがあったので、慣れるのは早かったです。我が家のホームページを作っていたことも、今のホームページ業務には大いに役立っています。PTAは、自分で進んでやっていたわけではないのですが、上の子供の時から14年連続で広報の仕事を中心に何かしらやっていました。ママ友やPTAで出会った区内の人とのネットワークも、取材やイベント運営の時などには、助かっている部分もあります。

取材・広報以外にもツアー企画なんていう仕事もあります。歴史がらみのツアーなども考えたりしています。この秋は3本のツアーを組みましたが、どこでどんなツアーを組むか企画を考え、どこで何を食べるのかメニューの打ち合わせをホテルや飲食店として、企画を固めていきます。決まった企画を千代田区広報や観光協会のホームページに載せ、自分でチラシやポスターも作成し、広報していきます。さらに申し込みのあったお客さんへのメール対応も自分で行い、当日はガイドもどきのことをすることもあるので、一人旅行代理店×広告代理店みたいな感じです(笑)。

あとはイベント企画・運営もしますね。写真コンクールや桜まつりなどのイベントを企画し、運営しています。イベントで販売する商品の開発もしていて、桜の塩漬けを入れた飴や、スマホを持っている浮世絵の飴、カルガモの焼き印をした桜餡入りどら焼きなども今まで商品企画して、販売してきました。

カルガモについては、皇居のお堀にいるのですが、一昨年「桜を見るバスツアー」を企画した時に、カルガモの絵を描いてもらい、シールを作ったり、バスもカルガモ号にしたので、そのカルガモをもっと広めたいねということになり、去年の桜まつりではどら焼きに焼き印としていれたんですよね。

自分たちが主体となって開催するものばかりではありませんが、その時々の助成金や東京都との連携で臨時イベントなども結構ちょこちょこあります。1か月に1回ぐらいはなんらかのイベントがらみの仕事をしています。去年は夏目漱石没後150年、生誕100年で神保町がイベントをやっていたので、その中でやっていた謎解きゲームなどのお手伝いをしていて、ずっと漱石漬けでしたね。最後東北大学まで行って、協力者へのご報告お礼までしてきました。歴史や千代田区についての知識を持つだけでなく、それを今のニーズや流行と絡めてどう企画していくかも大切なポイントです。

こういった大きな仕事以外に、日々の電話対応も当然加わってきます。旅行×広告×イベント×出版社×コールセンターのような仕事です。なんでもできちゃうけど、なんでも自分からやらなくてはいけないので、新卒だとちょっときつい仕事ですね。

スマホを持っている浮世絵がパッケージにデザインされた飴

スマホを持っている浮世絵がパッケージにデザインされた飴

桜の木で作ったストラップ

桜の木で作ったストラップ

カルガモ号

カルガモ号

カルガモ号でデザインしてもらったカルガモのイラストが、翌年はどら焼きで登場

カルガモ号でデザインしてもらったカルガモのイラストが、翌年はどら焼きで登場

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<一日の仕事スケジュールは?>

毎日毎日違うから、あくまで一例なのだけれど…。いつも何かを同時進行している感じですね。パソコンの画面も2つあって、作業していますね。

9:20     出社
9:30-10:30   写真コンテスト表彰式不参加者への、盾・賞品発送作業
10:30-11:30  年末・年始情報 年越しそば屋情報収集及び掲載許可願いの電話をかける
11:30-12:00  写真コンテスト表彰式不参加者への、盾・賞品発送作業続き
12:00-13:00  電話対応をしながら、メール発信・返信
13:00-14:00  職場でランチしながら、発信・返信
14:00-15:30  会員企業向け「会員情報発信コーナー案内」の発送用チラシをイラストレーターで作成
15:30-16:30  さくらまつりで販売するさくらグッズ「さくらストラップ」の製作会社への交渉等
16:30-18:00  さくらまつりで販売するさくらグッズ「さくらどら焼き」の包装デザインや袋のデザインなどの原案考える
18:00-18:30  東京ミチテラス取材交渉・取材準備
18:30-18:50  雑誌社からの写真提供と校正依頼の対応
19:00     退社

※途中10件くらい電話対応
  ・天皇誕生日の一般参賀について
  ・さくらまつりの時のバスの停車方法お客様の乗降について
  ・資料送付
  ・観光ルート情報について…  など

 
 

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<仕事のやりがいや面白みはどんなことですか?> 

取材や問い合わせの際に、どこに何があったのか、ここに誰が何年まで住んでいたなど、本を並べて調べるのが大好きです。史学科だったので、もともと歴史的なことの調べ物は好きなのです。私のバイブルの「千代田区史」を問い合わせの時にはよく使って調べたりしますね。千代田区の文化財担当につなげばいいのですが、つい自分で調べてしまうことが多いです。あとは取材やツアーの下調べの時においしいものを食べに行くのも楽しいですよ!

そして何より、お客様からの感謝の言葉は嬉しいです。電話の対応でも「ありがとう」って言われるのは嬉しいですし、ツアーでも「ありがとう! またやってね~!」と言われると、「やってよかったな、次も喜んでもらえる企画を立てよう」と心から思います。

 

渡辺さんのバイブル 『千代田区史』

渡辺さんのバイブル 『千代田区史』

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<もっとも嬉しかった経験はどんなことですか?>

お客様からの「ありがとう」以外で、嬉しかったのは、昨年、靖国神社で行ったさくら祭りで担当した商品企画の仕事ですね。

それまで、桜の木を切って加工した雑貨しか商品として販売していなかったのですが、去年、初めて飴を作らせてもらえました。さくらを眺めて道を歩いているとお客様も疲れてしまうのか、その前年まで必ずと言っていいほど「何か甘いものないの?」「何か食べものはないの?」というお問い合わせがありました。飴なら気軽に食べられるからいいのではないか、と思い、半蔵門にある和の飴のお店に依頼して作ってもらいました。桜の塩漬けを入れた飴だったのですが、「体に優しい飴」というもともとのそのお店のコンセプトともあっていました。

もともと、市販の梅漬け入りべっ甲飴を見ていた時に、「これ、桜のほうがかわいいんじゃない」と思っていて、それで桜の塩漬け入りべっ甲飴を発案したのですが、最初試作品を作ってもらった時は、桜の触感が結構あとまで残ってしまって。それを会社の方で改良して下さって、すぐに溶けるようにして下さったり、工夫がいろいろあったのです。そういった思い入れのある飴がお祭りの時には当初予定の5倍くらい売れたんです。追加搬入、追加搬入してもらって大ヒットでした。思いが実現した喜びと売れた達成感、ダブルの嬉しさがありました。

思い入れのある、桜の塩漬け入りべっ甲飴

思い入れのある、桜の塩漬け入りべっ甲飴

 

 

 

<逆に今まででもっとも大変だった経験は?>

 

割合となんでも楽しめる私ですが、体力的にきつかったのは、冬に黄葉見酒祭りを靖国神社でやった時のことですかね。お酒の飲み比べのイベントなのですが、ずっと寒い中で立って、レジをしていたり、「飲みたかったお酒がないじゃないか」とクレームも入ってきて、くたくたでした。トイレにも行けないほどずっとレジをやっていたので、水分も控えていたせいもあり、その日は夜中に寝ていたら、こむら返りにあい、激痛で泣きそうになりましたね。

でも、辞めたいと思ったことは8年間やってきて一度もありません。仕事の9割以上は楽しく、自分には合っている仕事。いつもいい人に恵まれているというのももちろんあります。

 

 

 

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<観光協会職員の仕事の未来はどうなっていくと思いますか?>

当面はオリンピックがあるので、注目も期待もされていますよね。オリンピック以降のことを考えると、千代田区は今まで何もしなくても人が来る自治体でしたが、そこに胡坐をかかず、そうでなくなることも念頭に置いて動いていく必要があるとは思っています。

あとは外国人のお客様の80%は実は皇居に観光にいらっしゃるんですよね。だからこそ、皇居だけでなく、千代田区で観光やショッピング、食事をしてもらえるような、区が潤っていくための動線やしかけも考えなくてはいけないと考えています。そのためには表示なども外国語にしていかなくてはいけないですし、そういう意味ではこれからは英語や外国語が使える職員が求められると思います。もちろん外国語ができるからといって観光協会の職員が務まるわけではありませんが、外国語が使えるほうがよりいいことは間違いありません。

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<今の仕事と同じように向いていそうな仕事はありますか?>

接客、電話のオペレーター、歴史的なことを調べる仕事は向いていると思います。学生の頃は学芸員の資格もとっていましたし、調べるのはずっと飽きずにやっていられるとは思います。人の対応も得意ですし、飽きません。もちろん旅行代理店的な仕事、編集のような仕事、イベント運営的な仕事も向いているとは思いますが、それだけをずっとやるのはちょっと違うかなとも思います。今の仕事はそれらが幕の内弁当のように入っている仕事だから、本当に天職だなと感謝しています。

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キャリアカウンセラー舛廣純子の  シゴトのチカラ考察  .

 

ママ友である千代田区観光協会職員の渡辺美樹さんは、子供の学校で会うといつも忙しそうでした。毎年学校の委員(主に広報委員)を引き受け、カメラを持って構内を行ったり来たり…。あっちのママ友、こっちのママ友、知り合いやママの付き合いも幅広く、「エネルギッシュな人」-それが私の持つ美樹さんのイメージでした。

でも今回観光協会のお仕事のお話を聞いて、学校で見ていた美樹さんの忙しさ、パワフルさは、美樹さんのほんの一部でしかないことを実感しました。早口であふれんばかりに仕事の話をお話しして下さる美樹さんは、頭もフル回転。こういうプライベートも仕事もなんでも楽しんで処理していってしまう高速回転のマルチタスク能力とタフさが観光協会には必要なのだなというのは、今回のインタビューでお話を伺うまでは正直全く想像もつきませんでした。

自治体によってその忙しさは異なるとしても、観光協会が旅行×広告×イベント×出版×コールセンターと多様な業務の側面を持っていることは変わらないでしょう。「新卒ではきっとこううまくはできなかった」と美樹さんは言いました。よく主婦が持つチカラの一つにマルチタスク能力(同時進行で様々な仕事を成し遂げるチカラ)がありますが、美樹さんのマルチタスク能力もまさに主婦業や学校の役員を引き受ける中で磨きに磨かれました。子育ては待ったなし。自分のやりたいように子供は言うことなんて聞いてくれません。予測不能なこと、臨機応変に対応しなくてはいけないこと、いつも同時進行の家事・育児はタフに楽しまなくては到底やっていくことはできないでしょう。

加えて美樹さんは、子育てをしながらもどんどんHTMLやイラストレーターなど、新しい技術を学び吸収していきました。今の自分に枠をはめずに新たなことにどんどんチャレンジする好奇心や向上心、学ぶチカラがあったからこそ、観光協会でその力は開花し、守備範囲の広い対応力につながったのだと思います。思う存分に仕事ができない時も、今目の前のことを楽しんで、やれることをやれる限りやる―美樹さんの10年以上の専業主婦生活は美樹さんのキャリアの一部であり、大切な職業能力を形成してくれました。子育てや介護など、今思う存分に仕事ができない人にも、ぜひ読んでほしいインタビューです。

 

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(次回もお楽しみに。毎月1回、第4月曜更新になりました) =ーー

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 過去の舛廣純子さんの働きかたエッセイ 

TOOLS 13   自分を好きになるリフレーミング
TOOLS 19   後悔しない道の選び方(前編)
TOOLS 20  後悔しない道の選び方(後編)
 

舛廣さんってどんな人?

PEOPLE 04 舛廣純子(キャリアカウンセラー)
就職は子育ての最終章。就活生の親に読んで欲しい本を出版

 


舛廣純子

舛廣純子

ますひろ じゅんこ フリーランスキャリアカウンセラー。1972年、東京都出身。日本女子大学人間社会学部文化学科卒業後、化粧品商社に営業職として入社。会社の民事再生、自身の出産・育児を機に2 回の転職を経験。自らの転職経験からキャリア支援に関心を持つようになり、社会保険労務士、キャリアカウンセラーの資格を取得。2007 年、キャリアカウンセラー・講師として独立。大学生の就職支援・キャリア教育、社会人の転職支援・キャリア形成支援を中心に活動。支援学生の高い就職率とわかりやすいセミナーには定評がある。特技は長所探し。2013年12月に学研教育出版から『就活生に親が言ってはいけない言葉 言ってあげたい言葉』を出版。ブログ:http://ameblo.jp/shuukatsumamanoblog/