ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第31話】寝台特急は楽しい出会いの宝庫

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。最近は買い付け旅のノウハウ的なお話が続いたので、ここでちょっとひと息。袖すり合うも多生の縁、と言いますが、買い付け旅の魅力のひとつが「人との出会い」です。さまざまな場所でいろいろな人と出会ってきましたが、今回はベトナムを走る寝台列車のささやかな思い出をお届けします。
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第31話  寝台特急は楽しい出会いの宝庫 

 

こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。

最近は買い付け旅のノウハウ的なお話が続いたので、ここでちょっとひと息。

袖すり合うも多生の縁、と言いますが、買い付け旅の魅力のひとつが「人との出会い」です。さまざまな場所でいろいろな人と出会ってきましたが、今回はベトナムを走る寝台列車のささやかな思い出をお届けします。
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便利なバスが出来る前は
移動に片道10時間!

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ノマディックラフトの主要買い付け国のひとつがベトナムですが、中でもよく訪れるのが中国との国境近くにあるサパという町。山岳少数民族に出会える地域として、観光地としても人気がある場所です。数年前にようやく高速道路が完成し、ハノイからバスで約5時間と移動が便利になりましたが、それまでは深夜の寝台列車に乗って中国との国境の街・ラオカイまで約9時間。早朝のラオカイからサパまで乗り合いタクシーで約1時間かけて到着する、という決して楽ではない10時間の道のりを経て現地に向かうのが恒例でした。

列車の中で寝るのが前提なので出発時間は20時過ぎくらい。いつも駅の周りは人でいっぱいで、軽食の屋台なども出ているため、時間をつぶしながら発車時刻を待ちます。

列車の中で寝るのが前提なので出発時間は20時過ぎくらい。いつも駅の周りは人でいっぱいで、軽食の屋台なども出ているため、時間をつぶしながら発車時刻を待ちます。

 

 

寝台列車とひと口に言っても、どうやら日本のようにJRなど一つの鉄道会社が列車全体を管理する、というスタイルではないようで、車両ごとに違う会社の名前がついていて、部屋のグレードや料金も異なります。私たちが利用するのは、外国人向けのまあまあキレイな寝台車両。ひと部屋の定員は4人で、ドアを開けると左右に2段ベッドがひとつずつあるシンプルな造りです。必ず見知らぬ人と同室になるうえ、プライバシーを守るのはベッドについたカーテンのみ。しかしこの距離の近さが、偶然同じ車両に乗り合わせた “旅の道連れ” と、会話を生むきっかけになっています。

 

線路と段差のないホーム。列車はとても長く、ひとつの列車にいろいろな会社の車両がつながっているので、毎回自分たちの乗る車両を探すのに苦労します。

線路と段差のないホーム。列車はとても長く、ひとつの列車にいろいろな会社の車両がつながっているので、毎回自分たちの乗る車両を探すのに苦労します。

線路と段差のないホーム。列車はとても長く、ひとつの列車にいろいろな会社の車両がつながっているので、毎回自分たちの乗る車両を探すのに苦労します。

 

 

 

気さくな夫婦と酒盛り
「20年の関係性」に納得

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初めてラオカイ行きの寝台列車に乗ったとき、同室になったのはオーストラリアから来た40代くらいのご夫婦でした。部屋に入るなり「どこから来たの?」とすぐ話しかけてくれる気さくな人柄で、ご主人はセールスのお仕事、奥様は学校の先生。今回は、子どもたちが留守番できる年齢になったため、ようやく念願の夫婦旅行に来た、とのこと。

当時、店主とヨメはまだ同棲中の間柄。「君たちはご夫婦かい?」と聞かれ、「いえ、まだ結婚していませんが一緒に住んでいます」と答えると、ふたりは顔を見合わせて「いいねえ」とにっこり。そこでご主人、ぽんと膝を叩いて(こういうジェスチャーは万国共通です)「よし、ワインを飲もう!」とバッグからワインと紙コップを取り出しました。一滴も飲めない店主を差し置いて、以降はご夫婦+ヨメの酒盛りがスタート。

「その頃が一番ときめくのよねえ。今を楽しむのよ!」と奥様。「僕たちは大学時代の同級生で、もう20年も一緒にいるからさ。もう恥ずかしいことなんて何もないくらいお互いを知ってるんだ」とご主人。そのまま2時間は話をしていたでしょうか。ボトルが2本空いた頃には、三人ともいい具合にほろ酔いです。

突然、奥様がすっくと立ち上がり「私、眠くなったから寝る!」と宣言。「今日は一日中歩き通しだったし、疲れちゃった」と二段ベッドに昇ろうとしたのですが、はたと動きを止めてひと言。

「ここで靴を脱ぐのよね。私の足クサイかも。こんな狭い部屋で足が匂ったらイヤだわ」

すると突然、履いていたトレッキングシューズから足を引き抜き、ホカホカの脱ぎ立て生足をご主人の顔面に!

「どう?」

ご主人まったく動じることなく、片手で奥さんのかかとをつかんでクンクンと嗅ぎ「うん、まあクサイね。一日歩いた匂いがするよ」とにっこり。

あっけにとられる我々の顔を見たご主人は、「This is the 20years relationship(これがね、20年の関係ってやつ)」と肩をすくめて、可愛くウインク。ふたりの仲良しぶりに、なんだか心が癒されました。

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上品なベトナム婦人の
モーニングコールは豪快!

 

さて、寝台列車には外国人だけでなく、地元ベトナム人の利用者もいます。最安値のシートと比較すると、我々が乗る車両の値段は倍以上ですから、利用するのはある程度、生活に余裕がある人なのかもしれません。私たちが同室になったのも、60代くらいのヒゲを生やした上品な雰囲気の旦那様と、黒々としたロングヘアが美しい50代くらいの奥様。いかにも富裕層といった様子の中華系ベトナム人のご夫婦でした。

ベトナム語も中国語も話せない私たち×日本語も英語も話せないご夫婦。最初はお互い口を開くたび「???」となりましたが、諦めずに単語をつなげてなんとか挨拶をし、高原地帯であるサパに夫婦で避暑旅行を楽しみに行く、というところまではコミュニケーションが取れました。会社の経営者かな?などと想像してしまう、貫禄のあるご主人の後ろで、言葉が通じないのを気にしてか、奥様は終始控えめ。それでもニコニコしながら中国風のお菓子を勧めてくれたりと、いかにも良家のマダムという感じ。会話が弾むというところまではいきつかなかったものの、気持ちよくそれぞれのベッドに入りました。

その日の我々はハノイに朝便で到着し、一日中市内を動きまわって心身ともにヘトヘト。あっという間にぐっすり眠り込んでしまいました。どのくらい経ったでしょうか、夢うつつのヨメの耳になにやら女性の声が聞こえます。

「※△●×□◎、ラオカイ!」

ラオカイ、という単語だけは聞き取れたので「……着いたのかも……」と思ったものの、身体が重くて動けません。「……まだ寝ていたい……」と再び眠りの世界に戻りそうだったその瞬間、背中に「トゥ!」というするどい衝撃が!

「いて!」と飛び起きると、そこには向かいの二段ベッド上段から、すらりとした脚をこちらに伸ばし微笑むマダム。終点に着いたのに目覚めないのを心配してか、なんとマダムは私を起こすためにベッド越しに跳び蹴りをしてくれたらしく。

 

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おかげでパッチリ目が覚めましたが、まさか朝からキックが飛んでくるとは……。上品なワンピースに着替えてエレガントな微笑みと共に車両から出ていくマダムの跳び蹴り。貴重な体験でした。

 

 

 

 

「大切なものだと思ったから」
落とし物は…… ゴメン

 

バックパッカーの多い土地柄ですから、旅慣れた若者と同室になることも。荷物を引きずり、ようやく見つけた予約車両のトビラを開けると、中にいたのは金髪で日に焼けた肌のイケメン男子。二段ベッドの下段から、気さくそうな女の子がぴょこんと顔を出し「ハイ!」と挨拶をしてすぐに寝てしまいました。オーストラリアから来たという彼は、二週間前に仕事を辞めたばかり。次の仕事に就く前に世界中を旅しようと、彼女と一緒に半年掛けて各国をまわる予定なのだそう。

人懐っこいハンサム、という感じの彼はお話好きで、我々が少数民族の雑貨を買い付けに行く、と話すと「オーストラリアにもアボリジニという先住民族がいるから興味がある」とのこと。民族独自の文化や宗教観のことなど、会話に花が咲きました。

翌朝、ラオカイに列車が到着しても彼らはのんびりしていましたが、私たちは挨拶をして、先に車両を降りました。さて、乗り合いタクシーを探そうかとホームを歩き出したとき、後ろから「ヘイ!」と声が聞こえて、イケメンくんが私たちを追いかけてきました。

「待って!」と大きく手を振る彼は、何かを握りしめています。店主の前までやってきて、大きな手の平をそっと開くと、中にあったのは……「こびとづかん」のキーホルダー。ヨメが「キモカワイいから」というだけの理由で、ガチャガチャで取ってきたものを、店主がポーチかなにかに付けていたのが、ポロリと採れていたようです。

「大切なものだと思ったから」

そう言って彼は、白い歯をキラリとさせて微笑みました。大切そうに持ってきてくれた様子から察するに、少数民族つながりの、何かの守り神だと思ったのかもしれません。「なんか、ゴメン」という気持ちでしたが、店主はさも大切な物のように「ありがとう……」と受取り、がっちり熱い握手を交わしていました。

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しょうもない思い出ばかりですみません! でも、このささやかで人間らしい小さなご縁は決して嫌いではなく、むしろ旅の時間をキラキラと楽しさで彩ってくれる気がしています。

次回もちいさなお店からのお話をお届けしますね。どうぞお楽しみに!

 


(月1回 第4土曜日更新です)

 

 連載バックナンバー

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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
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木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/