何を言ってるのかよくわからなくて、頬を伝う涙を拭って聞き返した。ネネちゃんの『本当の目的はもっと他のところにある』という言葉の真意を。「それが何なのかまだわかってないでしょう? だから苦しいんだよね。やらなきゃいけないことがあるのに」
連載「旅って面白いの?」とは 【毎週水曜更新】 世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。 |
第34話 やっと全てがひとつに繋がったよ「さぁ、日本に帰ろう!」 <タイ>
TEXT & PHOTO 小林圭子
8ヶ月の旅の先に待っていたのは
魂が震えるほどの衝撃を伴う
ある女性との出会いだった
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『あぁ、この人に出会うために私は旅を続けてきたのかもしれない。全てはこの人に出会うための8ヶ月だったのかもしれない』
そう思えるほどに、彼女との出会いは私にとって大きなものだった。『魂が震える』という初めての感覚。このとき、アタマの中には混乱と驚きが、ココロの中には感動と喜びが広がっていくのを感じた。
これまでこのチェンマイの地にたどり着くまでに一体どれだけ多くの人に出会ってきただろう。日本を出て約8ヶ月。その歩みは自分でも思いがけずゆっくりで、オーストラリアと東南アジアの計9ヶ国を訪れるにとどまった。ありがたいことに、昔から人には恵まれることが多く、旅先でもいつもいろんな人に助けられ、支えられながらなんとかここまで進んできた。『旅は出会い』なんてよく言われるけれど、まさにそうだなぁ、と思う。ふとした拍子に数ヶ月前のことがパッと頭の中に蘇ってくることもよくあって、
「そういえば、あのパン屋のお姉さん、笑顔が素敵で優しかったなぁ。またあの店にパン買いに行きたいなぁ」
「あそこのホステルのお兄さん、今日も元気に頑張ってるかなぁ。きっと今頃、またお客さんとワイワイ騒いでるんだろうなぁ」
「あの街で出会ったあの彼は、今頃どこで何をしてるんだろう。またどこかで会えると良いな」
なんて思い返しては、ひとりでノスタルジックな気分に浸ってみたり。いろんな景色を見たり、いろんな文化に触れたり、いろんな料理を食べたりしてきたけれど、思い出されるのはいつも決まって時間を共に過ごした人たちの顏、顏、顏。そんな数えきれないほどの素敵な出会いの数々を超えて、『私のこの8ヶ月はこの人に出会うためのものだった』と思わされるほどの存在、それがネネちゃん(マッサージスクールの日本人スタッフ)だった。
ずっと考えてきた『旅の目的』と『使命』は
今後の長い旅路の先に見えるもの
.
「え、どういうこと??? 」
私はネネちゃんが何を言ってるのかよくわからなくて、頬を伝う涙を拭って聞き返した。ネネちゃんが言った『本当の目的はもっと他のところにある』という言葉の真意を。
「うーんとね、、なんかもっと大きな使命があるみたいなんだよねー。ケイちゃん、それが何なのかまだわかってないでしょう? だから苦しいんだよね。本当にやらなきゃいけないことがあるのに、それができていなくて、そこの間にギャップを感じているから。でもね、今はまだその使命についてはわからなくても良いみたいだよ。今後、旅の中で、長い時間をかけながらひとつひとつピース(欠片)を集めていって、だんだんそれが形になっていくから。必要な場所で必要な人に会って、その人たちからピースを受け取れるはずだから、焦らずこのまま進んで行けば大丈夫。ただ、その使命が大きければ大きいほど、必要なピースの数が多くなるから、きっとケイちゃんの使命がハッキリするまでにどうも2年くらいはかかるみたい。だから旅はできるだけ長く続けるのが良いと思うよ」
大きな使命…。そう言われても全くピンと来なかった。ただ、『世界中の人にインタビューをして世界をまわる』というのが自分の本当の目的じゃない、ってハッキリ言われたことに対しては変に納得感があったというか、あぁやっぱり… と何かがストンと腑に落ちるのを感じた。旅に出る前はあんなにヤル気満々だったハズなのに、旅に出てすぐにそのヤル気がみるみるなくなっていった。いろんな言い訳をつくりながら、もはやモチベーションを維持できなくなって、そんな自分の能力のなさに嫌気がさした。
自分でもなぜそんなふうになったのか正直わからなくてグルグル悪循環に陥ったこともあったけれど、ここで初めて『それはこの旅の中で、私がやることじゃないんだ』って思った途端、アタマもココロもスーッとクリアになって、肩の荷が下りていくのを感じた。
それにしても、ネネちゃんの目には一体何が映っているんだろう。彼女は私には到底感じ得ない不思議なチカラを持っているようだ。
「ネネちゃんにも私の使命が何なのか、わからないんだよね? 何か他にわかることある? 」
「うん、私にもその使命が何なのかハッキリとはわからないけれど、どうも歴史が関係してるみたいなんだよね。自分の使命に歴史が関係してる人ってそんなに多くはないからね。一体ケイちゃんの使命が何なのか、私もすごく興味あるよ。もし父方の家系図とか調べる機会があったら、ぜひ調べてみて。できればお祖父さんとか叔父さんとか、近しい人に話が聞けたら良いんだけど」
歴史に関係… か。確かに何やら話が大きくなってきた。そしてますます私の頭の中は「???」になったけれど、今はまだわからなくて良いって言ってくれてるし、まぁ、いっか。家系図を調べる機会なんてあるかわからないけれど、とりあえず頭の片隅にでも置いておこう。
「あとね、その使命が完全にわかったとき、ケイちゃんがすごく喜んでる姿が見えるよ。そんなケイちゃんを見て、ケイちゃんのまわりの人たちもすごく喜んでくれてるよ」
という、なんだかとても嬉しい言葉と、
「ケイちゃん、瞑想苦手でしょ? 苦手だと思うけれど、これから少しずつで良いから瞑想をやるようにしてみて。そしたらだんだんケイちゃん自身にもいろんなことがわかるようになってくるから。ここにいる間は私が手伝えるけれど、その後は自分でできるように… ね」
という、ちょっと難しい注文を出されて、この日は会話を終えた。
日本から届いた一通のメッセージ
不思議な夢を解読してみると…
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翌朝、目を覚まし携帯電話に目をやると、日本にいる知人からこれまた不思議なメッセージが届いていた。
「お、マサルさんからだ。珍しいな。なになに… 」
『一昨日、ケイちゃんの夢を見たよ。(以下、夢の内容)僕はケイちゃんと海外の薄暗い喫茶店で待ち合わせをしていて、あなたはあとからやってきた。入ってくるなり、お店の人にイスを替えてくれと言って、出てきたのがロッキングチェアー。それに揺られながらケイちゃんがひとこと、「もう疲れちゃって! 」と。お店の人と流暢な英語で話をしていて、僕はそれを見て、半年あまりでガンガン話ができるようになるのだなー、と感心していました。そのあと、お店の床に大きな穴が空いているんだけど、そこに顏を突っ込んでケイちゃんが何やら大きな声で叫んだかと思ったら、「あーすっきりしたー」とにこやかになっていました。』
(… ん? なんだこりゃ…? )
マサルさんは日本にいたときにいろいろとお世話になった方。だけど旅に出てからはそれほど頻繁にメッセージのやり取りはしていなかった。メッセージが来ただけでも多少の驚きがあったというのに、それ以上に、その内容にもまた驚かされた。起きたばかりで頭が働いていなかったこともあり、私はそのメッセージの意味が全く理解できなかった。だけど胸がざわついていることだけは自分でもわかった。昨日のネネちゃんとの会話と、その後タイミングを合わせたかのように届いた一通のメッセージ。これはきっと無関係じゃないはず。私は学校に着いて、ネネちゃんの手が空くのを見るやいなや、すぐに彼女のところに行ってこのメッセージを見せた。
「うーん、なんだろうね…。この人、スピリチュアルな人なの? 」
「いやー、たぶん違うと思う。そんな話、聞いたことないし… 」
「そうなんだ。でもこのメッセージはなんだかそんな感じだね。昨日話してたこととも少し重なるし。完全にはわからないけれど、キーワードを拾うとこういうことかな」
ネネちゃんがメッセージの意味を解読してくれた。
「『ロッキングチェア』はリラックスしたり、何か気を紛らわせようとしてる状態かな。『疲れている』のは旅の本当の目的や自分の使命がまだわかっておらず、今の状況との間にギャップがあるから。『流暢な英語』は環境に対する順応性の高さを。『穴に向かって叫んでいる』のはフラストレーションが溜まっている状態、を指してるんだと思う。この夢はまさに今のケイちゃんの状態を表しているんじゃないかな。おもしろいね」
少し前まで、次々にハプニングが起きたことで『一体、自分の身に何が起きているんだろう』と不安に感じていたけれど、徐々にその不安は別の感情に変わり始めていた。それは『一体、自分の身に何が起きているんだろう』という、同じ言葉で表される、だけどどこか客観性を含む好奇心のような。そして、いつの間にか、ケガをしたことも授業に参加できないことも、あんなに悶々としていたはずなのに、だんだん気にならなくなっていたのだった。
突然の弟子入り志願!?
「私、ネネちゃんの弟子になります」
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ネネちゃんと過ごす時間はとても穏やかで、だけどその中にいつもドキドキワクワクの感情が伴っていた。これまでの旅のこと、家族のこと、学生時代のこと、普通だったら話すのが躊躇われるようなネガティブな話ですら、不思議と気兼ねなく話せた。私にとっては、彼女と話す時間でありながら、同時に自分と向き合う時間でもあったのかもしれない。
そしてまた、彼女も同じように自分の家族のことや学生時代のことなどを話してくれた。なんとチェンマイに住む以前、彼女も2年ほど旅をしていたらしく、気に入った場所があれば数ヶ月住んでみる、という私とは異なるスタイルで、いくつかの街に滞在していたらしい。
「20代のときに自分の存在意義、アイデンティティが何なのかがわからなくなって、ひとりで悩んで、苦しくて、その答えを求めて旅に出た」って。
それはとても意外な言葉だった。こんなふうに話すようになるまでは、ネネちゃんに対して、「キレイでスタイルも良くて、いつもニコニコしていて誰にでも優しい、仕事ができるお姉さん」という、どこか遠い存在のように思えたけれど、こうして彼女が昔の悩みや弱さをさらけ出してくれたことで、一気に親近感を感じた。「あぁ、彼女にもそんな時代があったんだ… 」と。
それと同時に、みるみる彼女の魅力に引き込まれていった。何を見て、何を感じて、何を考えているのか。彼女の持つ視界、感情、思考をもっと知りたくなった。そこから何か自分に必要なものが学べる気がした。そしてここでの残された時間の中で、できるだけ多くのものを吸収したいと思い、
「私、ネネちゃんの弟子になる! 私にできることは何でもします!何でも手伝いますから!」
と急に言って、彼女を驚かせた。冷静に考えてみると、弟子になったところで足も不自由だし何の役にも立たないんだけど…。むしろ、さらに迷惑をかけるだけだけど…。
「あはは。いいよ、何もしなくて。でもできるだけ一緒に時間を過ごそう」
私のマヌケな申し出にも関わらず、その意図を汲んでくれたネネちゃんは、笑いながらそう言った。
言葉が持つパワーはやっぱりすごい!
ネネちゃんが扱う『言霊』のチカラ
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また、ネネちゃんの言葉には不思議なチカラがあった。
ある日、私が田村由美さんの『BASARA』という漫画について話をしたときのこと。この漫画、私が高校2年生のときにクラスの女子の間ですごく流行っていて、普段、私は少女漫画を読むことはほとんどなかったけれど、あまりにみんなが「おもしろい、おもしろい」と夢中になって読んでいるものだから、「そんなにおもしろいならちょっと読んでみようかな」と友人たちが回し読みしているのを借りて読んでみた。すると、なんとまぁ、これが予想以上にめちゃくちゃおもしろいではないか!
ストーリーはひとことで言うと、歴史的要素を含む仮想戦記で、敵味方関係なく、全ての登場人物がすごく魅力的に描かれている。読み始めてすぐにハマってしまった私は、毎日のように1巻、2巻、3巻… と友人に借りては次々に読み進めていった。その漫画の中で、私は特に『揚羽(アゲハ)』というキャラクターが好きだった。
彼は普段は旅芸人集団に身を寄せ、踊り子として日本全国を巡業で転々としているんだけど、主人公や彼の仲間がピンチのときにはどこからともなく現れ、かっこよく仲間を助けたかと思ったら、またすぐにどこかに行ってしまう、まさに風のような男。全国にネットワークが広く、フットワークも軽く、頭が切れて腕も良い。当時、高校生だった私は「あぁ、こういう人になりたいな」と思ったのだった。そして、その後この漫画を読み返すことは一度もなかったけれど、なぜかずっと頭に残っていて、ネネちゃんにその話をしたのだ。
「私、『BASARA』っていう漫画の『揚羽』がすごく好きで、今でも時々、こんな生き方がしたいな、って思うんだよね」
30歳をとっくに過ぎたイイ歳の大人からこう言われて、普通なら何て答えるだろう。もし漫画を知らない場合、私だったら、「へー。その漫画、読んだことないから、読んでみようかな」とかって無難に答えるかな。
もし漫画を読んだことがあったとしたら、「あ、『揚羽』カッコいいよねー!私も好きー!」って同意するか、「『揚羽』も良いけど、私はこっちの方が好きかなー」って他のキャラクターを挙げるか、まぁいずれにせよ適当に返事するんじゃないかと思う。そしてこのときも私はそういう返事が来るんだと勝手に思っていた。別にそれで良かった。
だけど、そんな私の予想に反して、ネネちゃんはなんと
「じゃあ、今、ケイちゃんはその『揚羽』に向かって進んでるんだね」
と言ったのだ。
「…… 」
その言葉を聞いて、今度は逆に私の方が何も言えなくなってしまった。そしてこう思った。
(この人、やっぱりすごいな… )
何がすごいのか説明はすごく難しいんだけど、ネネちゃんにそう言われた私は、
(そう… なのかな…。もしかしたらそうなのかもしれない… )
と素直に思わされてしまっていた。
また別のある日のこと。このときは私がいかに絵心が無いかについて話をしていた。
「全然覚えてないんだけど、私が幼稚園生だったとき、授業で描いた絵が親子参観で教室に張り出されていたんだって。うちの母が私の絵を見て『あれ、何も描かれてない。なんで白紙なんだろう』と思って、よーく見てみたら、大きな白い画用紙の右下の方にピンク色のクレヨンでちっちゃく『○(マル)』がひとつ描かれてて。そしてその絵の題名はなんと『ウサギ』。それを見て母が絶句しているところに幼稚園の先生がやってきて、『お母さん、ショックを受けるかなと思ったんですけど、ケイコちゃんの絵だけ張り出さないのもおかしいので、とりあえず張り出しました。すみません』と申し訳なさそうに言われて、もーめちゃくちゃ恥ずかしい想いをしたって。いまだにお母さんとその話をしては、2人で大笑いするんだよー」
と、この話を笑い話として私は紹介したつもりだったのに、
「へー、おもしろいね! ケイちゃん、アートなセンスあるんじゃない? 旅の中で絵とか描いてみたら良いかもしれないね」
とネネちゃんは言ったのだ。それを聞いて、またまた私は言葉を失った。そしてまたまたこう思った。
(そう… なのかな…。もしかしたらそうなのかもしれない… )
いやいや、冷静に考えるとそんなワケないんだけど。中学のときは美術の成績が一番悪かったくらい、絵を描くのは苦手だったし、高校ではそんな苦手意識から美術の授業は選択しなかった。だけどネネちゃんの言葉には不思議なチカラがあって、彼女がそう言うと、不思議と本当にそう思わされてしまうのだった。
ようやくわかったメッセージの意味
3つのハプニングは全て
『日本に帰れ』と言っていたんだ!
.
自分の中の価値観がグラグラになっていた、そんなある日のこと。
「日本に帰ろうかな… 」
それまでただの一度も日本に帰ろうと思ったことなんて無かったのに、自分でも驚くほど自然に、なぜかふと急にそう思った。そしてそう思った瞬間、3つのハプニングが持つメッセージの意味が初めてバチッと繋がった。
足をケガしたときは「これって、もう少し長くチェンマイに留まれってことなのかなぁ。このあと、ここで誰か大切な人に出会うのかもしれないな」なんて思っていたんだけれど、それだけだと、銀歯が取れたことと、クレジットカードを失くしたことの説明がつかなかった。だけど、まさか銀歯が取れたくらいで「おぉ、帰国せねば! 」と思う旅人はなかなかいないし、実際私もその考えには至らなかった。さらに足をケガしてもまだ「日本に帰って治療しよう」とは思わなかった。クレジットカードを失くしてもすぐには気がつかず、「あれ、なんだかおかしいな」と思うところで止まっていた。
だけど、そうか、そうだったんだ。この3つのハプニングはそれぞれ『日本に帰れ』って意味を持っていたのか…。そういえば、マッサージ学校の同期メンバーの中に、みんなから『兄貴』と慕われている、ちょっと年上の男性がいたんだけど、私が足をケガして以来、兄貴は私の顏を見るたびに、
「自分な、ホンマ一回、日本に帰った方がええで。絶対無理したらあかんで」
と、口うるさく言ってきていた。その言葉がいつの間にか毎日の挨拶のようになっていて、私はそう言われるたびに
(また言ってるよ…。もううるさいなぁ… )
と思いつつ、
「あー、そうですかねー。もう少し様子をみて、もし治らなさそうだったら帰国することも考えてみますー」
なんて、その気もないくせに、適当に返事をしていた。彼の言葉をもっとちゃんと受け取っていたら、ハプニングの意味にももっと早くたどり着けたのかもしれないのに。
さて、そうとわかったら善は急げ。なんだけど、このとき私は自分の考えが本当に正しいのかどうか判断しかねていた。これまで日本を出てからなんとなく西向きに動いてきたのに、ここでいきなり東に向きを変えても良いのか、とか普段は方角なんて全く気にしないくせに、変に過敏になっていた。
「そうだ、ネネちゃんに相談しよう」
『自分を信じて前に進め』
決意新たに、いざ日本へ!
.
私は急いでネネちゃんのところに行った。
「ネネちゃん、ネネちゃん、私、いったん日本に帰ろうと思うんだけど、どうかな? 」
そんなこと言われても、ネネちゃんだって困るに違いない。だけど、少し驚きの表情を浮かべた後で、彼女は3秒ほどじっと私の顏を見つめ、
「うん、良いと思う。リフレッシュして、また新たな気持ちで再出発できるんじゃないかな」
と言ってくれた。そうと決まれば、その後の私の行動は早かった。日本行きの安い飛行機を調べ、すぐにチケットを予約した。お母さんに電話して、帰国する旨を伝えた。足のケガのせいで重いバックパックを背負うことができなかったので、荷物の大半を段ボールに詰め、日本に送った。そして足の裏の抜糸を無事に終えた私の気持ちは、完全に日本に向かっていた。
出発の直前、本当にいろいろお世話になったネネちゃんから最後に言われた言葉。
「ケイちゃん、これからの旅もきっとツラくてしんどいものになると思う。ケイちゃんの使命が大きければ大きいほど、それを邪魔しようとしてくるチカラも大きくて、ケイちゃんはそれと常にひとりで戦わないといけないから。だけど絶対乗り越えられると思うから、自分を信じて前を向いて進んでいってね」
ネネちゃんには多くのことを教えてもらったけれど、彼女が私に一番伝えたかったことはきっと『常に自分を信じて、自分が正しいと思う道を進んでいけ』ってことなんだと思う。旅がうまく進まなくなるにつれて、私はだんだん自分のことが信じられなくなっていた。そんな私に一番必要だったのは、そう、『自分を信じる』気持ち。現状は何も変わっていないけれど、もう大丈夫。覚悟はできた。そんな強い決意を新たに、私は8ヶ月ぶりに帰国の途についた。
【写真でふりかえる タイ 】
(次回もお楽しみに。毎週水曜更新目標です 旅の状況によりズレることもございます… )
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第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
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