ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第13話】お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。

ちいさなお店をはじめたこと。

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大変ありがたいことに「ここは何のお店なんですか?」と足を止めてくださる方も増え、なかにはお買い物をしてくださる方まで。ちいさなお店に、ささやかで温かなにぎわいが生まれました。きっかけは新たに加わった看板犬レラの存在でした。

第13話 お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。

 

こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。

「商売は万人受けすることより、ニッチな路線を狙え」なんて言葉を目にすることがありますが、そういう意味で「少数民族の手仕事を扱うちいさなアトリエショップ」であるノマディックラフトは、良くも悪くもニッチ路線。しかも住宅街の中にあるので、お店に来てくださるお客様には「前から気になっていたけど、入る勇気がなかなかなくて」なんて言われることも珍しくありません。

しかしここ数か月、着実に来客が増え、新しい出会いがどんどん広がっている手応えを感じています。きっかけは新たに加わった店の仲間、看板犬レラの存在でした。

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偶然の出会いでやってきた仔犬

実はオープン当初から、ノマディックラフトには犬がおりました。ロングコートチワワのマグロさんです(なんでその名前? とよく聞かれるのですが、誰もに愛される名前にしようと思いまして)。ヨメが独身時代から飼っていた犬で、お店がオープンした当初はすでに16歳のご老体。レジのあるカウンターの奥でごろりと寝ていただけなので、気づかない方がほとんどだったと思います。

18歳を目前にあの世へと旅立っていったマグロさん。長生きしてくれたせいもあり、心にぽっかりと穴が空いたような心地で、その後は夫婦ともどもしばらく新たに犬を迎える気分にはなれずにいました。

2013年春、ノマディックラフトのFacebookページに登場したマグロさん。あの世に旅立ったのは同年秋のことでした。

2013年春、ノマディックラフトのFacebookページに登場したマグロさん。あの世に旅立ったのは同年秋のことでした。

そんなある日、東京・青山にある国連大学前で週末開催されている『ファーマーズマーケット』に遊びに行きました。おいしそうな野菜やフルーツの出店に混じって、目についたのが保護犬(保健所やブリーダー崩壊の現場から助け出された犬)のブースでした。実はその少し前から「次にまた犬を迎えるなら保護犬にしようか」と話しており、休日を利用して保護犬の里親を募集する会などにちょくちょく足を運んでいたのです。しかし一度飼い始めたらまた10数年面倒をみる責任があります。例の「心ぽっかり感」もなかなか埋まらず、今ひとつ心を決めかねている状況でした。

「せっかくブースがあることだし、覗くだけ覗いてみようか」と、ふらりと立ち寄ったところ、不思議に落ち着いた雰囲気の虎毛の仔犬がいたのです。それがレラとの出会いでした。なんとも説明しがたいのですが、ピンと来た、というのが一番近い感覚。トライアル期間を経て、家族に迎えるご縁となりました。

 

我が家に来てすぐのレラ。保健所にいたため生まれた時期ははっきりしませんが、当時の推定で生後4ヵ月。当連載「ちいさなお店をはじめたこと。」のタイトル画像に写っているのもこの頃です。

我が家に来てすぐのレラ。保健所にいたため生まれた時期ははっきりしませんが、当時の推定で生後4ヵ月。当連載「ちいさなお店をはじめたこと。」のタイトル画像に写っているのもこの頃です。

 

優しいけどビビリのレラ
店頭に出してみたところ…

仔犬のうちは店の奥でころころと走りまわっていたレラですが、大きくなるのは本当にあっという間。すぐに奥のスペースでは手狭になってきました。とはいえ、お店のなかで放し飼いをするのは、犬が苦手なお客様を怖がらせてもいけませんし、抜け毛が商品についたりするのもよろしくありません。そこで、店頭のウッドデッキにレラのスペースを作り、オープン中はつないでおくことにしたのです。

唸るなど攻撃的なところはいまだに一度も見たことがないほど、もともとの性格は穏やか。その反面かなりのビビリさんで、最初は人や車が通るだけでビクビクと奥に引っ込んでいました。そこで、店頭にこんな貼り紙を出してみることにしました。

しゃべれないレラの代わりに自己紹介。そんな気軽な気持ちで貼ったこの紙が意外な功を奏しました。

しゃべれないレラの代わりに自己紹介。そんな気軽な気持ちで貼ったこの紙が意外な功を奏しました。

レラをデッキに出して二週間ほど経った頃でしょうか。お店の前で足を止めて、レラに声をかけてくれる方がひとり、ふたりと日に日に増えていったのです。とはいえ、怖がって店の奥に入ってしまう愛想のない犬です。せっかくのお気持ちにも犬の反応が悪くてすみません… と思っていたのですが、通るたびに根気よく声かけをしてくれる人がこんなにも多いとは。店主も私も驚いてしまいました。

「犬を飼いたいけど、マンションの都合で飼えないから、ここでレラちゃんに会うのが楽しみ」と言ってくださる方。犬の散歩のたびに立ち寄ってレラと愛犬を遊ばせてくれる方。保護犬に興味があり「飼ってみてどうですか? 」と聞いてくださる方。レラをきっかけに、たくさんの方とお話しする機会が増えました。大変ありがたいことに「ここは何のお店なんですか? 」と足を止めてくださる方も増え、なかにはお買い物をしてくださる方まで。ちいさなお店に、ささやかで温かなにぎわいが生まれました。

なかなか外に出られず、声をかけられると少し中に引っこんでいた頃。それでも根気よく接してくれる方たちのおかげで、少しずつ心を開いていきました。

なかなか外に出られず、声をかけられると少し中に引っこんでいた頃。それでも根気よく接してくれる方たちのおかげで、少しずつ心を開いていきました。

 

レラもいろんな方たちに声をかけていただくうち、どんどん人に慣れ、お店の奥に逃げこむこともなくなりました。今はむしろ、構ってくれる人が通るのを楽しみに待つようになったほどです。

 

イベントにも一緒に参加
文字どおり看板犬

築地本願寺の『安穏朝市』、上野の『テラデマルシェ』、川崎の『ベジ&フォーク』など、犬を連れて参加OKというイベントにはレラを連れて出店しています。先日の『ベジ&フォーク』では

「前に『テラデマルシェ』に出ていましたよね? このワンちゃん覚えてます! 」

と声をかけてくださったお客様もいました。

店奥ではなく店の前にレラをつなぐにあたり、正直なところ「犬が苦手な人もいるし、ゆっくりお買い物できなかったらどうしよう」「通行人の方にご迷惑だろうか」という不安がなかったわけではありません。お店をやっている以上「いやがられるかもしれない」という要素があると、やっぱり心配になるものです。それでも店主と「私たちは犬が好きなのだから、そういうスタイルでやってみよう」と話し合った結果、自分たちで思っていた以上に前向きな反応が返ってきた、と驚き感動しています。

最近は、近所の子どもたちがレラに会いに来てくれるようになりました。ひとりでやってきて、デッキにレラと並んで座り、背中をなでながら静かに過ごしている子。お友だちと一緒にグループでやってきて「お手! 」「おすわり! 」とコミュニケーションを楽しんでいる子。そういう姿を見るのも微笑ましく、幸せな瞬間です。

少数民族の手仕事を素晴らしいと思う気持ちと、人間と動物が仲良く暮らすのはステキだと思う気持ち。両方とも同じ根っこでつながっている、というのが私たちの感覚です。ちいさなお店だからこその大切な個性として、レラの存在が輝きを足してくれているような気がしてなりません。

『安穏朝市』にて。すっかり接客上手な看板犬です。

『安穏朝市』にて。すっかり接客上手な看板犬です。

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余談ですが、レラとその兄妹は、飼い主自らが「いらない」と生後2カ月くらいの段階で茨城の保健所に持ち込まれたそうです。それが保護団体さんに助け出されたおかげで、縁あって我が家に来ました。一度はいらないと命を落としかけた犬が、立派な看板犬として私たちに新しいつながりを作ってくれる存在になった。そう思うと、なんだか胸がじんとします。

今回は犬に寄ったお話になってしまいましたが、言いたかったのは「ちいさなお店こそ、自分たちの信じたことをどーんとやってみよう!」という点だと思っていただければ!

次回もまたちいさなお店のお話をお届けしますね。どうぞお楽しみに。

 

 ノマディックラフトのイベント出店情報 

安穏朝市
@東京中央区・築地本願寺前広場
12月20日(日)  9~15時
詳細は http://annon-asaichi.blogspot.jp
毎月1度、本願寺さんの広場で開かれる暮らしの温もりや匂いを感じる素朴な朝市です。採れたての産直野菜から暮らしの雑貨までが揃います。私たちも看板犬レラと一緒に、ゆるゆると出店中。築地の場外市場からも歩いてすぐ。気持ちいい休日の朝、ぜひ足をお運びください。

 

(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)
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 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>(2015.11.14)

 


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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/