ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第7話】モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語

ちいさなお店をはじめたこと。

sasamoto_s「やばい! 見つけたかも! 」思わず叫んだヨメ。店主も無言のまま、笑顔でうなづきます。テントにいたのは、私たちより少し若いかな? というご夫婦。奥様に向かって「日本から買付けに来ていて、少数民族の美しい手仕事を探していたんですよ。ステキなものばかりですね! 」

 第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語  

 

こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。

夏のイベントが続いておりましたが、ようやくひと段落。

8月30日の『おちあい公園ピースフェス』(新宿区中井)では、「連載読んでます! 」とお声がけいただいた方がいてホント感激いたしました!

まだまだ発展途上である店主とヨメの話を、楽しみにしてくださる人がいる。それだけで大きな励みをいただいています。

撮影/丸山翔 『おちあい公園ピースフェス』にて。絵本作家さんが子どもたちにフェイスペインティングをするブースや、ベジタリアンフードの屋台など、個性豊かな出店者が集まった小さいながらも楽しいお祭りでした。また来年も楽しみにしています!

撮影/丸山翔 『おちあい公園ピースフェス』にて。絵本作家さんが子どもたちにフェイスペインティングをするブースや、ベジタリアンフードの屋台など、個性豊かな出店者が集まった小さいながらも楽しいお祭りでした。また来年も楽しみにしています!

 

 

今回は、私たちが愛する美しい手仕事を生み出す、少数民族の女性たちのことを少しお話ししたいと思います。

こちらのウォレットは、今年の春チェンマイに買付けに行ったときに出会ったデザイナー、トンプアさんがモン族の刺繍古布をリメイクして作っているものです。後の段落で述べますが、彼女を見つけたのは週末のナイトマーケット。ありがたい出会いが、こんなにステキな商品をノマディックラフトにもたらしてくれました。

赤モン族、黒モン族など、モン族のなかでも衣装や言語による違いがありますが、こちらで使われているのは白モン族の刺繍。布の上に糸を置いて、ぐるぐると渦をまく模様の形になるように、ひと針ずつ手作業で縫いとじていく、という大変細かな手法です。さらに渦巻き模様のまわりに、色とりどりの糸で飾りの刺繍も加えているのですから、完成までにどれだけの時間と手間がかかったことでしょうか。

繊細で美しい伝統の刺繍が施された作品

細部にわたり刺し手の美意識と手仕事の歳月が感じられる

 

 

 

 モン族のデザイナーが 抱える想いに触れて 

  

「私もモン族ですが、こんな細かい刺繍はとてもじゃないけどできません」

そう笑って話してくれた彼女は、山岳地帯でなく街育ち。モン族のなかでは都会っこですが、山に住んでいる親戚やいとこの所へは、よく遊びに行っていたのだそうです。古布をリメイクして雑貨を作るようになったのは、大人になるにつれ、自分のルーツを意識するようになったから。

「モン族の文化を大事にしたい、無くしちゃいけない、という思いが強くなってきたんです。でも、山に住んで昔ながらの生活をしていると、そういう気持ちにはならないみたい。伝統的な文化や生活がイヤ、という人もいます。私はモン語が話せるけれど、言葉も少しずつ消えていっているのを感じます。いまは年下のいとこたちにモン語で話しかけても、タイ語で返事をするくらい。若い子はあまりモン語を話したがらないんですよね」

雑貨を作って販売するのは、モン族の手仕事の美しさをいろいろな人に知ってもらうためのきっかけ。そしてなによりモン族の人たちにも、その価値に気づいてほしかったのだそう。

「この美しい刺繍は、アートと呼んでいいと私は思っているんですけど、日本人のあなたはどう思いますか?」

古いモン族の布をデータ化し、機械刺繍で大量生産したバッグや小物が「モン族の刺繍」として出まわっている現状に、彼女は心を痛めていました。

「私たちも、この素晴らしい刺繍は芸術として価値があると思うし、だからいろんな人に紹介したいと思っています。こんなに細かな刺繍が人の手で生み出されているなんて本当に感動しちゃう!」

「ですよね! そう言ってくれて嬉しい!」

昨日会ったばかりの私たちは、そうやって笑い合いました。

 

 チェンマイの ナイトマーケットでの出会い 

さて、このトンプアさんとの出会いですが、私たちがチェンマイに来た目的のひとつには、少数民族の刺繍や織を使って、新しい作品を生み出している現地の作家さんと出会いたい、という思いがありました。チェンマイ市内では毎週末、大きなウィークエンドマーケットが開かれ、作家もたくさんやってくるので、そこに行けば出会えるかもしれない。そう教えてくれた方がいて、店主とヨメは夜のマーケットに繰り出しました。夕方から少しずつ集まり始める露店は、日が落ちるにつれその数を増し、路傍には土産物から食品、雑貨までありとあらゆる品々が並びます。

にぎわうチェンマイの夜市

 

それにしても本当に広いんです、このマーケット。歩けども歩けども終わりが見えない、さながら買い物の無限地獄。ここからここまでは食品ゾーン… なんて、親切な並び方はもちろんしているはずもなし。フルーツの生搾りジュースを売っている脇にエスニックな木彫りの像が並び、その横では70年代ヒッピーさながらのベルボトムにフリンジ付きの革ベストを着たお兄さんが、ブルーシートを広げて自作の革製品を売っていたり。真っ黒なティアドロップのサングラスをかけた彼が(夜です)、タバコをくゆらすその姿を見ていると、「えーと、どこの国に来てるんだっけ? 」と一瞬分からなくなるような混沌。

なんかいろいろグッチャグチャで、歩いているとホント楽しいのですが、知らない食べ物の強烈スパイス臭に驚いたり、チェンマイのイメージとはかけ離れた超サイバーな服に口あんぐりしたり、気を取られる要素が無数に散りばめられすぎ。 「私たちは! いま! 少数民族のテイストを持った作家を! 探しているのです! 」と常に気を張っていないと、集中力が持ちません。

こんな無数の屋台やテントの中から、好みに合った作家を探すなんて、針の山から一本を探すカンジなんですけど…。わざわざチェンマイまで来たけれど、これは夢叶わずかもしれない。 「作家さん、いるかなあ… 」と店主に話しかけてみたものの「…どうだろうね… 」と生返事。でも生返事したくなるようなこの状況。

しかし、神様っているんですね。すっかり脱力感に襲われている店主とヨメの目の前に、なんだか小さいけれどもステキなテントが見えてきました。不思議なもので嗅覚というのでしょうか、商品のディテールまでは見えないのに「なんかいいぞ」オーラが出ています。足早に駆け寄ってみると、並んでいる品々はモン族の刺繍を用いたリメイクのポーチやバッグ。市場によくある土産物とはパッと見からして違い、布のセレクトや配色ひとつとっても、丁寧に選んでいる感じがにじみ出ています。

「やばい! 見つけたかも! 」

思わず叫んだヨメ。店主も無言のまま、笑顔でうなづきます。 テントにいたのは、私たちより少し若いかな? というご夫婦。奥様に向かって

「日本から買付けに来ていて、少数民族の美しい手仕事を探していたんですよ。ステキなものばかりですね! 」

と伝えると、とっても嬉しそうな笑顔。そう。彼女がトンプアさんでした。夢中で商品を見まくる私たちに対し

「今日持ってきていないアイテムもあるから、よかったらお店に来ませんか」

とのお言葉。まさに願ったり叶ったり。ふたつ返事で

「明日お邪魔します!」となったわけです。

 

 美しい刺繍の世界は 日常の辛さから 女性たちを自由にする 

トンプアさんとお話しし、ヨメの心にずっと残っていることがあります。

「これは私が感じている、個人的な意見なんですけど」

そう前置きしてから、彼女はこう言いました。

「この美しい刺繍が生まれてきたのは、それだけモン族の女性たちの暮らしが辛かったからだと思うんです」

「え? 」

意外な話の展開に、思わず言葉に詰まります。

モノづくりに没頭することで日常のつらさを忘れる、手仕事のもう一つの役割

「モン族の女性たち、特に昔の女の人は本当に大変。男性は農作業が終われば休めるけれど、女性は昼間同じだけ働いた後、料理も作って、子どもや老人の面倒もみて。そんな合間に刺繍するのは大変なようですけど、実は細かい刺繍に没頭する時間が、日常の辛さを忘れさせる役割をしていたんじゃないかなって。毎日少しずつ刺しても、完成まで数年かかることもあります。それでも『私の手がこんなに美しい世界を生み出してる』と眺め、愛おしむことが大切な安らぎであり、チクチクと針を動かす行為が心を無にするメディテーションの役割もしていたんじゃないかと感じるんです」

店主もヨメも刺繍をするのが好きなので、トンプアさんが「メディテーション」と呼んだ、無心に針仕事に取り組んでいると頭の中の雑音が落ち着いて平和になってくる感覚はよく理解できます。 それでも、今まで「きれいだなあ、すごいなあ」とだけ見つめていた息をのむほど細かく美しい刺繍の美の源が、様々なため息や涙であり、同時に癒しなのかもしれないとは。

彼女の話が真実なのかどうかは、私たちにはまだ分からないけれど、ひと針ひと針のステッチが切なく、さらに愛おしく見えてきました。

「モン族の手仕事、大切にお預かりして、日本の人に届けますね」

そう話して、私たちはみんなで握手しました。 (了)

 

 ノマディックラフトのイベント出店情報 

安穏朝市 
@東京中央区・築地本願寺前広場
9月20日(日)9~15時
詳細は  http://annon-asaichi.blogspot.jp
毎月1度、本願寺さんの広場で開かれる暮らしの温もりや匂いを感じる素朴な朝市です。採れたての産直野菜から暮らしの雑貨までが揃います。私たちも看板犬レラと一緒に、ゆるゆると出店中。築地の場外市場からも歩いてすぐ。気持ちいい休日の朝、ぜひ足をお運びください。

 

(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)
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 連載バックナンバー 

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)

 

 

オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話
【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい! 

 

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/