飛んでみなけりゃはじまらない! 【第5話】 文化性が経済性よりもはるかに上にあった話 – back to the future ってこういうこと?-

飛んでみなけりゃはじまらない!

大祭りには「マニュアル」や「指導書」が一切ないんだそうな。そういったものがないからこそ、お年寄りから若者までが寄り合って相談し、わからないことは長老に聞き、それでもわからない場合はみんなで「これだ」と決めて進む。これが大祭りの役割(であり醍醐味)なのだ。

連載「飛んでみなけりゃはじまらない!」とは  【隔月に1本更新】

島の教育から日本を明るくするための、初めての離島暮らし奮闘記。大野佳祐さんは、早稲田大学職員の仕事を辞めました。35歳。その安定、恵まれた給料、社会的信用を手放してまで、何かやりたいことがあったのでしょうか。「いえ、具体的に次の道が決まっていたわけではありません」大野さんは笑います。仕事も楽しかったし、周囲からも期待されていてやりがいもあったそう。それでも新しい自分の道を進む選択をしたところ、導かれた先は、なんと離島。「離島の学校から日本の教育の未来を一緒に創らないか」海士町のキーマンの方々から声をかけられ、一緒に頑張ることになったのです。この連載では、東京生まれ東京育ちの大野さんの、海士町での新しい暮らしについて、いろいろ教えてもらおうと思います。島で起きていることは私たちにとっても他人事ではありません。この先、私たちが楽しく生きていくヒントが島にこそありそうな気がしてならないのです。

 

第5話 文化性経済性よりもはるかに上にあった話  – back to the futureってこういうこと?- 

 

TEXT & PHOTO 大野佳祐

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こちら、夏真っ盛りでして、海に祭りに(そして仕事に)大忙しでございます。
今回は、地区の13年ぶり(!)の大祭りに参加して「back to the future」を体験したお話しを。

 

てびしって何すか?」からはじまった大祭りへの参加
そして、本番まで時間がないことへの焦り…

僕のいる海士町は地区ごとに神社があり、大祭りがあります。菱浦という地区では2年に1回、東という地区では4年に1回と決められている地区もあるのですが、僕の住んでいる福井という地区ではとくに決められておらず、なんと13年ぶりの開催となりました。(そんな時期に引っ越すというのもまたラッキーな話ではあります。ありがたやー。)

引っ越しをして間もない僕は、神輿の担ぎ手くらいで参加できたらいいなぁと考えておりましたが、引っ越しのご挨拶で区長宅に伺った際に

「お! 大野君、待ってたよ。大祭りの件だけど、笛がいい? それとも手拍子(てびし)? 」
「え? 笛なんて無理です! 手拍子(てびし)って何ですか?! いやでも笛は絶対に無理です! 」

そんなやりとりがありまして、まさかの楽士(手拍子)と相成りました。

 

練習は若者もおっちゃんも寄り合って、本気。

練習は若者もおっちゃんも寄り合って、本気。

 

僕が引っ越したのは5月中旬でしたが、他の楽士の皆さんは4月上旬から週3回も練習しているとのことで、だいぶ焦りつつも練習に参加しはじめたのが6月はじめ。1ヶ月半で猛烈に練習しなければなりません。焦った僕は楽士の指導者さんに

「手拍子の音源とかないですか? 」と聞いたところ、
「ない」とのこと。

後日渡されたCDは13年前の大祭りのビデオの音源をCDに収めたもので、ほとんど聞き取れませんでした(笑)。

 

 

大祭りの役割を教えていただいて気づいた素敵なこと
わからない」は年齢・立場に関係なく寄り合って決める

あとで聞いてわかったことなのですが、大祭りには「マニュアル」や「指導書」が一切ないんだそうな。そういったものがないからこそ、お年寄りから若者までが寄り合って相談し、わからないことは長老に聞き、それでもわからない場合はみんなで「これだ」と決めて進む。これが大祭りの役割(であり醍醐味)なのだ、ということを教えていただきました。

だから、個人練習でなんとか追いつこうと抜け駆けするよりも、練習にきちんと参加しなさい、と。週に3回19時半に集まる大変さよ! と思うところもありましたが、なるべく時間をつくり、参加することに。でも参加してみると本当にいろいろなことがわかるようになりました。当たり前と言えば当たり前なのですが、「わからないことを共有する」ことの重要性が際立つわけです。「あ、そこ俺も曖昧にしてたわ」みたいに。徐々に共有知が集団に残っていくし、そのことをしっかり覚えている。不思議だけども。

毎回、練習の終わりにはビールとつまみが出され、飲むことになります。最初の頃は「おとといもこのメンバーで飲んだよねー」と思っていたところもなきにしもあらずですが、普段交流することのない世代間の交流が進んだり、13年前の思い出話があったり、そこで共有される想いなどが随所に詰まっているんですよね。練習では共有されないコツや大事なこともその飲み会で共有されたりして(笑)。

 

大祭り直前の神社清掃も当然みんな総出で。

大祭り直前の神社清掃も当然みんな総出で。

 

 

経済性』よりも『文化性』が上にくるはじめての体験。
懐かしい未来」と呼べるかもしれない新しい余白

 

効率化や経済性よりも『文化性』がはるかに上にある、というのははじめての体験でした。

サラリーマン時代には何よりも「マニュアル」をつくり、誰かがつくった「マニュアル」に沿うことが求められました。でも、効率化や経済性を考えれば、マニュアルというのは悪ではなく、むしろ善ですらあります。そうして僕はいつの間にか『経済性』に重きを置いて、投資に対する回収スピードをいかに速めるかとか、「スゴい会議」みたいな本を読んで実際に立ったままでの会議を20分で終えてみるとか、そういうことが『最先端』で『最優先』だと思っておりました。その価値観で見ると、週に3回も同じメンバーで飲むなんてのは「超非効率」なわけで。

でも、大祭りで感じた『文化性』は、必ずしも『経済性』の概念を否定するものではなく、『大祭りってのはそういうもんだわい』という、何と言うか、比較はできないはるか上の概念であるように思いました。「すっ」と入り込んでくると言うか。

タイトルに「 back to the future 」と書いたのは、いったい僕のこの体験は「昔懐かしい旧きよき体験」なのか「未来を先取りする新たな体験」なのかが曖昧になったからです。Retrofuturism( レトロフューチャー )っていうんですかね、こういうの。「懐かしい未来」と呼べるかもしれないな。

上にも書いたけど、世界中どこにいたって、『経済性』を完全に無視して生きることはなかなかできません。これはあくまで僕の話だけど、東京での生活では「『文化性』が『経済性』を上回っている」と感じることはほとんどなかったし、お祭りのために会社を休むとか考えられませんでした。いろいろなものを犠牲にして『経済性』を優先にしていたなぁと改めて気づきます。東京にもそういう文化がきっとたくさん残っていることをうすうすとは気づいていたけれど。行動まではできなかったし、しなかった。今思うともったいないことしてるよなー、と。

35年も生きてきて、『新たな価値観』に出会うというのは貴重な体験です。
どこで生活していようと、もう少し視野を広げて、いろいろなコトやモノを経験するための「余白」があるといいっすね。僕は僕で、これからもこちらで back to the future 的生活を楽しんでいこうと思います。願わくば皆さんがそれぞれの余白にふと気が付きますように。

ではまた。
酷暑の真夏もお元気でお過ごしくださいませ!

 

手拍子(てびし)ってこれです!ティファニーブルーに身を包み!

手拍子(てびし)ってこれです!ティファニーブルーに身を包み!

 

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(次回もお楽しみに。隔月更新予定です)
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大野佳祐さんに質問してみたい方は 編集部まで 

 

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連載バックナンバー

第1話 大きなものを手放すと、大きなものが手に入る(2015.1.13)
第2話 移動距離と心境の変化は比例するか(2015.2.16)
第3話 生活費の変化について(2015.3.23)
第4話 海を眺めてついつい「幸せ」について考えてしまう話(2015.5.15)


 


大野佳祐

大野佳祐

おおのけいすけ。1979年東京生まれ。転機は19歳のバングラデシュ。その後の1年間アジア旅を原点に、教育・共育の“場づくり”を志す。『はじめればはじまる』をモットーに、2010年start to [ ] を旗揚げし、バングラデシュに140人が学ぶ小学校を建設・運営。2014年7月に新卒以来勤めてきた早稲田大学職員を辞めて独立。直後に島根県隠岐郡海士町に移住し、教育を中心に据えたまちづくりに勇往邁進中。『自分が変われば世界は変わる』に大賛成!