ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第4話】なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです

ちいさなお店をはじめたこと。

sasamoto_sある朝目が覚めたとき思いました。「まだ何も始めてないのに、あんた悩みすぎ」と。そうなんです、私たちまだ何にも始めてない。頭のなかのシミュレーションだけで、ぐるぐるしていたんです(笑)。好きなことなだけに、失敗したくなくてつい難しく考えすぎていたのかもしれません。

 第4話 なんで「少数民族手仕事」?  それはやっぱり「好き」だからです 

 

 そもそもどうして、 少数民族手仕事だったのか  

 

こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。

今回は仕入れのお話を… と考えていたのですが、その前に私たちが仕入れに行く大前提。「どうして少数民族の手仕事を扱っているのか」について書いてみようと思います。

店主とヨメが少数民族の手仕事に触れたのは、お互いが出会うずっと前。学生時代です。それは個性的なヴィンテージショップや古着屋に置いてあるヨーロッパやアジア各地の衣装であり、エスニックショップに置いてある刺繍や染めを使った衣類や雑貨であり。

それぞれ洋服好きだった私たちが10代・20代を過ごした世の中は、古着ブームを経て、バイヤーが世界各国から面白いものを見つけ出すセレクトショップが台頭。ブランドの名前や値段よりも「自分らしさ」を追いかけていた時代だったように記憶しています。(団塊ジュニアはよくも悪くも「自分探し世代」とか言われていますものね… )。私たちも大量生産の洋服を安く買うより「たとえTシャツ1枚でも自分だけのお気に入りを探したい! 」みたいな情熱を服に対して持っていたように思います。

そんななか、先に述べた個性派ショップで出会う少数民族の刺繍や染めなどの手仕事には、量産の服では決して実現できない存在感が満ち満ちていて、すっかり魅せられたのです。店主とヨメは音楽も好きだったので、それらの衣類からジャニス・ジョップリンやジミー・ヘンドリックスが着こなす70年代ファッションのような、体制にしばられないカッコ良さが香り立つような気分を感じていました。同時に、日本国内の流行とはまったく違う異国情緒を身につけることで、旅の雰囲気や、住む場所にしばられない自由な空気が表れるのが好きだったのかもしれません。 

店主もヨメもそうして大人になり、ご縁があって一緒に過ごすようになりましたが、洋服の好みが驚くほど似ていたため、よくふたりで古着屋やヴィンテージショップ、エスニックのお店巡りをしていました。「いつか一緒に、自分たちで作った服や旅で見つけたものを扱うお店ができたらきっと面白いね」などと話し始めたのもその頃。もちろん当時は、まだまだ根拠のない夢でしかありませんでした。

 

以前の展示の様子。

以前の展示の様子。ひと口に少数民族の手仕事と言っても、その種類は刺繍・織・染めなど多岐に渡ります。左のコーディネートはベトナムのモン族の男性が着る藍染めのジャケットに、女性が着ていた古いろうけつ染め+刺繍のスカートを組合わせた着こなし。現地ではしない組み合わせですが、日本ではファッションとして楽しめます!

 

 

 まずはできることから始めてみよう。そう決めたらワクワクした  

その頃の店主は、2年ほど過ごしたカナダから帰国して飲食店で働き始めたばかり。ヨメはヨメで長年いたアパレルを辞めてライターに転職し、まだ数年の段階です。お互い、少数民族の手仕事のお店からはだいぶ遠いところにいましたし、店を持つどころか「まずは今の生活をキチンと軌道に乗せねば」という段階だと感じていました。

……はずなんですが、ヨメは「今はネットショップのサービスもいろいろ整備されてきているし、お互いに仕事をしながら少しずつ販売を始めていくのもありではないか? 」と思うようになっていました。「今の仕事はもちろん楽しい。ということは、好きなことが生活の中に増えたら、きっと人生もっと面白くなるかも! 」という単純極まりない発想がひとつ。あとは会社勤めを離れて自営業に慣れてきて、仕事は自分で作っていけばいいんだ、と頭の中が切り替わったのもひとつ。

いきなり完璧に店を持つのは無理だとしても、まずは自分たちの使える範囲の時間とおカネでできることからちいさくスタートし、経験を積んでおくのにデメリットはないはず。そう思うと、なんの根拠もないのになんとかなるような気がしてきて、とてもワクワクしてきました。店主はそのあたり慎重で、テンションがあがっているヨメに対し「まあ、それができれば理想だけど、現実にはなかなか難しいんじゃない」というクールな回答。そこで「見てろ! できるはず! 」と書籍やネットを使って輸入販売のことを勉強したり、どこの国でどんな仕入れができるのか調べたり、リサーチという名目で勝手に準備をスタートしました。

 

ベトナムと中国の国境近くにある、花モン族の村で子どもたちと。

ベトナムと中国の国境近くにある、花モン族の村で子どもたちと。こんなにちいさい頃から弟や妹を背負って面倒をみている彼女たちはとっても元気で好奇心旺盛。自分たちが写った写真をうれしそうに眺めています。当時のヨメにとっては、自分たちで買付けに来るのは、いつか叶えたい夢のひとつでした!

 

 

 「好き」だから近づきたくて 近づいたら、いろいろ見えてきた 

少数民族の衣類や雑貨をどう仕入れるか調べて行くうち、世界各国の少数民族の分布や手仕事の種類の豊富さに、どんどん夢中度は高まっていきました。私たちが住むアジア地域だけとっても、どれだけたくさんの少数民族がいて、どれだけ様々な手仕事があることか。時間を見つけてはそんなことを調べていたある日、少数民族の写真がたくさん使われた、とあるNPO団体のウェブサイトを見つけました。「すてきな写真! 」と何の気なしに見てみたそのサイトには、現地で多くの少数民族が貧困や差別の問題に直面していること、なかでも女性や子どもが人身売買をはじめとする問題に巻込まれていることが触れられていました。

少数民族の手仕事の裏に、そんな事実があるとは。それまでは「キレイ! 」「かわいい! 」という感覚だけだった胸の中にモヤがかかるようになりました。調べて行くと東南アジア諸国では決して珍しい問題ではないようです。

正直、困ってしまいました。「楽しい! 」というアンテナに従ってやってきたのに、なんだか暗いフタを開けてしまった、くらいの自分勝手な気持ちにもなりました。もちろん、それで面倒になるとかではなく、むしろ「好きな人が悲しい思いをしているのかも… と知った今、それを無視していいのかしら私!? 」という悩みというのでしょうか。それ以来、心の中では「もともと注目していたのは手仕事なのだし、彼らの抱える問題については知識として持っておけばいい」という声と「知ってしまったのも何かの縁。私たちにもできることが何かあるかもよ? 」という声がせめぎ合うように。

たとえばそういう問題を抱える少数民族の助けとして、彼らをサポートする団体のフェアトレード製品を輸入&販売する、という方法も考えられました。でも、なぜ悩んだかというと、誤解を恐れずに言うならば、多くのフェアトレード製品のデザインやクオリティに満足できなかったからです。「なんでこの紐にしたかな… 」「どうしてこのボタンを選んだんだろう? 」とか、自分たちで責任を持って販売する物として見たとき、完成度に満足いかない自分がいました。一方で仕事の機会が増えないと細部にまで時間や気持ちがまわせない=クオリティが上がらないのも理解できます。しかし現地の生活に寄与できるとしても、物としてのクオリティに納得いってないアイテムを販売できる? いや、でも……のような感じで、いつも頭がぐるぐるしていました。

 

ターイ族の手織り布を使ったがまぐちポーチ。

ターイ族の手織り布を使ったがまぐちポーチ。生地を生産者から仕入れ、縫製は日本で行っています。単に完成品を仕入れるだけでなく、自分たちでオリジナルを作るようになったのはまだまだここ数年のことです。

 

 

 迷ったら、心に正直に やってみるしかない! 

しばらく悶々としていた時期が1ヵ月くらいあったと思います。ある朝目が覚めたとき思いました。「まだ何も始めてないのに、あんた悩みすぎ」と。そうなんです、私たちまだ何にも始めてない。頭のなかのシミュレーションだけで、ぐるぐるしていたんです(笑)。好きなことなだけに、失敗したくなくてつい難しく考えすぎていたのかもしれません。やってもいないことをウダウダ悩むより、動きながら決めていっても遅くない。まずはやってみたいことをやってみよう。そんな感じで吹っ切れました。

そうして、生まれてきたのが現在の仕入れスタイルです。

①少数民族をサポートしている団体から、フェアトレード製品を輸入して販売する。
②少数民族をサポートしている団体から、生地や刺繍のパーツなど素材を仕入れて、日本の感覚にあった衣料や雑貨として日本で制作する。 
③現地の少数民族の作家やマーケットで見つけた手仕事を輸入販売する。

最初はだけでやろうとしていたところに、①②を取り入れる形で着地しました。の部分は後にまた書こうと思いますが、少数民族をサポートする活動をしている現地の日本人の方に出会うことができ、クオリティやデザイン面でたくさんのご協力をいただいて、不安だった事柄の多くを解消していくことができたのです。結果、ワクワクの源泉である少数民族の手仕事に触れつつ、現地の少数民族の女性たちに(私たちの取り扱える量など限られているとしても)なにがしか仕事のきっかけを作り、子どもたちの生活をサポートするという理想のバランスで仕入れをスタートすることができました。

いろいろ悩みましたが、ノマディックラフトとして歩んできたこの数年間を振り返ってみると、①②③どこかに偏ることもなくそれぞれが動いており「良かった…」としみじみ思います。

あ、あまり乗り気でないようなムードを出していた店主ですが、それは猪突猛進のヨメにブレーキをかけてくれていたみたい。仕入れ後、初めてイベントで販売したときも準備をしっかり手伝ってくれましたし、順調な売上げを記録して感動して泣いたヨメに、マジメな顔をして「がんばってみよう」と。それが今では仕入れも店頭も、店主が主導で行っているのですから、ホント人生は面白いものです。

よく「好きを仕事にすべき!」とか「好きなことこそ仕事にしてはいけない!」とか、いわゆる「好きなことを仕事にするか否か」的な記事を目にすることがありますけれど、私たちはどっぷり「好きを仕事に」路線に乗っかっています。苦労も悩みもありますし、これからどうなるかも分かりませんが、好きが高じて始めたこのちいさなお店を楽しんで続けていきたいと思います。

次回からは、仕入れにまつわるさまざまな小話をお伝えしようと思います。どうぞお楽しみに!

 

協力してくださった、少数民族をサポートしている団体の方と一緒に作ったフェアトレードのブックカバー。リス族のパッチワークをポイントにあしらっています。

協力してくださった、少数民族をサポートしている団体の方と一緒に作ったフェアトレードのブックカバー。リス族のパッチワークをポイントにあしらっています。

 

 

 

 ノマディックラフトのイベント出店情報 

 

集祭 vol.4 SodaCCoマルシェ夏祭り @代官山SodaCCo 
2015年7月24日(金)12~20時・25日(土)11~19時
詳細は https://www.facebook.com/events/1647299888846774/permalink/1647542852155811/
作家さんや雑貨屋さんなど、色とりどりのショップが集う『集祭』の第四弾。
※ノマディックラフトは金・土のみの出店ですが、イベント自体は日曜日もやっています!

 

Tera De Marche @上野宋雲院
2015年7月26日(日)11~17時 ※雨天決行
詳細は https://www.facebook.com/TeraDeMarche?fref=ts
台東区役所からすぐ、風情ある上野のお寺『宋雲院』さんにさまざまな手仕事が集まるステキなイベントです。
※ノマディックラフトは日のみの出店ですが、イベント自体は土曜日もやっています!

 

(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)
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 連載バックナンバー 

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/