【第199話】苦い思いは人生の薬味となる。なぜ、おじさんたちは酢の物を頼むのか。 / 深井次郎エッセイ

Flo

「バンジージャンプ、こわかったけど、スッキリした」


苦いものを大人が求めるのは

心と身体に溜め込んだものを
デトックスするため

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なぜ、おじさんたちは酢の物が好きなのか。あとは、タコわさびも必ず頼みますね。あなたも子どもの頃は、酢の物が嫌いじゃなかったですか? わさびも食べられなかったことでしょう。それもそのはず、酢の酸味も、わさびの辛さも、毒と同じ味だから。子どもは本能的に、「これは毒だ」と判断して、おえーっと吐き出してしまいます。

薬味と呼ばれるもの、わさびもネギもしょうがも、そしてたいていの薬草も苦いです。 なぜ薬味が弱った体に効くのかというと、デトックスを促すからだそうです。「毒が入ってきた!」そう判断して、体の毒出し機能が活性化するのです。そして「外に出せー」と、今まで体に蓄積されていた毒素もいっしょにデトックスされる。

年齢が上がるにつれて代謝が落ちますし、毒素も溜まりやすい状況になります。溜まってくると、体が毒素を出すことを求めるのでしょう。酢の物を注文したくなるんですね。子どもは、毒素も少ないですし、代謝の流れもいいですから、体が薬味を求めることは少ないようです。

辛いけどスッキリする。大人になると薬味を欲するようになってきます。たとえば、ランニングの魅力もわかってきます。冬場は特に寒いし、面倒です。だけど、走り出して疲れのピークを越えると、快感物質が出て恍惚としてくる。走り終えるとスッキリします。走る前は辛いからイヤだなと思うけど、終えると「走ってよかったな」。またチャレンジしようと思います。

体にも代謝があるように、感情にも代謝があります。あまり感情を動かさないでいると、代謝機能が落ちてきます。毒が溜まりやすくなり、常にどんよりとした気持ちになってきます。幸せを感じる感度、好き嫌いの感度が鈍くなります。

去年インドを旅した時。「ここ4、5年こんなに怒ったことなかったな」と思うくらい現地で腹が立ってケンカしたし、病気で死にそうになって怖かったし、感情をよく動かしました。帰国当初は体調もボロボロで「もうしばらくインドはいいや」と思ったけど、不思議とどこかスッキリした感じもあって、今は「面白かったなぁ。また行ってもいいかなぁ」とさえ思っています。

生きていると、苦い経験もするものです。「なぜ自分ばかりがこんな目に……」胸が締めつけられるような出来事も起きます。 苦い思いをしたら、これは人生の薬味なのだ。今まで溜まっていた毒をたくさんデトックスする良い機会なのだ。そう歓迎するようにしています。代謝のいい心を保つために、たまには毒も必要なのでしょう。

(約963字)

Photo:Flo


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。