【第197話】寝ることが好きなのですが、どうやって仕事にしたらいいですか? / 深井次郎エッセイ

三度のメシより寝るのが好き

三度のメシより寝るのが好き

好きなことを探求する力だけではなく
共有する力が必要だ



好きなこと、やりたいことをやりましょう。
そしてそれが仕事になれば最高です。そういう話をトークライブですると、いじわるな質問をする人も中にはいます。「私は寝ることが好きなのですが、どうやって仕事にしたらいいですか?」どうせ無理でしょう、さあ論破してやるぞという顔をしています。

ブレーンストーミングならぼくも好きなんです。前向きにあーでもないこーでもないとアイディアを出し合ったりは何時間でもできます。でも、戦うのが目的の人との論破合戦は、好きではありません。仕掛けられたら、一秒で土俵を降ります。

寝相アート。赤ちゃんが寝ているうちに撮影してしまう

寝相アート。赤ちゃんが寝ているうちに撮影してしまう

「あなたが寝てるだけじゃ、難しいと思いますけど……」と普通に答えます。すると、「ほら、そうでしょう」という顔で、うんうんとうなづくのです。好きを仕事にすることなんて、普通の人にはどだい無理な話なんだよ、とでも言いたげです。まあ、可愛い赤ちゃんだったら、寝てるだけでも仕事になったりしますね。寝相アートとか。でも、彼はスーツのビジネスマンですからね。寝てるだけじゃ難しい。

働くことについて、その人の宗教観も影響しています。どういう宗教観で育ったか。欧米のキリスト教だと、労働は罰であり、なるべくしたくないものです。しかたない、せざるをえないからしているのだ。できることならさぼりたい。だから、できるだけ若くしてお金持ちになってセミリタイヤして労働から解放されたいと願う人が多いのでしょう。定年になったら、「もう労働をしなくてもいいのだ!」と喜びの声をあげます。

その辺は日本の宗教観とは違います。多くの日本人は、仕事を「社会における自分の役割」と思っています。アイデンティティーでもあるし、自分の才能を社会と分かち合う行為だと思っている。だから、働きたいのです。生涯現役でいたい、という声も日本ではよく聞きます。おじさんたちも定年になって仕事をしないでもよくなると、抜け殻のようになって「はたらきたい」というのです。定年になった上司の送別会は、なんとなく寂しい雰囲気になります。少なくともキラキラハッピーおめでとうではありませんね。どんなにお金持ちで、もう労働する必要がないくらいの財産がある人でも、働くことをやめない人が多い。人の役に立つことは、楽しいのです。

人の役に立つこと。先ほどの「寝るのが好き」な質問者はこの視点が抜けていたのです。ぼくが言う「好きなことをやりましょう」なんですけど、それは「誰かのためになる」好きなことをやりましょう。そういうことなんです。寝てたって、誰かのためになりますか。自分が気持ちいいだけですね。

「本を読むのが好きです」と言ったってどうですか。自分ひとりで本を読んでるだけじゃ、誰かのためにはなりませんね。それでは仕事にはならないです。でも、本を読んだ知識を他のみんなにもシェアしたら、それは仕事になりえます。本を声にだして朗読して人に聞かせたら、それは仕事になりえます。

ひとりで完結しないことです。猫が好きだと言っても、部屋でひとりで猫をなでてるだけでは仕事になりません。でも、猫の写真を撮ってみんなに見せたら、それは仕事になりえます。好きなことを他人と共有することで、仕事になるのです。他人と共有するときには、コミュニケーション能力(書く、話す、絵や写真や映像で伝える)が必要です。だから「書きましょう」とことあるごとにみんなにおすすめしているのです。

「寝るのが好き」な彼も、「寝る楽しみ」をみんなと共有できれば、仕事になりえます。どのようにしたら快眠できるのか。睡眠の質を上げることが出来るのか。睡眠時間をどう有意義に楽しむか。自分がトライ&エラーして試してきた方法をみんなに共有するのです。伝え方がうまければ、それは仕事になりえます。快眠アドバイザーですね。ベッドメーカーとコラボもできるかもしれない。

好きなことを独り占めしないで、共有すること。そうすれば大概のことは仕事になるものです。「好きなことを探求する力」と「共有する力」この2つが必要なんだということです。どうです、寝ることだって仕事になりそうな気がしてきませんか?


(約1672字)

Photo:  Jace Cooke
寝相アート 出典 : http://matome.naver.jp/odai/2134141177569551101


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。