【第195話】大きな組織にいるから孤独なのかな / 深井次郎エッセイ

 

自分の役割を読み解けば
孤独は感じないのではないか

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「大きな組織にいると孤独感がある」そんな悩みを話している人がいました。グループが大きければ大きいほど、存在感の小さくなる人が出てくるものです。

いま2人の村上春樹好きが飲んで盛り上がっています。お互いの見解をぶつけあって、マニアックな会話を楽しんでいる。そこにもうひとり、知り合いがやってきました。無視するのもあれだから、一緒に飲もうかということになる。彼は村上春樹を読みません。なので、気を使って2人の村上春樹論はそこで終わります。小説だったら何が好き? とひと回り大きな枠組みの話をします。

そこにもうひとり、知り合いがやってきました。彼は小説を読みません。みんなは気を使って、「最近読んだので面白かった本は?」と、もうひと回り大きな枠組みの話をします。そこにひとり、知り合いが。彼は本自体を全く読みません。なので「最近面白かったことは?」ともうひと回り話題は大きくなる。というように、人数が増えれば増えるほど、そこで語られる内容は薄くなります。思ってることが言えたなぁとか、心の内を聞いてもらえたなぁという気分もありません。

そこに集まる人たちに共通点がない場合、とりあえず、天気の話とか「芸能人だったらだれが好き?」になる。この料理美味しいね。どこのお店が好きとか、休みの日なにしてるの、とか。表面を慎重になでるような、距離を縮めるためだけの会話になってしまいます。こういうことが大きな組織だと日常です。挨拶はするけど、お互いのことを深くは知らない。これはしかたのないことです。

グループを小さくすれば関係が濃くなるか、と言ったらそう単純な話ではありません。2人でも深い大事な話をせず、表面をなめあってるだけのカップルは多くいます。そしてお互い、孤独感を募らせている。どこまで自分を開けるかと、相手を開くことが出来るか。ということもあります。

独立してやっていく人は孤独の扱い方がわかっていないとやっていけません。物書きもクリエイターも、もともと孤独癖があるような人が多いです。なので、ぼくは孤独には慣れてますが、人を集めるときは、できるだけ小さいサイズにするようにしています。どうしても100人グループになってしまう場合は、小さく、5×20に分割します。

しかし、孤独感ってなんでしょうね。単純にグループを小さくすれば解決することもありますが、大きいのは本人の心の性質でしょう。あと慣れとか訓練もあります。よく「自分の頭で考えよう」とか「自分の本をつくろう」とか自分というワードを出すので、「深井さんは自我が強い人だ」と思われがちですが、実は逆なのです。自分を自分のものと思ってなくて、大きな宇宙全体(宇宙とか言いたくないんだけど)とつながっていて、いま何を求められているか。自分の祖先からのルーツともつながっていて、その文脈を読み解くのです。今の時代の全体をみて、自分の性質もみて、と考えると、ハマるべき場所が浮びあがってきます。ここしかないという、やるべき役割がみえる。だからいつも箱(外部環境)と連動して、中身(自分という粒子)も変わっているのです。星の動きや潮の満ち引きや雲の動きと、自分の肉体や意識もつながっているのです。

だから実は自分というものがありません。みんなから求められることに言いなりの時も多いです。歴史の文脈と宇宙を考えて、いま自分のポジションはここだな、と導かれているので、いまオーディナリーをやっています。自分の好みとか、考えていません。ここがキミのポジションだよと宇宙にはめられた感じ。キミが立ち上げなさいと。まじですか、ええー、面倒だなぁと思うこともあります。スピードも一定ではありません。早くなったり遅くなったり。

『大河の一滴』という五木寛之さんのエッセイがありますが、その言葉はしっくりきます。自分が自分がと川を逆流するのではなく、まわりと共に形を変え、大河の中で自分の粒子の納まるところがある。だからぼくはあなたであり、海であり、木であり、そして歴史上のあの人でもある。大きな枠組みの中で自分に求められている役割を果たそうと、それだけを考えています。自分という輪郭線をはっきりさせるから、孤独を感じるのです。にじませたり、拡張させたり、溶けていく。使命というと大げさに聞こえますが、すべての粒子に役割があるのです。その役割がみえていれば、耐えられないほどの孤独は感じないのではないかなと思っています。なぜ自分はこの時代に、日本に。この両親の元に生まれ、この友人たちと出会ったのか。いろんな文脈を読み解いていく。

もし目の前に困っている人がいたら、手を差し伸べるのがあなたの役割です。あなたしかいないのですから。おかしいと思うことがあったら、それを解決するのがあなたの役割です。それを無視して、今日の夕飯なに食べようとか、自分の将来の安全のことばかり考えていては、いつもまでも自分の役割はわからないのです。

 

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(約1915字)

Photo:Paolo


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。