【第188話】あなたはブライダルを撮れますか / 深井次郎エッセイ

「もう一回やってみていい?」

「ごめん、もう一回やっていい?」

ドキュメンタリー向きか
ドラマ向きか
あなたのクリエイター気質はどちらだ

ーーーー

ブライダルを撮る映像作家の方が言うには、緊張感がものすごいそうです。もしワンチャンスを撮り逃したら、もう撮り直しはできません。無情にも式は進んでいってしまいます。相手の動きに合わせて記録する。ドキュメンタリーを撮る作家たちは、気が抜けません。先に起こる動きを予測して、常にカメラを構え、反応していきます。フットワークの軽さと、相手に同化できる能力。

しかし、この相手に合わせて動くというのが向いていない人もいます。相手に合わせると疲れてしまって、どうにも楽しくない。自分の良さが発揮できない。これが、ドラマを撮るなら、撮る側のペースでできます。気に入るまで何度も撮り直しができます。絵コンテを描いて準備して、その通りの画を納得いくまで追究できるわけです。

相手に合わせる(ドキュメンタリー)のか、自分のペースでできる(ドラマ)ほうが向いてるのか。クリエイターとして、自分はどちらが向いてるのか。考えた時に、ぼくは後者だなぁと思います。文筆家としても、相手があって書くものが苦手です。本のレビューやイベントのレポートとか、人と同じようなことしか書けません。広告コピーも実は苦手です。やってた時期もありますが、苦手だなぁと思ってやってました。

相手の伝えたいことを伝えなきゃ。これを意識すると、固くなってしまうのです。相手がどう思うだろうとか、失礼があってはいけないとか考えすぎて、無難な表現になってしまいがち。「ぼくはこう考える」というのが、ぼくのスタイルですから、相手があるとそれを抑えなきゃ、という意識が、無意識なんですけど働いてしまうんです。そして、良さが消えてしまう。

相手がある場合、ぼくはどうしても相手第一で考えてしまいます。末っ子特有の何かなのか、空気を読みすぎて、気を使うのです。対談のトークライブなんかでは、対談相手の話が乗るように考えて、自分は聞き手に回って、司会者的にまわしてしまうとか、そういうことが多い。50:50なんてことはないです。80:20とか70:30とかで譲ってしまう。

話し手として呼ばれてるわけです。だから、自分も割り込んでバンバン話さないといけないのに、どうもそれが苦手です。テレビでも芸人さんがひな壇から割り込んだり、突っ込んだりしてますが、あの役割を求められたら、たぶん僕は使い物にならない。大勢の中で笑って座ってるだけだと思う。まわりに遠慮してしまうんです。ひな壇的立ち位置が一番苦手。それだったら、司会者とか、ゲストとか、番組の内容を考える構成作家の役割が向いてるように思います。

相手に食い込むのが苦手なのがわかってるから、自分のペースでできる場所をつくっています。それがオーディナリーでもあるわけですが、相手を立てなきゃいけないような気を使う取材はしません。広告コピーからは足を洗って、自分が本当にいいと感じたことだけを伝えます。相手に合わせながらも、自分の言いたいことを伝える。この器用さを身につけた時、また改めて、広告を扱ってもいいかなとは思っていますが、当分ない気がしますねぇ。

 

(1204字)

Photo:Paolo


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。