【第180話】すべて不正解の選択問題を解くには / 深井次郎エッセイ

「どれも間違ってるじゃない。だれこの問題つくったの」

「やな予感する。これ正解ないんじゃないの」

自分の好きな不正解を選ぶ
その経験の積み重ねが自分の軸をつくる

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人生の岐路。決断で迷ってしまうのは、「正解がひとつだけある」という思い込みがあるからなんじゃないかな。TOOLSのコーナーでキャリアカウンセラーの舛廣純子さんが「後悔しない道の選び方」について書いてくれました。ぼくも思い出したことがあります。

学校のテストの選択問題のくせ。これが大人になってもなかなかとれずにいる人が多いようです。小学校の頃、先生がテストの問題づくりを間違えたことがありました。正解がひとつもない4択問題をつくってしまったのです。採点をし、テストを返却する時に、みんなに謝りました。

「ごめん、この4択問題には正解がひとつもなかった」と。そのせいで、100点満点が学年に1人もいないテストになりました。ぼくはその問題以外は全部合っていて98点でしたから、くやしくて先生に意見しました。問題を間違えたのは先生のせいなんだから、100点をくれと。でも先生は認めてくれませんでした。きっとテストの配点を変えると複雑になって面倒くさかったのだと思います。

100点は認めてくれませんでした。そのとき、先生がぼくに言ったのは、「正解がひとつもないのが人生なんだよ」ということです。人生には、選択肢すべてが不正解であるということばかり。深井くんも大人になったらわかるよ、と言うのです。

すべて不正解である選択肢の中から、少しでもましな選択肢を選ぶ。そのときあなたは、どんな基準で選ぶでしょうか。もちろん正解か不正解かという軸では選べないわけです。だとしたら、楽しそうか、そうでないか。相手が喜びそうか、そうでないか。精神力が鍛えられそうか、そうでないか。今までだれも達成したことがないことか、そうでないか。いろんな軸があります。どの軸で選ぶか。いいかい、それがきみの軸なんだと、そういうことを先生は話してくれました。

「今回の4択問題で、Aを選んだのはどうして?」
「どれも正解じゃないんじゃないかって思って、わからなくて焦った。でもどれか選べば1/4の確率で当たるから、適当に選びました」
「その適当に選んだっていうけど、なにか基準があったんじゃないの。えんぴつ転がしたの? 」
「いや、Aのミジンコの写真が一番たのしそうに見えたから選んだ」
「そう。それがきみの軸なんだよ」

わけわからん、と当時は思いましたが、たしかに今ならわかります。正解、不正解というテストみたいな軸だけで生きようとすると、とたんに苦しくなってしまいます。正解を当て続けることはできないし、そもそも正解がひとつもない選択肢ばかりです。何かを決める時に、批判がゼロという場面はありません。こちらを立てればあちらが立たず、ということだらけです。何も失わずに前に進むことはできません。「全員が幸せに」というたった1つの正解を願うけれど、現実問題としてその選択肢はなかったりします。

正解がないとしたら、そこで問われるのは何か。「あなたはどれが好きなの? 」「あなたはどれがやりたいの? 」ということです。それが自分の軸。25歳ではじめてぼくが自分の会社をつくるとき、先輩経営者に相談しました。

「A,B,Cの案、どれをやったら成功すると思いますか?」

「それはわからん。どうせ起業なんてどれやっても失敗するんだから、失敗して一番楽しいものをやればいいんだよ」

そう笑ってアドバイスされました。こっちは真剣に相談してるのに、とちょっとムッとしましたが、「正解、不正解の軸は捨てて自分の軸を持たないと、自分の会社なんてやってられないよ」ということだったのです。

すべてが不正解だとしたら、どの不正解を選ぶか。ぼくは「自分が楽しいかどうか」「俺がやらなきゃ誰がやるんだと思える大切なことであるか」いくつも軸がありますが、だいたいこの2つの軸が大きいです。あなたは、どんな軸で選んでいますか?

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(約1532字)
Photo:Mark Nye


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。