【第175話】国を背負わされることの不自由 / 深井次郎エッセイ

「楽しかったよ」「また明日ね」

「楽しかったよ」「また明日ね」


ただ楽しくて続けてただけなのに

いつの間にか戦犯にさせられてしまう

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サッカーのワールドカップ。日本は1勝もできずに終わってしまいました。A級戦犯はだれだという物騒な言葉が飛び交い、重々しい気配でした。Jリーグは観ないのに、日本代表戦となると熱くなる。その気持ちはわかります。夏の高校野球も自分の地元高校を応援します。

これって選手に自分自身を投影してるんですね。選手が勝つと、いつもふがいない自分さえも強くなったような気がする。別に日本代表が強くても自分とは関係ないんですけどね。選手が強いだけです。ブランドものを身につけると、自分まで高級になったような気になるのに近いのではないかな。

プロ選手は、観客がいるからこそ仕事として成立します。なので、観てもらえることは嬉しいのです。でも程度があるだろうなと思います。これほど注目を浴びてしまったら、重苦しくて大変でしょう。純粋にサッカー観戦が好きな人だけでなく、勝手に国を背負わせてくる人や、ただ騒ぎたい人まで取り込んでしまうからです。

選手たちのほとんどはきっと、小さい頃からただサッカーが好きで続けてきた人たちです。それなのに有名になりすぎて、それが反転して戦犯にまでされてしまう。ただサッカーをやってたいだけ。純粋にサッカーがうまくなりたくてやってるのに、これでは辛くなってしまいます。

「サッカーが楽しめなくなったから」と中田英寿さんは、引退理由を語りました。当時まだ29歳で、もうひと仕事できる年齢です。「サッカーで食っていこうと思ったことはなくて、好きだから続けていたらいつのまにかプロになってた」その中田さんが、どういう理由かわかりませんが、楽しめなくなることが出てきたのです。勝手に国を背負わされたり、それは大変です。スポーツは国の威信をかけるものではなく、ただのゲームです。「あーあ、負けて残念だったね。次がんばろう」でいい。そのくらいなものです。

「買い物なんかしてないで練習しろ」長友選手も、休みの日に買い物してると、街の人に言われるそうです。本田選手もCMなんかに出てないで練習しろとか、金髪とか服でオシャレしてる暇あれば練習しろと、言われます。プロにだって休みがあります。24時間トレーニングなわけじゃないです。筋トレだって、毎日追い込んではいけません。休みの日をつくるから、超回復で成長するのです。

世の中が大きく1つの方向に流れそうになっても、ひと呼吸おいて冷静になりたいものです。たかがゲームでしょう、と笑ってしまう軽さ。国なんて背負わないし、命なんて賭けない。あなたの仕事だってそうです。たかが仕事。たかが人生。負けたって、たいしたことはないんです。精一杯やったけど、あーあ、残念。次がんばろうってなもの。それがあなたの健康とみんなの世界平和につながるんじゃないかな。

(約1124字)
Photo:Robert Magnussen


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。