【第174話】めんどくさい大王を洗い流す / 深井次郎エッセイ

いつだってあの旅に戻ることができる

冷水シャワーでシャンプーなしのマンゴーラッシー

旅モードにして
重い腰を上げよう
冷水シャワーでシャンプーなしのマンゴーラッシー
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気づくとすぐにたるんでしまう。お腹の脂肪のことではない。「毎日更新」と宣言しているこのエッセイの執筆態度についてだ。もう20日も遅れをとっている。熱でダウンしていたとか、優先しなければならない作業に手間どったとか、言い訳はあるが、そんなもの気持ちの問題だ。負けぐせがついている。このつかめるお腹の脂肪と同じだ。どこかで連敗をストップし流れを変えなければならない。まるで、W杯準決勝で大敗したブラジルのようだ。最強軍団も、あれよあれよと言う間に7点もとられてしまった。「何が起こったのか、わからない」ブラジルの選手は試合後、呆然としていたが、今のぼくも呆然としている。

執筆が滞る時というのは、頭ばかりで手が動かない。だれにとっても強敵であろう「めんどくさい大王」に精神を乗っ取られた状態になる。ぼくは本を読むのは好きだが、書くのは面倒くさい。新しい人に会うのも面倒くさい。

そんなめんどくさい大王のときには、どうするか。旅に出て体中の細胞をイキイキさせるのがいい。過酷な旅を思い出して欲しい。旅中、追い込まれれば追い込まれるほど、細胞は騒ぎ、血がめぐる。旅モードになると、怖いものにも飛び込めるし、恥もてらいもない自分になってくる。

とはいっても、書くものが溜まってるこの最中に、本当に旅に出てしまうのははばかられるもの。そういう時には、シャワーだ。これがいい。当然、お湯ではない。冷水だ。しかもチョロチョロしか出ない(あえて出さない)。そう、あの過酷で楽しかったインド旅、アジア旅を思い出すためだ。もちろんシャンプーなど使わない。せっけん1個で頭から全身洗う。髪はキシキシするが、これが旅だ。

シャワーから上がり、さっぱりしたら一杯飲みたいところだ。マンゴーラッシーがいい。事前にスーパーでマンゴージュース100%と、のむヨーグルトを買っておこう。この2つをお好みで混ぜれば、マンゴーラッシーの出来上がりだ。

これだけであの旅へトリップできる。新しい場所に行きたくなるし、新しい人にも会ってみたくなってくる。旅先では頭も活性化するので、何かを書きつけたくなる。日本で待ってる友人に便りを送りたくなる。

ここまで書いて気づいた人もいるだろうか。いまこのエッセイもシャワー上がりに書いている。マンゴーラッシーをチビチビやりながら。めんどくさい大王に翻弄され、20日分も溜まってしまったエッセイ。この遅れを挽回するため重い腰を上げるには、旅パワーを借りるしかないようだ。今はただ前だけを見て。

 

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(約1005字)

Photo:Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。