【第160話】自然と共生などおこがましい / 深井次郎エッセイ

「さ、そろろろ刈る時間よ」 「え!」

「さ、そろろろ刈る時間よ」 「え!」

共生ではない
寄生しているのだ
その事実を認め感謝しよう

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いつからこの言葉が使われだしたのか記憶にない。ウィンウィンという言葉が苦手だ。win-winと書いて、つまり「自分にも利益がありますが、あなたにも同じくらい利益があります」というビジネス提案のことを言います。もちろんウィンウィンという、その思想は素晴らしいし、そうありたいと思います。けれど、どうしてか、この言葉を押しつけてくる人が苦手です。つきあいたいなと思える人が今までいないかったのです。

ピントがずれてると言うのでしょうか。独りよがりで、自分だけが得しようという魂胆がみえみえなのです。そんな提案なのに、自分はウィンウィンなどと言って、あくまで対等ですみたいな顔をする。イヤな意味で人間っぽくて、生臭いなぁ、と思います。

人間は、よく「自然と共生しよう」と言います。でも、共生できる日はぼくらが生きてるうちに来るでしょうか。やっぱり人間は、自然に寄生しているのです。自然からもらってばかりで、与えているものなどあるのでしょうか。感謝のこころをもって、お世話になってます、おかげさまで、ありがとうございます。こちらばかりもらってばかりで、すみません。おかげで楽しく元気にやれています。リスペクトの心を、正直に伝えることが、潔いと思います。変に条件を出してきてウィンウィンなどど取引するよりも、「おんぶにだっこですみません! 力を貸してください」と言われた方がよっぽど気持ちがいいです。だれかの力になれた、役に立てた、良いことしたなと気分は晴れ晴れしいものです。

ウィンウィンなどと言って、お互い様みたいな気になってしまうと、相手に感謝の念がなくなります。正確に50:50のバランスがとれたウィンウィンなどありえません。対等と思っているのは、自分のほうだけ。たいていは、みんな「自分のほうが持ち出しで頑張ってる」と思っているものです。貸したものはいつまでも覚えてますが、借りたものは忘れてしまうのが人間です。

お願いする時は、下心まで話してもらったほうが可愛いです。今回これこれこういう理由で、力を貸してください。はっきり言って、今回あなたに与えられることはたぶんありません。ぼくが助かって嬉しいだけです。その代わり、他にぼくで力になれることがあれば何でもやります。このご恩は忘れません、ということです。

何も借りがなく生きられる人はいません。人間は地球に借りがあるし、ぼくらは親や先輩に大きな借りがあります。借りがあること自体はいいのです。しかし、感謝を忘れては、うまく回りません。ウィンウィンのビジネスマンが空回りしているのは、ビジネスプランがうまくないからではありません。相手への感謝が足りないのです。いつもありがとうございます。おかげで助かっています。心からの感謝が伝われば、人はひと肌脱いでくれるのです。利益なんて度外視で、善行をしたいと思っている人はたくさんいます。

(約1173字)

Photo: Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。