【第153話】背中合わせフェチの憂鬱 / 深井次郎エッセイ

だれか背中あわせてくれないかな

背中を探しにいく

背中合わせで上手くいくコンビは
向かい合うとちぐはぐになる

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背中合わせで戦う。少年の頃、この状況にやたらと憧れたことがありました。映画や漫画を観てると、主人公たちが敵に囲まれます。ふたりで背を合わせて、「やばいな、どうする?」「なあに、やるしかないでしょ」と会話してる絵。主人公たちが絶対的に不利な状況にも関わらず、敵をやっつけてしまうのがお決まりのパターンですが、これになぜだかカッコいいなぁと思っていました。

© モンキー・パンチ

「囲まれちまった」「なあに、ちょろいぜ」  © モンキー・パンチ

はじめて独立したとき。共同経営をしていたので、パートナーとの理想のつきあい方をよく模索していました。共同経営というのは、会社に代表がふたりいるというスタイルです。ふたりというのは、チームの最少単位。ふたりの関係をうまく築くことが、チームプレーの基本です。ふたりがうまくいくと、5人10人と増えてもうまくまとまる土台ができます。

まず、自分を知ること、そして相手を知ること。そしてふたりの相性を知ることです。自分ひとりでやってると、そんなに良い時と悪い時の波がないのですが、ふたりだとかけ算の力が働くので、波が大きくなります。うまくかみ合えばどこまでもいけるけど、いったんかみ合わなくなると、1馬力以下になることもありました。

たとえば、ぼくらには主にこの3パターンがありました。

A.  ふたりで背中合わせに戦う
B.  片方が怖がって背中に隠れてしまう
C.  ふたりで怖がって抱き合って、やられてしまう

Aのときが一番順調な時です。映画のワンシーンのように、我ながらカッコ良くてたまりません。当時は若気の至りで前例のないことにもよくトライしましたから、まわりからの風当たりが強いこともありました。しかし、ちゃんと結果を出したら、手のひらを返したように賞賛され、ふたりで喜びを分かち合ったものです。

しかし、嵐はいつか去ります。外に向かって戦う時期が過ぎ、社内の内向きのことを整える時期がくる。背を向けていたふたりが、今度は正面から向かい合うわけです。すると、外に向かって戦っていた癖で、そのまま相手に武器をつきつけてしまうようなことが起きがちになります。背中合わせに外敵と戦うときに上手くいくコンビは、向かい合うとちぐはぐになる。そんなことが起きるのです。しかも、戦っていた時期が長いと特に。問題がひっきりなしに起きている状況ならふたりはまとまるのですが、平穏になってきてしまうと、向き合うことになります。すると、向き合い方がよくわからない。向き合って見つめ合って、照れてしまったりする。

©モンキー・パンチ

「かかってきなさい」© モンキー・パンチ

対話が苦手なので、避けてしまうのですね。それで、また外に問題をみつけて背中合わせで戦い始めてしまうのです。しかし、ずっと背中合わせでは、知らぬ間におたがいの背中が離れてしまって、各自バラバラな道にいってしまいます。苦手でも、ことあるごとに向き合って対話をするように意識して、両方ができるようになってきました。向かい合って対話することもできるし、背中合わせで外敵と戦うこともできるという関係が理想の形です。

背中合わせのシチュエーション。子どもの頃からそういう背中合わせフェチでした。だから、BとかCのシチュエーションになると、おいおいダサいよと思ってしまう。しかし、この背中フェチが強すぎると、ふたりの対話が疎かになってしまいます。「ときにはBとかCもありじゃないの」とダサさを許せるようになってから、弱さを見せ合って、向き合えるようになりました。「外敵と戦う」から「ともに暮らす」という柔らかいコンビのあり方を覚えていったと思います。

(約1428字)

Photo:  Thomas Leth-Olsen

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。