【第141話】ピラミッド信仰から飛び出そう / 深井次郎エッセイ

「上がこわくて、萎縮してしまいます」

「上がこわくて、萎縮してしまいます」

クリエイティブリーダーは
自分たちの世界をつくる人
ピラミッドを抜け出そう

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一度対談したことのある飯塚健監督がいます。飯塚さんは、ぼくと同い年で、『荒川アンダーザブリッジ』など数々の作品を手がけていますが、20歳そこそこで映画監督デビューしています。彼は監督になりたかった。なので、いきなり監督になったのです。アシスタントは一切していません。ボスはすでに20歳の頃からボスなのです。そしてボスとしての経験を積んできました。

リーダーは、リーダーのポジションでこそ活きます。リーダー向きの人が、大きな組織にアシスタントから入ってしまって、弁当の手配でつまずいてそこでつぶれてしまう。けれど、弁当の手配ができなくても監督になれます。逆に弁当の手配がいくらうまくなっても、監督にはなれません。なれるのは一流の弁当の手配係です。こう説明すればだれでもわかることですが、どうしてもピラミッド信仰が邪魔をしてしまうのです。だから多くの人が弁当の手配からはじめてしまう。(もちろんその経験が無駄になるわけではありませんが)

アシスタントをしていると「言われたことも出来ないで」と怒られる。すると監督になるような人は「言われたことだからこそやりたくないんです」と反論してしまうのです。「勉強しなさい」と言われた途端にやる気をなくす子ども。あまのじゃく。あれですね。けれど、そうなのだからしかたありません。

いま未来のリーダーたちが、塩漬けにされているように感じます。封建制度の中でいつまでも昇ることが出来ずにいるのです。「なんだ生意気な」とか「不器用なヤツは使えん」とダメ社員のレッテルを貼られ、自信喪失しているリーダーたちが眠っている。それならむしろ、放り出されてしまったほうが道が開けます。ピラミッドからはじき出されてしまった。それでしかたなく自分がボスになってやりはじめたら認められてきたというケースはよくある。ピラミッドの途中ですり切れてしまうよりは、鶏口牛後。小さくてもリーダーになったほうがイキイキするのです。

「そんな雑用もできないで」怒られたからといって、腐らないことです。自分はどのポジションで活きるのか。己を知ることです。監督なのか、助監督(中間管理職)なのか。はたまた専門職であるシナリオライター、俳優、撮影、照明、音声なのか。

社長と参謀では、職能がちがいます。どちらが偉いとかではありません。独立経験者が会社をたたんでサラリーマンに戻ろうとすると、転職面接で敬遠されることがあります。小さくてもボスをやってきた人間は、使いづらいからです。だれかの部下であることが向いていないことがある。

未来のクリエイティブリーダーたちは、ピラミッド信仰を捨てて、封建制度の外に出よう。監督になれるのは、自分の世界をつくれる人、自分の法律をつくれる人です。正しいかどうかはわからないけど、これが最高なのだと言い切れる人。そして賛同してくれる仲間を数人でもいいからつくれる人。いま大きなピラミッドの中でもがいている人たちのなかに、未来のリーダーが多くいるはずです。そんな隠れたリーダーたちこそ、本を書いたり、自分メディアをつくって仲間を募っていきましょう。

 

(約1294字)

Photo: Brett Weinstein


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。