【第137話】ブッダが面接うけたらこう言うね / 深井次郎エッセイ

この光はいましかない

この光はいましかない

いまこの瞬間にウソがなければ
いいのではないか

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「御社が第一志望です」就活生が面接でそう答えることを、許してやって欲しい。そういう話を前に書きました。自分の力で人生を切り開くというのは、はったりにつじつまを合わせることの連続です。「こういうのできますか」とあなたに新しい依頼があった時に、自信がなくても「もちろんできます」と答えて、帰ってから猛勉強。なんとか仕上げて納品してひと安心という風に、そうやって成長していく。こういうことは、特に新人の時代は、だれもが経験あるのではないでしょうか。「できます」と答えるのは厳密にはウソつきです。正直にいうと「できるかわかりませんが、全力でトライします」ということになります。

かのブッダ先生いわく。「いまここ」一瞬一瞬の積み重ねが人生です。未来のことも過去のことも、考えてはいけない。いまこの一瞬にだけ、集中して意識を向けなさいと教えています。では就活の「うちは第何志望ですか?」という質問に、「いまここ」の精神で答えてみるとどうでしょう。質問を「いま一番欲しいものは、なんですか。それはうちの内定ですか?」と読み替えてみるのです。そうしたらあなたは「はい、その通りです」と答えます。「いまこの瞬間」に限れば、まぎれもなく真実でしょう。ウソではありません。だってここまで御社のいくつもの選考をくぐり抜けてきたわけです。合格したくないわけがありません。そして今、最終面接のまっただなか。目の前で、社長が問いかけているのです。もちろん、いまこの瞬間に一番欲しいものは、御社の内定です。答えはひとつ「はい、御社が第一志望です(ただし、いまこの瞬間に限る)」。

次の瞬間にはわかりませんが、いまこの瞬間に関しては真実です。それでよいのではないでしょうか。ぼくたち人間は、映画『カサブランカ』のボギーなのです。

「夕べはどこにいたの?」
「そんな昔のことは覚えていないね」
「今夜、会ってくれる?」
「そんな先のことはわからない」

こんな台詞がありましたが、これが一瞬一瞬を生きるということです。まあ、わかってます、いまぼくは屁理屈を述べてます。「ウソをつく」という罪悪感をまぎらわすために、あれやこれや考えています。もちろん、毎日にウソがなるべくないほうが倫理的に良いのは間違いありません。ただ、この就活の第一志望問題は、許されるウソなのではないか。この問いに、あなただったらなんて答えますか?

 

(約948字)

Photo: steve


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。