【第132話】借り物の地球にキャンプするものとして / 深井次郎エッセイ

「起きて、はたらくよ」

「起きてー、はたらくよ」

 

 

どこでも眠れる体にするために
固い床で寝てますが
これがなかなかいいのです

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1日で大きな時間をつかうのは睡眠。人生の3分の1は寝ているわけです。眠り方が生き方だと言っても過言ではないかもしれません。ぼくはちょっと変わっていると言われます。普段からキャンプのように寝ているからです。ベッド派でもふとん派でもなく、ヨガマットを床にひいて寝ています。

もともとの始まりは、独立して事務所に泊まり込んでいたとき。床にヨガマットをひいて、寝袋で寝るスタイルになりました。冬は寝袋だけじゃ寒いので、シルバーの薄い反射シートをかけたりして、山でのビバーク(野営)さながら。ずっとベッド派で育ってきたので、地べたにマット一枚というのは固いと思いましたが、長いキャンプだと思えば、ワクワクしてくるものです。つい快眠というと、高級な羽毛布団と低反発のベッドと枕で、というような話になります。でも、ぼくは真逆で、より簡素な方にいきました。固いところで寝るのは、体に良いのか良くないのかはわかりません。でも、どこでも寝れる体になりたいと思いました。

サバイバル時に生き残れるのは、どんな状況でも眠れる人間だ。そうのようにチェ・ゲバラの革命の本で学びました。いつもの慣れたベッドと枕でしか眠れない人は、環境が変わると疲れがたまってしまう。眠れない人から脱落したり、死んでいくのだというのです。20代のぼくは勝手に革命家を気取っていましたから、毎日事務所で夜になると「ここが今日のキャンプ地だ」と寝袋でミノムシのようになっていました。寝袋は、足が広げられず動きが制限されますので、その辺はストレスでした。でも床の固さのほうは、すぐに慣れました。慣れれば疲れがたまるということもありません。岩盤浴も固い床に一枚タオルを敷くだけですよね。野球の松坂大輔選手も遠征時のホテルでは床で寝ているようです。彼の場合は、「高級ホテルのやわらかいベッドでは、腰を悪くしてしまうから」とのことでした。固いところで寝る方が、実は健康にもいいのではないかと思って、最近ちょっと調べています。

実は、ぼくが独立した当時、1年目で早くも資金が底をつき、倒産寸前まで追い込まれました。そこで、事務所をつくばに移し、モノを持たず究極までランニングコストをかけない運営方針にシフトしました。そのときに臥薪嘗胆ということで、固い床に寝はじめました。いつか軌道に乗ったら、ちゃんとやわらかいベッドで寝ようと。それまでは耐え忍び、固い薪の上で眠るのだ。この悔しさを忘れるな、という自戒の念でひとり、床で寝はじめたのです。そしたら、これがもう10年近く続いていて、実はぼくには合っているようです。出張先で、ベッドが合わなくて寝れないということはないですし、ちょっと横になれれば、畳でもベンチでもどこでもすっと寝て体力を回復できるようになりました。

ゆくゆくは横にならなくても熟睡できる体にしたいものです。ゴルゴ13のデューク東郷は、椅子に腰掛けながら眠ります。壁に背を向け、手には銃を持っていて、指は引き金にかかっています。いつドアから敵が侵入してきても対応できるようにして寝ている。そんなサバイバルな状況は自分には関係ないよと思っていましたが、震災時にはそうなりました。被災地で活動していると、余震も続いています。いつ津波がくるかわかりません。津波に襲われたエリアで寝てるわけですから、起きれなかったらアウトです。でもずっと起きてると体力がなくなるし、頭もまわりませんので、交代で寝たりして短時間で深い眠りをとる必要があります。枕が変わったら眠れないとか、明るいと眠れないとか、騒音があると眠れないという人は続きません。

ベッドをやわらかくし甘やかす方向ではなく。どんな状況でも眠れる体にしておくほうが、自由だなと思います。そして毎日キャンプ気分で眠り、ぼくら人間は借り物の地球にちょっと宿泊させてもらっていることを忘れずにいたいのです。

 

(約1588字)

Photo: Bob Vonderau


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。