【第121話】未来が楽しみになる “蓄積される仕事” / 深井次郎エッセイ

「ピラミッド積んできたよ」

「ピラミッドにひとつ積んできたよ」

ゆっくりでも
蓄積される仕事をしていると
未来が楽しみになる

 

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ゆっくりでも、すぐにはお金にならなくても。蓄積される仕事をコツコツやっている人たちがいます。そんな人は年を取るのが楽しみになります。書いたり話したり教えたり、という仕事も、年を取るのが楽しみになる仕事のひとつです。一生続けることもできます。

本は書いたら残ります。出した直後はたとえ売れなくても、将来ヒットが出れば、昔の著作も再び注目してもらえます。絶版になった本も、作家が望めば版権をひきとって刷りなおすことができます。書いたものは一文字も無駄にならないのです。こうしたWEBでの連載も蓄積されます。たくさん書くほど、検索流入などで読み手が増えていくし、一度書いてしまえば、他の媒体でも再利用できます。

反対に、経験が蓄積されない仕事もあります。総菜のお寿司にタンポポをのせるような単純作業は、10年やっても、20年やってもスキルは変わりません。他には、その社内でしか通用しない業務。たとえば、ある銀行には独自システムに数字を入力する仕事がありますが、それは違う銀行に転職したら、全然違うシステムなので、入力方法を1から覚え直さないとなりません。「前職の10年間に覚えたことが、他では何の役にも立たなかった…」と嘆いている先輩たちもいます。社内政治に明け暮れたサラリーマンもそう。社内事情に精通し、上司からのポイント稼ぎだけに力を注いでも、会社を変わったら、何も残りません。

仲間づくりも同じです。蓄積される関係を築いていきたいです。「会社が変わったらすぐに赤の他人になってしまうような関係」に労力を費やすのは、むなしくなります。会社の看板でつきあっていた人は、相手がそのブランド企業を辞めた途端、「メリットがない。もう関係ない」と言って離れていきます。それと反対に、個人的に興味や志が同じ同士でできた仲間は、相手の所属が変わっても、変わらず付き合いはつづきます。年を取るごとに増えていくし、時間とともに深くもなっていきます。

どうも蓄積されないことを、やる気が起きません。30代になり、より人生は短いと意識するようになりました。目指す社会を実現するためには、時間を切り売りしてる暇はありません。未来を楽しみに思えるか。これがぼくにとってお金よりなにより大事です。蓄積される楽しみがあるから、あした以降も生き続けようと思えるのです。

 

(約945字)

Photo: piotr


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。