【第120話】未来が楽しみになる “アンティークな仕事” / 深井次郎エッセイ

老木のほうが価値がでる仕事とは

老木のほうが大切にされる仕事とは

若い時はあえて
若さが不利になる
仕事をしてみよう

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年をとるのが楽しみになる仕事をしていきたい。若さが売りの仕事、たとえばアイドルのような仕事だと、限界がくる年齢があります。年を取るごとに居場所がなくなっていくのは辛いことです。見た目の若さとか、肉体を酷使する仕事はどうしたって年をとれば通用しなくなります。

若さでチヤホヤされる仕事は、若いうちは天国です。しかし、あえて逆に若さが不利になるような仕事を選ぶ人もいます。20代半ばで独立した若い創業者たちは、若さゆえ信用されず、経験もなく、頭を悩ませた仲間も多くいます。メガネをかけてヒゲを生やしたり、高いスーツを着たりして、老けて見える工夫をしたりしていました。(逆にうさんくさく見えたり)

ぼくが生き方エッセイを書き始めた時も、若さゆえの説得力のなさに、工夫せざるをえませんでした。男性読者のほうが本を著者のプロフィールをよくチェックします。自分より上か下か、著者の肩書きをみるのです。著者が自分よりも年下だったら聞く耳をもたない、という人も多いのです。ですから、若かったぼくは、あえて女性向けに絞らざるをえませんでした。女性は内容さえよければ、著者がだれであろうと受け入れてくれる度量のある人が多いとのことでしたので。いずれにしても生き方エッセイというジャンルで、男性著者にとって若さは未熟でしかなく、不利にはなれど、売りにはなりませんでした。

文章を書くという仕事は、男性にとって、若さが売りになることはほとんどありません。ある脳の研究によると、文章を書く力は、30代40代以降にどんどんシナプスがつながってきて飛躍するそうです。書くための脳の回路が若い時はうまくつながっておらず、それが若手の作家が少ない理由なのではないかという話もありました。感性で書くような詩は例外かもしれませんが。年を取るごとに経験と知識が増えてくる。しかも脳の回路がつながってくる。そうして年を取るごとに書く能力は上がるのだそうです。

できるなら若いうちに起業することをぼくはすすめていますが、これも確率でいったら不利です。若さは未熟で不利でしかない。前にデータを見ましたが、20代の起業は3年以内にほぼ9割つぶれている。一番確率が高いのが40代の起業でした。ただ、20代は怖いもの知らずで体力もあるので、たまたまうまく行ってしまうこともあります。

若いうちは不利なのに、なぜすすめるのか。それは初めての起業は必ずといっていいほど失敗するので、若い方が失うものがないからです。それに経験値はやっぱり早く始めた人には追いつけない。生まれつき経営者一家で育った人は別ですが、サラリーマン的発想から経営者的発想に切り替えるのには、少なくとも数年はかかると経験から感じます。(ぼくがセンスがなかったせいもあるかもしれません)

たとえば人前で話す仕事をしている人はわかると思いますが、上達速度は場数に比例します。どんなに能力がある人でも、場数を踏まないと、上手くなりません。早くスタートした人に、後から追いつくのはなかなかに大変です。経験するごとに上手くなって行くのです。若い時は、下手くそですし、若さゆえ、聞く耳を持ってもらえません。でも、だからこそ、不利にも関わらず若い時からやっている人が、誰よりも多く経験をつめるのです。若い時は、つい若さを武器にしたくなりますが、あえて若さが不利になる仕事をしてみるのも後々いいですよ。若いうちしかできない仕事も、それはそれでいい思い出になるものですが。

最新のデジタル時計は、古くなるごとに価値がなくなって寂しくなります。でも、アンティークの時計は古くなるごとに価値が上がっていきます。アンティークな仕事をしたほうが、未来が楽しみになります。どんな仕事をしたらいいですかね。

 

(約1508字)

Photo: piotr


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。