【第110話】落ちない人はいない / 深井次郎エッセイ

「激しすぎて、うちでは手に負えません」

「うちでは手に負えません」

 

やる気がありすぎて
落とされるゼミがある

——

「あなたは能力が高すぎるので落とします」
そういうことが面接では起きます。小さい頃は勉強でもスポーツでもテストでは、とにかく高い点数をとれば合格できました。でも、大人になると点数だけで評価は決まりません。

大学にはゼミがあります。興味のあるゼミに入るための面接で、ある学生が落とされました。その報告を聞いたとき、ぼくはものすごく驚いた。どう考えてもその学生は優秀で意欲もあるし、落ちる理由が見つからなかったからです。その大学に首席で入ってきた学生です。なんで落とされたのか、今後の参考に聞きにいった方がいいよと言って、そうしました。すると、落ちた理由がわかった。「モチベーションが高すぎる」という理由だったのです。先輩学生と担当教授が面接するのですが、「うちのゼミは適当にのんびりやりたい人の集まりだから、君では持て余すと思う」ということのようです。

教授は、楽をしたいのかな。適当に流していたいところに、ガツガツと学びたい学生が来ると、質問に対応したり手がかかって面倒だと。上にレベルを合わせるのではなく、下に合わせておいたほうが楽という考え方なのでしょうか(ぼくはそれが楽だとは思いませんが)。適当に話して、単位をあげればいい。学生相手に時間をさくよりも、自分の研究や論文をやってたい。給料をもらえる限りは、できるだけ楽をして早く帰りたいということなのかもしれません。

これはビックリしました。ぼくは先生としては、意欲の高い学生のほうが断然うれしいです。そもそも自分が好きな分野を教えてるわけですから、生徒に「私もその分野に興味があって学びたい」と言われたらうれしい。「そうか君もわかってくれるか、この面白さが」とできることはなんでもしてあげたくなります。能力が高い学生がガツガツきてくれたほうが、張り合いがあって楽しい。そういう考えの人が教育者になっているものだと思っていました。もちろんそういう先生もいますが、全員ではないようです。まだまだ教育の現場は知らないことがたくさんあります。

これが会社だったら、意欲がありすぎて落とされることがあるのもわかります。会社にはそれぞれカルチャーがありますので、それに合わない人がいると、入ってもすぐ辞めてしまうことが予想されます。だから最初から合わなそうな人は入れないほうがいいのです。せっかく新卒で就職したのに、半年で辞めることになったらお互いよくないからです。社長の方針で、「ぬくぬくと現状維持でやっていこう。成長はしないでいい」という会社もあります。そんな会社に成長意欲の高い人が入ったら、不完全燃焼で不満がたまってしまいます。(明日に続きます)

(約1078字)

Photo: Steve Jurvetson


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。