【第104話】くり返し見ることのできない人生について / 深井次郎エッセイ

「私の思い込みかな」

「わたしの思い込みかな」

ものを考える時は
2人で対話するといい


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企画は、2人ひと組になって考えるといいようです。1つの見方に偏ってしまうと、穴が見えにくいからです。作家には必ず編集者がいます。編集者がいることによって、読者により届きやすい言葉になるものです。2人で対話することで、気づくことができる。「その考えも良いけど、こう反論する人もいるかもね」「なるほど、じゃあその反論にはこう答えればいいよね」とどんどん穴がふさがれていくのです。これなら大事なプレゼンテーションのときも、わかりやすい発表をすることができます。いきなり面接に望むのではなく、何度もシミュレーションしておくとよい受け答えができます。

ミシマ社をつくった三島邦弘さんがおっしゃってました。ミシマ社では、出版企画を考える時には、最低2人以上のチームをつくって考えるようです。そのほうがより練られた案に育つからです。バスケも1人で練習するより、2人以上で練習したほうがうまくなるものです。1人だと好きなようにシュートが打ててしまう。でも、相手にディフェンスをしてもらって、打ちにくい状態で練習した方が、試合につよくなるものです。

文章も同じです。こういう文章を書きながらも、「ここは突っ込まれるだろうな」とわかりながら書きます。そして次の行で、その突っ込みへの答えを書いていく。編集者つきで文章を書く練習をしてきた人は、それが自分1人でもできるようになります。最初は編集者に頻繁に突っ込まれる経験をします。しかし、しばらくすると、編集者に読んでもらう前に、「あ、ここ突っ込まれるかも」と直します。やがて、1人でも一人二役ができるようになっていきます。中にはもともと、自分で自分に突っ込む「ノリツッコミ」ができるような天才もいますが、これはまれだと思います。

理研の小保方さんが記者会見で、「STAP細胞はある」と改めて主張したようです。でも、その証拠となる写真を示すことはできず、相変わらず疑惑の立場のままです。こんな騒がれた状況では前向きな研究もすすめられないので、かわいそうではあります。今後は研究も2人以上のチームでやったほうがいいでしょう。(おそらく今までもチームでやってたものだと思いますが)たとえば、1人だけで、「UFOを見た」と言ったら「いやいや見まちがえでしょう。疲れているのよ」と言われてしまいます。でも、2人以上で「見たんです」と言ったら、本当かもしれないと思う人は多くなるはずです。

人間は自分1人だけでは、信じられないことがあります。それが本当に起きたことなのか、夢なのか信じられないのです。「いま見たよね」「うん、見た。やばいね」という仲間とのやりとりで現実だと実感する。自分1人しか見ていないとなると、写真や動画を撮っておかないと、自分でも自信がないし、他人にもなかなか信じてもらえません。だれだってこれだけの人に否定されると、「確実に見たはずなんだけど。もしかして夢だったのかも」と弱気になってきてしまいます。「わたしも見ました」という研究仲間が出てくれば、風向きは変わるはずです。一緒にやってた方、どなたか名乗り出ませんか。

 

(約1228字)

Photo:  Rosino


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。