【第085話】文系的機械克服法

「さて寝るか」

「被写界深度が浅いね」

避けられない
苦手なものとは
寝てみよう

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好きで得意なものに集中し、苦手なものには手を出さない。これが基本的なスタンスです。しかし、「大きなやりたいこと」の中に含まれた「小さな苦手なこと」というのはあるものです。例えば、いい写真を撮れるようになりたい時、一眼レフカメラの使い方を覚えないといけません。絞りとかF値とか何ミリのレンズとか、理系っぽい専門用語が出てきます。カメラもいろんな設定の数字が出てきて、機械モノに苦手意識があるぼくは、難しそうだなと一歩踏み込めずにいました。いろいろ本を読むんです。『はじめてのデジタル一眼』とか『女子カメラ』のような入門編の雑誌とか。でも、ちんぷんかんぷん。頭に入ってきません。苦手だなと思うと、脳が拒否するんですね。

こういうときの攻略法は、いっしょに寝ます。とりあえず寝る。カメラをいじりながら、そのまま寝る。すると、少しずつ苦手意識がなくなって、体の一部みたいな感じになってくるから不思議です。あとは、とにかくカメラと一緒にいる時間を増やす。毎日かばんに入れて持ち歩く。できればいつも首にかけていて、撮っては、いじる。そして夜はいっしょに寝る。すると、「あ、F値ってそういうことか」とわかってきます。いまでは、人に撮影を頼まれるほどになりましたし、少しはカメラトークができるようになりました。文系の人は、数字とか機械をいじる場面になると、「難しそう」と壁をつくってしまいます。でも、いい写真を撮るためには、避けては通れません。

会社を立ち上げたい人だったら、経理も一通りわかってないといけません。将来的に人に任せるにしても、自分がわかってないと資金的ディフェンスがザルになってしまいます。経理の達人にまでなる必要は全然ないけど、広く浅くでもわかっていれば、リスクにも気づけます。貸し方、借り方って何? 仕分けがわからないとか、税金とか、ぼくもすごく苦手分野ですが、経理の場合は、何と寝ましょうね。ぼくは確定申告などの書類と寝ました。あと、経理の入門書。

動画の編集を覚えた時は、編集ソフトの入ったMacbookといっしょに寝ました。ヴィトゲンシュタインとか何言ってるかわからない哲学書も、寝るといいです。こういうことを伝えたいのかもしれない、となんとなくわかるようになってくる。あとはデザインも簡単なものくらいはできるようになりたいので、インデザインと寝なきゃな。やりたいことをやるときには、小さな苦手にぶつかってしまうものです。でも、やりたい気持ちが勝れば、克服してしまいます。孫と話したい一心で、おばあちゃんがiPad買って、スカイプとかダウンロードしていますよね。おばあちゃんも、おそらくiPadと寝たと思うんです。

そういう意味で、合宿は有意義だと思います。すぐにみんなと仲良くなれる。普通の日帰りのイベントだけでは、フェイスブックの友達くらいにしかなりませんが、合宿なら初めての人同士でも仲が深まります。オーディナリー強化合宿、林間学校やりたいなぁと密かに目論んでいます。山奥のひなびた温泉旅館でみんなでスケジュール決めて原稿書くの。早朝ランニングして、滝に打たれたりしてから執筆タイム。文豪気分で缶詰めで追い込む。タイムトライアルで、2時間で一本書く。それをみんなで読み合って、フィードバック。そして、もう一本書くのくり返し。しかも、プチ断食も組み合わせて体内浄化しようか。頭と体を健やかに。この合宿で書いた作品をWEBで投票を募り、優秀作品は本にして販売。執筆だけじゃなくて映像とか写真でもおもしろい。という過酷で楽しい道場をやってみたいと思っているんだけど、あんまり「それいいですね」と言ってくれる人がいない。ぼくは自分にも他人にも甘くて、厳しい鬼教官にはなれないので、だれか仕切ってくれませんかね。

(約1547字)

Photo: jinterwas


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。