【第083話】生乾きで発表しよう

「そろそろ発表しようと思うんです」「その方がいいな」

「あそこ間違ってたぞ」 「ありがとう、ひとつ賢くなったよ」

 

批判や指摘をもらうことが
知識を増やす一番の近道です

 

——–

批判されたらどうしよう。書く人たちならだれもが恐れたことがあるのではないでしょうか。自分はこう思うけど、そう思わない人もいるかもしれない。「間違ってる」と批判されることもあります。ときに本当に間違っていて、大勢の前で恥をかいてしまうこともある。批判や恥を恐れてしまうと、結局、発表しない方が身のためだなという選択になってしまいます。

でも、黙っているのが身のためでしょうか。あなたが表現者であるなら、それは違います。完璧なことが証明できるまで、発表はしないでおこう。生乾きのままでは、表に出せない。そうグズグズしていると、成長が滞ってしまいます。ぼくもグズグズするタイプなので、わかるんです。自分たちだけの頭で考えていると、同じパターンの思考回路に凝り固まってしまうことがよくあります。あーでもない、こーでもないと堂々巡りして、貴重な時間を浪費してしまう。

完璧ではない。生乾きでも、「こう思います」と大勢の前で発表する。すると、世の中には賢い人たちがたくさんいます。いろんな粗を見つけてくれます。「きみのその意見はこういう理由で間違ってるよ」「だいたい合ってるけど、この部分だけは違うよ」「別のやり方のほうがうまくできたよ」 知識を無料で教えてくれるんです。そうやって学んでいきます。アウトプットする人の成長が驚くほど早いのは、フィードバックが集まるから。「犬のしつけ」や「アプリ開発」のブログをやってる人でも、「きみきみ、それは間違ってるから、こうするといいよ」という指摘をもらって知識を増やしていきます。

若い時代はあっという間で過ぎ去ります。自分だけにこもって研究しているよりも、生乾きでもアウトプットしたほうがいい。スポーツジムでも、間違ったトレーニングをしていると指摘をもらえます。「ちょっとキミキミ、そのフォームじゃ腰痛めるよ。こうするんだよ」と頼んでもないのに、ムキムキのおじさんが教えてくれるものです。インストラクターでもない、ただのお客です。ただその人は昔、全日本で活躍してたこともあるレスリングの選手だったりする。こういう「ただ者ではないお客」が、各分野にたくさんいる。もし、これが自室で1人黙々とスクワットしてたら、ずっと間違いに気づきません。ひとり静かに腰を痛めて、さめざめと泣くわけです。成長どころか逆効果。アウトプットをしない人の中には、こういうパターンにはまっている人もいる。だから、できるだけ人目につく場所に出ていきましょう。そこで生乾きのものでも発表する。世界中の賢い人たちの頭を借りるのです。これをくり返すことで、研究と成長のスピードが上がっていく。

いま話題のSTAP細胞。理研の研究チームの発見が「実はなかったのではないか」と騒がれています。真偽はわかりませんし、悪意があったのかもわかりません。思うのは、いずれにしても、あまり叩かない方が日本のためだということです。ただでさえ日本人は引っ込み思案だと言われています。それなのに、さらに若者が発表しなくなってしまってはもったいない。「完璧じゃないとこんなに叩かれるんだ、こわい」子どもたちが萎縮してしまいます。できたと思ったけど、まちがってましたと言うのなら、「はい、お手つき、一回休みね」と。そういう日本の伝統、カルタ程度のノリでいいのではないでしょうか。

この女性リーダーの場合、1人でウソをついたわけではない。偉い先輩を何人も巻き込んでのプロジェクトです。担ぎ上げられたにせよ、自分で巻き込んだにせよ、彼女に何らかの才能があったことは確かです。何もない人では、チームをつくって発表まで持っていくことができません。ここで叩かれて才能がつぶれてしまっては、社会にとって損失です。不正を認めるわけではありませんが、間違いやお手つきにはどうか寛大にいきたいものです。ごめんなさいと誠意をもって謝れば、一回休んで何度もトライできる社会。これがクリエイティブが伸びる社会だと思いますが、いかがでしょうか。少なくともぼくは、そういう環境で暮らしたいな。この意見、もし間違ってたら教えてくださいね。指摘をもらってぼくも成長しますので。

(約1691字)

Photo: Cornelia Kopp


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。