【第078話】他者とにじんでいくこと

「どうぞつまんでください」

「どうぞつまんでください」


逆さ箸は
他人の箸は汚いと
宣言するのではないか

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多様性を受け入れる心。これは、これからの世の中をつくっていくリーダーたちには必要です。自分以外のものを異物とみなさないオープンな感性。オープンと言えば、大阪人のノリのいいボディータッチとか、「じぶん、これからどこ行くん?」という言い方とか、面白いですね。「あなた」も、「じぶん」なのです。そういう境界をあいまいにして、異物などないというおおらかさで生きれたらいいものです。自分にとっても社会にとっても。

数日前の鍋の箸からはじまった一連の話。ただの鍋の話が社会問題にまで大きくなってしまいました。わざわざ逆さ箸をする人は、気を使ってやってくれている人たちがほとんどですが、あれは「他人の箸は汚いものなので、直箸はしないでね」という空気をつくってしまいます。わざわざひっくり返すという行為が、他人の箸は汚いですよと宣言してしまうんですね。まわりにも直箸をしないよう強制する。「そうかこの人は、汚いと思っているんだ。じゃあ、気をつけないといけない」そう空気を読んで、一応ぼくは直箸をしないでおきます。

こういう「自分もしない」という行為が、他人にも強制してしまうことはあります。それは他人を自分のルールで締め付けることになるので、気をつけたいものです。ぼくも飲み会の席でわざわざ「タバコを吸わないんです」とは言わないようにしています。相手の人が、吸いにくくなるだろうからです。「俺もしないんだから、お前もするなよ」というルールはきついです。ぼくは自分で勝手に吸わないだけなので、吸いたい人は自由に吸って楽しんで欲しいと思います。

大皿料理で箸を逆さにするように。自他の境をはっきりさせるのがマナーとは思いません。たしかに、なるべく他者と混じらないようにしたほうが、自分を守ることはできます。でも、それはお互いに傷つかないかもしれないけど、生きづらい世の中に向かわせてしまうと思うのです。

 

(約810字)

Photo: Idhren


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。