【第073話】春の進路選択のこと

迷うけど、楽しいね

迷うのが面白いんだよね

 

旅はどこに行こうか
迷ってるときが一番たのしい

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浪人か現役か、という話です。納得のいく大学に入るために浪人するか、受かったところに現役で行ってしまうか。オーディナリー編集部のモトカワさんの息子さんが今この状況で迷っているのだとか。どっちがいいんだろうね、という話をみんなでしていました。もう3月中ばだから、すぐ決めないともう4月です。この選択は人によりますから。親はなるべく口を出さず、本人が自分の意志で決めるのが後悔しないです。

ぼくも当時同じ状況でしたけど、現役を選びました。ほぼ即決でした。あと一年、大嫌いな受験勉強するなんて地獄すぎて考えられない。なので不本意ではあるけど、素直に負けを認めました。降参です、勘弁してくださいと。自分の身体を大切にしました。これも何かの縁だと思って与えられた環境で咲こうと思いました。ぼくは運がいいはずなのに上手くいかなかったのは、何か大きな意味があるはずだって。勝手に「神の計らい」ということにしていました。

浪人で思い出した。高校のときの先生が「絶対に現役で行きなさい」とよく言ってたんです。その理由が「ベンツ買えるよ」って話なんです。これから君たちは大学に行き、そのあと会社に入るだろう。サラリーマンは60歳で定年。働ける年齢には上限がある。一年社会に出るのが遅れるということは、一年少なくしか働けないということ。その一年分の年収がもらえないんだよ。生涯賃金が少なくなってしまうよ。たとえば出世して年収が600万円だったとしよう。その金額を君は損するんだ。ベンツ1台買えるのに、もったいないよ。と生徒にはっぱをかけるんです。

どう思いますか? モチベーション上がりますか。ぼくはさっぱりでした。ぽけーっとしてました。そもそもお金のために生きてません。生きるのにお金が必要なのであって(実はこれも疑わしいけど)、お金を手に入れるために生きるわけではない。楽しむために生きている。納得いく選択をしたらいいんです。自分で迷って、決める。この迷うことも、苦しいとか言いながら、本当は楽しいのです。旅は、どこに行こうか迷ってるときが一番楽しいんじゃないでしょうか。早く決めなさい、と隣で急かされたら鬱陶しい。じっくり決めたい人は、浪人だっていい。人生をよく味わっている。アドバイスする大人は、迷う楽しみを奪ってはいけません。どっちに行っても正しいんです。それが自分で決めた道ならば。

 

(約916字)

 

Photo: Pattys-photos


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。