【第027話】異分野へ遊びにいこう

AP Photo / Bill Ingraham

「なかなかいいでしょ?」ご満悦のバックミンスター・フラー氏(AP Photo / Bill Ingraham)

 

 

評論家に気に入られる必要なし
読者がいればいい

 

遊びで書いてるブログが書籍化されて売れたりすることがある。そうすると職業作家たちは、あんな稚拙な話でよく出せるよね、甘いよねと笑ったりする。そこには嫉妬もあるかもしれない。自分は何十年も続けているのに売れないで、遊びで書いてるような人が売れてしまうと、なにか言いたくなる気持ちもわかる。職業作家は、それで食ってるんだから、必死だ。「プロをなめるな」とひとことふたこと申したくなる気持ちもあるでしょう。

これから書く人たちは、そんな厳しい忠告をするベテランたちの声は笑顔で受け流せばいい。遊びでつくったものを売ってはいけない決まりはないのです。あなたは、基本もできていないし、上手くはないかもしれない。そりゃ、始めたばかりなのだから当然です。でも、そこに何か光る個性があれば、気に入って読んでくれる人が出る。喜んでくれる人がいるなら、それは役に立っている。立派な仕事なんです。

モデルをやってる人が、俳優に挑戦したり、歌に挑戦したり。もしくは文章を書いてる人が、映像に挑戦したり、陶芸に挑戦したりする。こういう異分野に挑戦する時、その各分野のプロたちから、「おいおい遊びじゃないんだよ、なめんな」という反応もある。こんな声におじけづいてはいけません。

だって評論家やベテランの先輩たちに気に入られる必要はないんです。お客さんが気に入ってくれればいい。業界のなんとか賞なんて獲れなくていい。喜んでくれる読者がいればいいんです。

未熟で恥ずかしいのはわかります。でも、発表するのを後回しにしていると成長が遅くなる。場数を踏まないと、成長できないのです。下手でも、自信がなくても、やりたいことは挑戦してみる。発表してみる。ためしに売ってみて、反応をみる。

街の定食屋には、カレーも天丼もラーメンも珈琲もありますが、どれも絶品というのは少ない。もし絶品のカレーが食べたいのなら、カレー専門店にいくでしょう。ひとつに絞って、その道何十年というほうが、美味しそうに感じます。実際、美味しいケースが多い。でも、例外もある。街の定食屋さんのラーメンが最高なんだというレアケースもあるのです。

クリエイターも一緒です。職業=画家、建築家、エッセイスト、デザイナー、映像作家。このように肩書きが多いと、どれも中途半端な印象を持たれがちです。でも、やりたいと思ったことは、どんどんやってみたらいい。遊びでつくって、売ってみたらいい。「こんな下手なもの、よく売れるね」とベテランに言われたら、「本業じゃないですし、遊びですから」とかわせばいい。「こんなわたしの作品でも気に入って買ってくれる人がいるので、うれしいですよね」と笑顔で返しましょう。「本業じゃない」と思うと、挑戦する自分も力が抜けていいものです。

『宇宙船地球号操縦マニュアル』のバックミンスター・フラー。彼の肩書きは、「思想家、デザイナー、構造家、建築家、発明家、詩人」です。会社もつぶしたし、雑誌も創刊したし、いろんなものに手を出して、さまざまな職種を転々とした。なにをしてる人かわからない、建築家でもなく思想家でもなく中途半端な人と言われました。各分野でも厳しい批評をされたりしました。でも、晩年、彼がやってきたことを振り返ると、ひとつの世界観のようなものができ、ようやく世間は賞賛した。彼の考えを表現するには、デザインも建築も詩も必要だったんです。では彼は街の定食屋だったのでしょうか。違います。たぶん、彼のやっていることを既存の肩書きでは表現できなかったので、しょうがなく複数の肩書きを並べるしかなかった。それで輪郭を浮かび上がらせるしかなかったのです。

多様であたらしい職業が生まれる時代、こういう人が増えてくる。節操なくジャンルをまたいで、興味に導かれるままやりたいことはやってみるといい。遊びのノリで。そうやってカレーとラーメンでカレーラーメンをつくってもいいし、あなたオリジナルの名前の料理を発明してもいいんじゃないかな。

(約1600字)

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。