【第239話】壁を前にぼくは何をしているか / 深井次郎エッセイ

アイディアはどこにある?

アイディアはどこにある?

 

 

「クリエイティブ・パーソンにインタビューをしたいのですが」

オランダの大学に留学し、講義「Enhance Creativity」(創造性を高める)を受けているSさんから連絡がありました。いま研究課題に取り組んでいるのだとか。 今回のインタビュアーのSさんは自由大学の講義に参加されたメンバーで、KDDI勤務を卒業して、現在オランダに留学している30代半ばの男性です。研究が落ち着いたら、そのうちオーディナリーにも登場するかもしれません。

せっかくなので、今週はそのインタビュー記事をシェアしますね。ぼくがどのようにプロジェクトを進めているか(あるいは進めていないか)についてです。


深井さんは、アイディアを考える際はどのようにしますか?

たいてい最初は「憧れ」から始まります。なんだかカッコいい、自分も同じようなことをやってみたい、という単純な衝動です。たとえば、文章で人の心を癒したり鼓舞したり、相手の人生に良い影響を及ぼしている作家たちをみて「自分もそういうことをやってみたい」というような憧れです。

アプローチの仕方は?

憧れたモノの断片の集積から、自分オリジナルの表現(アイディア)が生まれます。なので、インプットの質と量を確保します。先人の素晴らしい表現に多く触れ、感動し、その要素をどう自分の表現に活かせるか、普段からいつも考えるようにしています。

ぼくの場合は、相手のニーズを想像する能力が低いと自覚しているので、「自分が欲しいものをつくる」ことを意識してます。本で言えば、自分が読みたい本を書く。自分を鼓舞するために書く、自分の備忘録として忘れてはいけない大切なことを書く、ということです。

他人のニーズは想像でしかありませんが、自分のニーズならはっきりわかります。自分を喜ばせることができれば、自分と同じ感性の人々を喜ばせることができるでしょう。自分が好きなモノを、同じように気に入ってくれる人がいるというのは大きな喜びです。

アイディアを生む時の状態について教えてください。どんな心境で取り組みますか?

自分が欲しいものをつくるためには、感動しやすい体質であったほうがいいです。自分の心の反応に細かく気づける必要があります。心をひらき、クリアにして、素直に感動しやすい、心身ともに元気な状態をキープすることが大事です。(心配事などで混乱していると、自分が本当に求めている物が見えなくなるので)

ぼくがやっている仕事は「自分が欲しいものを、自分のためにつくるスタイル」なので、基本的に憂鬱な状態なことはほとんどありません。熱が盛り上がっても、その熱が一時的なものなのか、確認する時間もとります。一時的ですぐ冷めてしまうアイデアは、無理に実行しても、たいていうまくいかないので、手をつけないようにしています。ずっと頭から離れず、ふつふつと熱を保っているアイデアは時期を見てとりかかります。

どんな環境をつくっていますか?

楽しい、ワクワクしている状態のときに生まれたアイディアはうまく進むことが多いように思います。なので、リラックスできる環境であることが条件です。怖い批判的なリーダーに監視されているような、緊張を強いられる場では、はかどりません。

物理的なことをいえば、部屋の掃除がゆきとどき、整理整頓してある環境です。ほこりやゴミがたまっていたり、壊れているモノがそのままにしてあったりする空間では、気が散って集中できません。

一番大事なのは、体調。健康でないと前向きな考えになりません。十分な運動と節制した食事が必要です。十分な睡眠は頭と心をクリアにします。

何かを ”創る” 際にどのようなチャレンジ、困難がありますか?

よくある困難は、「描く理想に、いま持っている技術、能力が届かない」というものです。いまある自分(たちのチーム)の能力では納得いく物ができない… というケース。 求める能力をもつ人物になかなか出会えない時は、困ります。広く探すアクションはしますが、人との出会いは運命や偶然のような、目に見えない力がはたらくので、努力だけでコントロールすることが難しいと感じます。ときに求める人物に出会うまで、何年も時間がかかり、その間ストップしてしまうことがあります。

それらの壁を克服する方法については?

もし、どうしても理想の人物に出会えない時は、いまの自分(たち)の能力でできる範囲まで精一杯やることです。理想のクオリティーには届きませんが、一生懸命つくったものにはしだいに愛着が沸いてきて、「これはこれで、なかなか良いかもしれない」と許容できるようになったりします。あれ? これでは克服していませんね(笑)。

アイディアを実行に移す段階で。思うように進む時ばかりではないと思います。行き詰った時はどのように、何をしますか?

まず、静かに自分の内面を探り、心理的ブロック(止めている原因)がないか確認します。たとえば、先ほどの「探しているのに必要な人材に出会えない」という場合。自分では求めているつもりでも、心の奥の奥ではうまく行かないほうが好都合な理由があったりするものです。「関わる人が増えると、コミュニケーションの手間が発生する。これ以上忙しくなるのは気が重いぞ」とか。「スムーズに成功してしまってはつまらない。苦難があったほうがドラマとして面白いのではないか」とか。

ブロックをつきとめたら、それらを溶かします。「人が増えても面倒なことはない。素晴らしい人物と出会えれば、阿吽の呼吸でわかりあえるし、理想を叶えることができる」など。心の底から、「本当にそれがしたいのだ」と1点の曇りもない状態にして再度チャレンジします。

ブロックを溶かしても、まだうまく進まない場合は?

なんでもいいので違うアプローチをします。尊敬する師匠たちならどうするか想像してみたり、他のうまく行ってる人たちがやっている違うアプローチがないか再度しらべます。自分たちのやり方ではうまくいかなかったわけですから、有識者、経験者にアドバイスを求めます。

考えられるアプローチをすべてやっても進まない場合は?

いったん手から降ろします。「いまは時期ではないのかもしれない」と、脇において寝かせておきます。すべての出来事には意味があると思っています。「これだけやって進まないのであれば、いま実現しないほうが良い理由があるのではないか」そのようなメッセージと解釈します。本当に実現しなければならないものであれば、自分がもう一段成長した後で、その問題がするっと解けることがあるものです。他のことをしながら、時期を待ちます。ものごとはすべてベストなタイミングで起きるので。

 

 

(約2679字)
PHOTO: Bisgràfic

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。