【第228話】ドーナツの穴をつくろう – ストレートすぎても伝わらない – / 深井次郎エッセイ

浮かび上がらせる

 


「何でわかってくれないんだよ」
 相手は自分で気づきたいものです

 

伝えたいメッセージがあるから筆をとる。表現者の多くはそうだと思います。でも肝心なメッセージが伝わらない、読まれもしない。関心を持ってもらえないのはどうしてでしょう。

たとえば、「戦争はいけない」というメッセージ。これをどういう手段で伝えたら、人のこころに届くか考えてみます。直接的か、間接的か。言葉でメッセージを伝える時のアプローチは2種類あります。

前者は、直接そのまま結論を言ってしまうカタチ。「どんなことがあっても戦争はしてはいけない。なぜならば」と主張がはじまります。

後者は、間接的、つまりストーリーやエピソードを話すやりかた。核の部分のメッセージはあえて言わず、外堀を埋めて中心部分を浮かび上がらせ、読者自ら悟らせます。

たとえば、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」は、ホロコーストの話です。お父さんが幼い子どもを守るため、「これは全部ゲームなんだよ」と嘘をつき明るく振る舞う。その明るさが、戦争の悲劇をより浮き立たせ、観客は涙を流しました。映画の中では、「戦争はいけない」なんてひと言も言っていません。「なぜ、人間は戦争なんてするんだ…」なんてセリフはどこにも出てこない。それなのに、観客誰もが「ああ、戦争なんて絶対にあってはいけない」と自ら思いを馳せたことでしょう。

これがクリエイティブの力です。もちろん直接、「戦争はいけない」と言ったほうが早い。けれど、2時間の遠回りをさせることで、より深く、本当の意味で伝わります。人は、他人に押しつけられたことよりも、自分自身で気づき、思ったことのほうが強く心に残るもの。その後の行動にもつながります。ストーリーやエピソードがやっぱり必要なのです。

デモのように、集団で国会を包囲して連呼するやりかたもあります。「戦争反対、戦争反対!」と。けれど、暑苦しい正論ほど、スルーされるものもない(デモが意味ない、ということではありません)。だって、だれも戦争をしたい人はいません。してはいけないのも頭ではわかっています。けれど、一部の権力者の中には己の利益のために戦争を仕掛けてしまう人がいるのです。

まわりでもいろんなメッセージを発信している人がいます。ぼくもそうですが、つい正論を直接的に言ってしまいがちです。せっかちなのもあるのでしょう。

「自分に正直に、やりたいことをやって生きよう」
「健康に良いものを自炊しよう」
「買うより手づくりは楽しいよ」などなど。

読者自身に気づいてもらう。そういう間接的アプローチを覚えていく必要があります。一番言いたいことは、あえて言わずにとっておく。外堀を埋めていくことで、メッセージが自然と浮き立つように、ドーナツの穴の部分に目がいくようにするのです。穴がなかったらドーナツはただのパン。スルーされてしまいます。エンタメの顔をして社会性のあるメッセージを伝えている。書き手が名作映画から学べることは多いです。

 

(約1139字)

Photo:castgen

 

 

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。