【第227話】贈与精神が著者をつくる – ブログで出し惜しみしないほうがいい5つの理由 – / 深井次郎エッセイ

大事なこと忘れていませんか

大事なこと忘れていませんか

 


「無料コンテンツは、出し惜しみすべきでしょうか」

 

昨日、ぼくのやっている講義でこんな質問がでました。

「ブログですべてを書き尽くしてしまうと、書籍化した時に売れないのではないか」

だから無料で読めるものと、有料で(本で)読めるものを分けたほうがいいのではないかと言うのです。核となる大事な部分は出し惜しみをしたほうがいいだろうと。 

この「出し惜しみ問題」ですが、出し惜しまないことをおすすめします。とくにビジネス系著者は、どうしても出し惜しもうとする人が多いです。コンサルティングや研修で食べている人にとって、ブログや本で核の部分まで出し尽くしてしまったら、仕事を依頼する人がいなくなってしまうのではないか。そう考えてしまうのです。

気持ちはわかりますが、ブログからして持っているものを全部出し切る。この与える「贈与精神」が著者、メッセンジャーとしての基本資質です、とお答えしました。あなたのコンテンツが「片づけのノウハウ」なのか、「登山の楽しみ方」なのか、いろいろありますが、啓蒙活動を始めるときの動機が、「ビジネスありき」なのか、「貢献ありき」なのか。前者はお金を儲けようと始めたわけですから、少しでも素早く多くの収益を上げようと工夫します。後者は、人の役に立とうと始めてますから、良い情報が1人でも多くの必要な人に届いてほしいというのが最優先です。

12年以上の書いたり話したりしてきている経験から言えるのは、後者のほうが、結果的にうまくいっている人が多いという印象です。その大きな違いは、贈与精神がともなっているかどうか。 なぜ出し惜しみしないほうがいいのかという理由を、5つの自然法則の視点から考察してみましょう。 

 

理由1.【類友の法則
著者と同類の読者を引き寄せるから

 出し惜しみすると、著者のその貧困意識に引き寄せられて、同じ貧困意識の読者が集まります。類が友を呼ぶ、というのはだれもが実感のあることでしょう。自然界の物質はすべて振動でできていて、その振動の周波数の合ったものが引き合い、合わないものは離れていくという物理法則です。これは出版の世界でも例外ではありません。 著者が出す波動に合った読者が集まります。出し惜しみしよう、奪えるだけ奪おう、自分だけ得すればOK、と考える著者には、同じ精神性の読者が集まってしまいます。 著者にとって、読者は仲間です。あなたはどんな仲間と出会いたいですか。実際に、著者は読者とリアルのイベントでも集まったり、会う機会も多いです。

「いつもためになることを教えてくれてありがとう。お礼に少しでも自分に何かできることありますか? 」

そういう豊かな贈与精神あふれる読者たちと仲間になれば、良いクチコミも起きるし、有形無形さまざまな報酬があとからついてくるものです。

 

理由2.【フローの法則
全力で集中すると楽しいし、奇跡の作品も生まれるから

 出し惜しみを考えていると、フロー状態に入ることができません。6割の力ではファインプレーを生みだすことはできないし、つくり手としての達成感を得ることもできません。フロー状態とは、没頭し完全に集中している状態です(詳しくはチクセントミハイ博士の話を参照 )。スポーツでも「ゾーンに入る」などと言われますが、ファインプレーはその時に生まれます。

著者の楽しみは、前よりも良いものを書くこと。その快楽が続けるモチベーションになります。フローに乗ることが最大の喜びなのです。その忘我の境地が気持ちいいからやってる。けれどこれは、全力で挑戦している時でないと、フローには乗れないのです。

もし、あなたが歌手でライブをやるとして、3千円のチケットの日と1万円の日があります。「今回はチケットが3千円だから、いつもの3分の1くらいちょっと下手めに」とか、できますか? 無理でしょう。第一、そんなの歌ってても楽しくない。演奏のクオリティーで値段に対応した差をつけるのは難しいのです。どうしても差をつけるなら、観客席の近さとか、演奏時間とかでならできますが。

本と、コンサルティングでは、伝える知識自体はほぼ変わりません。それなのに、価格が何倍も違うのは、対面であることとか、オーダーメイドで個別アドバイスをもらえることが価値だからです。既製品よりオーダーのほうが手間がかかる分、高いのは当たり前。お客さんは納得して払います。

お客さんがどんなデザイナーにオーダーを頼みたいかというと、既製品をつくるときも全力なデザイナーです。だからこそ、この人にオーダーを頼みたい、となるわけで。既製品で出し惜しみをしているデザイナーには、オーダーの依頼がくることはありませんよね。 ブログや普段の仕事でフローに入っているから、その先の書籍化の依頼もくるし、コンサルティングの依頼もくるのです。なにより、全力を出さないとつくり手自身が楽しくない。出し惜しむなど、時間の無駄でしかありません。

 

理由3.【限界突破の法則
全力でやれば、毎回成長して楽しいから

 出し惜しみ精神では、現状維持ならまだしも、成長はできません。「できなかったことが、できるようになる」これが人間にとって最大の喜びの1つです。成長がどのように起きるかというと、スポーツと同じ。限界を一瞬でも超えたときです。限界を超えないと筋肉はつきませんよね。101%、自分の限界まで追い込むことで、成長スイッチが入るのです。これが自然界、カラダのしくみで、限界突破の法則です。

「やばい、今の筋力のままだと対応できないぞ」

生命の危機を感じたときに、「筋肉を増量しろ! 」と指令が出るのです。環境に合わせてカラダも脳も適応していくのが、生物にくみこまれたシステムです。101%なのか、99%なのか。たった2%ですが、雲泥の差です。101%出さないとならないような環境(無理目な〆切や緊張する大舞台)をつくれば、それに対応して必ず成長するのです。環境に適応するのに何年もかかってたら生物は死んでしまいますから、適応するスピードは思うよりも早いです。次の日には変わっている。そのくらい早く適応していきます。その毎回の成長が楽しくて、さらなる高みを目指し、続けることができるのです。

 

理由4.【真空の法則
アウトプットした分、新しくインプットされるから

 出し惜しみたくなる理由として、「ネタ切れを恐れる」気持ちもあるのではないでしょうか。毎回全力で出し切ってしまったら、すぐに書くことがなくなるのではないかと心配するのです。しかし、その心配は無用。

無料のブログでも毎回101%を出していると、そのうち頭のストックが空になります。でも、自然界には「真空の法則」が働いています。スポイトでもブシュッと空気を出すと真空になり、そのスペースを埋めるようにすぐさま水が吸い上がりますよね。

空いた頭の真空スペースは、すごいスピードで新しい知識で埋まっていきます。本棚から古い本を処分して空きスペースをつくると、いつの間にかすぐに新しい本で埋まった経験はありませんか。アウトプットすると、その分インプット意欲も上がり、真空をなくそうとするのです。なのでネタ切れは、起こりそうでいつもドキドキしますが、ギリギリですが起こりません。出し惜しみしている人は、隙間のない本棚のようなものです。これ以上新しい本を増やすスペースがありませんから、成長することはできないのです。  

 

理由5.【返報性の法則
期待を超えたものには、お礼をしたくなるから

 出し惜しみをする著者に、読者が「お礼をしたい」と感じることはありません。セコさ、ずるさに対して、人は敏感で、嫌悪感をいだくのです。それは自分の中にあるイヤな貧困意識、欠乏意識が思い出されてしまうから。

逆に、おもいきり贈与してくれる人に対しては、自分の中の豊かな意識が思い出されて、気持ちよく感じます。そうなると、もらいっぱなしで耐えられる人はなかなかいません。おすそ分けでも、旅のお土産でも良いものを何度ももらうと、いてもたってもいられなくなり、返したくなりませんか。それが返報性の法則。

贈与されると、なにかを返さずにはいられなくなるのが人間です。期待を超えて感動した読みものはシェアしたくなる。ポジティブなレビューを書いてお礼をしたり、なにか商品を買うことで著者をサポートしようと思ったりもします。

ただし、60%でプレーするスポーツ選手を観ても感動はうまれないのと同じで、出し惜しみしている著者は、それは贈与になっていません。「与えてるのに返ってこないのです。見返りなしです… 」とぼやく著者は、そもそも贈与になってない可能性が高い。(見返りを期待しているところが貧困意識です)

ウェブサイトでも、有料だと知らないで読んでて盛り上がってきたところで、「はい、ここからは有料です」になると、イラッとくるでしょう。なんだ時間使って損した! 騙されたとすら思います。贈与されたどころか、2度と来たくない。もちろん、始めから「このコンテンツは有料。サンプルとして一部お見せします」とアナウンスできてれば話は別です。

 

贈与のしかたは、理解されやすい方法で

ひとつ注意点として、気前よく贈与する人を気持ち悪がる人はいます。善人すぎてありえない。なにか裏があるのではと、いぶかしがるのです。

「え、なぜ見返りなしに、そこまでサービスできるの?」

道で1万円札を配りまくる人がいたら、不審者として、避けられることもあります。 人は自分の理解を超えた存在に対して、恐怖をいだくものです。「目の前に困ってる人がいたら力になりたい」ただそれだけの純粋な気持ちなのに、理解できない人には理解できないのです。

気持ち悪がられないようにするには、なぜこんなにも贈与するのか、相手にその理由を説明しておくといい。

「自分が大失敗した経験があって、下の世代が同じような失敗をしてほしくないから」
「このテーマを研究するのが楽しくてしょうがないので自己満足でやってます」

何でもいいのですが、なぜやってるのか理解できれば、気持ち悪がられません。変人がられるのを心配して、あなたのあふれる贈与精神をおさえてしまうのは、もったいないことです。

ちなみに、返報性の法則は、ただの精神論ではなくて、実験でも実証されています。『フリー』という著書は、ウェブで無料で全部公開されました。 無料で読めてしまうにもかかわらず、書籍化してからベストセラーになった。出版界では有名な事例です。

ぼくの著者としての目標は「自分のメッセージをシェアして1人でも多くの人の役に立つこと」です。 なので、どんな形であれ、伝わったらうれしい。だれかが引用して広めてくれても嬉しいし、お金を出して本を買ってくれなくても、この連載を読んでくれれるだけでもいい。そして良かったら、あなたも友人にオーディナリーをSNSででもシェアしてもらえるとうれしい。

出し惜しみしないで、贈与精神を持つ。すると著者自身が楽しくやりがいがあって、喜んでくれる読者(仲間)も増えて、活動を続けられるだけの資金もやがて入ってくるようになるでしょう。燃え尽きずに、メッセージも枯れずに、書き続けている人は、この大切なことを体感的に知っているのです。

著者のみなさま、ともに豊かな心で書き続けていきましょう。 

 

(約4159字)

Photo:Sean Savage

 

 

 

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。