世の中は変わってきている。社会のために必要だと思えるプロジェクトなら費用はあまり関係なく実現します。既存の考え方にとらわれている人には、市場がないとか、売れないとか批判するかもしれませんが、やってみたら予想外にうまくいって
自由大学のオープンイベント FIRST WEDNESDAY
本 の 未来 はどうなる?
.
2月の FIRST WEDNESDAY のテーマは「BOOKナイト 本の未来はどうなる?」。深井次郎司会のゲストトークの第1部に続き、第2部ではブック・エクスチェンジも開催。自由大学ってなに?という初めての方も、おなじみの顔も60名近くの方々が集まりました。
第1部 トークライブ「本の未来はどうなる?」
ゲスト 第2部 ブックエクスチェンジ 主催:自由大学 |
ゲストのおひとり南木さんは、子どもの時から馴染んだ和菓子店「一幸庵」店主の水上力 さんの繊細なセンスや和菓子の美しさに魅せられ、その魅力を伝えようと書籍化を企画しました。その当時、水上さんの技術には後継者がいなかったので、文化として後世に残さなくては、という思いだったそうです。その後カメラマンや編集者、ライター、翻訳者など、ボランティアで周囲に協力者を募り、4年の歳月をかけてついに3か国語による和菓子の本「IKKOAN」を完成させました。
深井次郎の「自分の本をつくる方法」では個人が本を出すスキームについて、本の市場ではなく著者目線で考察する講義。出版社のシステムにのせて本を出すこともひとつの方法ですが、既存のルートではなく、もっと自由にインディペンデントに出版できるのではないか。それはわたしたちORDINARYの模索する出版スタイルでもあります。まさに今回のテーマは共感できる内容。情熱のある個人に賛同した人が集まって本を出す。今はまだ小さな動きですが、これはやがて大きなムーブメントになるかもしれない。本を出すことで世の中を変える、経済や社会の在り方が変わるとしたら、面白くなるぞ。ということで、個人や少人数のチームによる出版の可能性について、本づくりの最前線で活動するゲストが語らいました。
「周囲の協力で本自体は完成したものの印刷代がない。美術書の出版社にも持ち込みましたが全滅でした。それならクラウドファウンディングかと。資金調達も目的だったけれど、一人で頑張るのは限界だと思っていたし、『和菓子の魅力を伝える本を出したい』という気持ちに共感し、一緒に作ってくれる仲間が集まったことの方が嬉しかったですね。」
既存の出版ルートに頼らず印刷にこぎつけた本は口コミから広がりネットなどで話題に。最初の1000冊に加えもう1000冊の増刷も決まっているそうです。情報はデジタルという今の時代にどうして本なのか、それは南木さんが大学卒業後に就職した大手広告代理店の仕事を経験して思ったことがきっかけでした。
「ちょうど仕事を始めて2年目くらい、これでいいのかって時期でした。広告の仕事はとても面白いけれど、仕事としては残らない。でも例えばグーテンベルクの聖書は中世に出版された世界最古の印刷聖書ですが、600年たった今でもまだ45冊も現存しているし、美術品としての価値も高いものです。内容も美意識もあり、世の中で必要とされる情報があれば、そういう完成度の高い本には後世に仕事として残せる可能性があるんです。」
表現、伝達手段としての本の魅力について司会の深井も一言。
「いま個人でもさまざまな表現方法ができるようになった時代ですが、僕がどうして本にこだわるかというと、文字が一番フェアな情報伝達だと思うからなんです。写真や音、映像は、たとえばTVCMのように無理矢理差し込まれたら受け取る側はなかなか避けることができないけれど、長文の文字は “読まない” という選択肢がある。文字情報は意思がないと読み続けることができない、読み手が選べるという点が違う。逆に言えば読み手は能動的にページをめくって送り手の伝えたいことに対峙してくれる。本の強さは作り手と読み手のそういうフェアな関係性にもあると思う。ページをめくるという身体性もいい。グーテンベルクの聖書じゃないですが、世の中が変わっても、伝える手段として時代が変わっても、ずっと生き残っていくと思います。」
シェアオフィス「みどり荘」を拠点に活動する清田直博さん小柴美保さんもやはり出版社に頼らない本『WE WORK HERE』の企画編集を進めるチーム。自分たちの新しい活動を世の中に問い、表現したいことを表現する試みのためにインディペンデントな立場を選んだそう。
「他人の仕事っていうのはブラックボックスで、誰がどんなことをやっているのか、シェアオフィスの中にいても、詳しくはわかりません。好きな事を仕事にして生活しているみどり荘の仲間にインタビューをして、本にまとめることで、大きな組織に寄りかからない新しい働き方を提案する本を作ろうとしています。」
クラウドファウンディングや周囲の協賛から印刷資金を集め、後は自力で企画編集作業を進める中、協力してくれた人には、本の売り上げから報酬を支払うということも。
「本を出すというプロジェクトが新しい仕事を生む、これには可能性を感じています。さらに新しい試みとして、クラウドファウンディングの特典に編集のワークに参加できるという特典を設定しました。編集に興味はあったけれど、これまで関わったことのない人が、未経験の仕事体験に対してお金を払うということです。」
新しい出版のしくみ「BOOK TRUST」を提唱し自由大学で出版事業を進める自由大学ファウンダーでもある黒崎さんは、「WE WORK HERE」やこれまでの実験的な本にかかわる活動、商業的な成功を通し、また南木さんの「IKKOAN」プロジェクトを見守る中で、出版の未来を語りました。
※BOOK TRUSTとは、「良い本を作りたい著者」と「その本を所有して読みたい人たち」を既存の出版・流通方法を通さずにつなげていく、CROWD PUBLISHINGという新たな概念のしくみ
「南木くんのように、本当に情熱をもって本を作りたいというという人に賛同する人は少なくないはずです。クラウドファンディングは、興味がもてて、世の中のためになるから参加したいし、お金も出すという人が集まることで予想以上のことが可能になるシステム。多くの人が誤解をしているみたいですが、単なる資金集めのスキルではない。本当の目的は、自分が情熱をもって心意気をもってやりたいと思うことに賛同する人間、支持者を集めることです。世の中は変わってきている。社会のために必要だと思えるプロジェクトなら費用はあまり関係なく実現します。既存の考え方にとらわれている人には、市場がないとか、売れないとか批判するかもしれませんが、やってみたら予想外にうまくいって、数字でも結果が出るのは痛快なことですね。もちろんその本を作りたいという情熱だけではなく、「IKKOAN」のように本として内容があり、美意識も伴っていることは大前提ですが。」
これからの本は「偏愛」だといいます。本当の本好きが手に入れたいと思うような、他の媒体にはない「本物の情報」を濃厚に伝えようとする本だけが生き残る時代。価値のある、魂の入った本であれば、欲しい読書家が確実にいるはず。
「世の中に必要な本をだそう。個人も出版社も関係なく本を出す。自由大学からそういう出版の方法にチャレンジして、次の社会への流れを作ろう、やってしまおうということです。」
黒崎さんが語る本の未来に寄せる期待感の中、第1部のトークプログラムを閉じました。
第2部は会場に集まった参加者による
ブック・エクスチェンジ
.
ヴァレンタインが近い2月ということでテーマは「愛」。数人のグループに分かれ、それぞれの愛を象徴する本をプレゼンする本の相互紹介イベントです。3分を1タームとして集まったみなさんでプレゼンスタート。
愛の本は思い思い、童話から小説、詩集、哲学書とジャンルは様々です。短い時間でしたが、みなさん熱を込めて本について語り、寒風の中、閉会した後も熱気のある交流が続いていました。
TEXT : モトカワマリコ(ORDINARY / タコショウカイ)