TOOLS 01 やさしい虫よけ / 深井次郎(エッセイスト)

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自由に生きるために
独特なにおいを発していこう


苦手な隣人たちと、どうかかわるか

夏。蚊に刺されず、彼らとも仲良く暮らしたいなと思うわけです。地球はみんなのもの。血をみる戦いなどしたくない。普段、ある程度は、蚊に刺されることも受け入れています。蚊取り線香を炊くこともほとんどありません。献血というか、それが必要な隣人がいるのなら、自分が困らない程度におすそ分けしたいと思っています。ただ、5,6カ所ならいいのですが、10カ所ほど刺されてくると、ちょっとそろそろ勘弁してくれないかな、となってきます。今まで市販の虫よけスプレーを使ったことはありましたが、効果を感じらず、スプレーなしで生きてきました。

そんな話をしていたら、ハッカ油をつかった手づくりの虫よけスプレーがあると聞き、暇だったのでつくってみました。ぼくはハッカのにおいが好きですが、蚊はあのスーッとしたにおいを嫌うようです。実際につくり、左腕に吹きかけてみたところ、2時間たっても蚊に刺されなかったのです。右手や両足はたくさん刺されたのにも関わらず。これはなかなかいいかもしれない。パチンと叩いたり、殺虫剤で殺してしまうのではなく、相手が嫌いなにおいを発することで、近寄らないでいただく。これは、なんともやさしい関わり方です。

 

なぜ争いごとが起きるのだろう

「人間は争いを好む動物だから、争いをなくすことはできないよ」そう結論づける学者もいますが、ぼくはそうは思わないんです。全世界の70億人、ひとりひとり違うので、どうしても気が合わない人がいるのは仕方ありません。でも最初から、それぞれが自分特有のにおいを発していれば、合わない人とはある程度の距離を保つことができます。いやなにおいなら、近づかないので、争いにもなりません。合わない人たちが近づいてしまうのが、不幸のはじまりです。どうしても最初は無臭を装って近づいてしまう。それが大人のマナーだと教わっているので。そうやってチームを組んでしまうと、途中で争いになるのです。

とはいえ、過去に無臭でいなければならない場面も経験しています。無臭であることは、たとえば大企業のフランチャイズの接客業では必要なことです。不特定多数を相手にする可能性があるからです。それに自分の好き嫌いではなく、従業員として会社の方針にのっとる必要があります。実際、大企業で働いていたときは、真夏でも紺のスーツにストライプのネクタイで営業してました。お客さんには、いろんな価値観の人がいるから、安全策として。好かれるまではいかなくても、最低限嫌われる可能性を下げる必要があり、その統計を取った結果のスーツだったのです。いいにおいは個々の感じ方によって異なりますが、無臭なら最低限嫌われることはない、というわけです。

 

最初から自然体でいたほうが無理がない

「おまえ、最近付き合いわるいな」社内でも、先輩に怒られてしまう後輩がいます。よく見ると怒られているのは、入社時に無臭の「いい人」を装っていた後輩たちでした。反対に入社時から誘いを軽やかに断って、マイペースでいた変わり者は、「彼は、ああいう人だからね」と扱われ、特に嫌われもしないものです。

ぼくも独立してからは、無理せずに、自分のにおいを発するようにしたものです(会社員時代も多少におってたと思いますが…)。そうしないと、無駄な行き違いがあって、どうにもわかり合うのに時間がかかりすぎて、苦しかったからです。「彼は、こういうスタンスだからね」そう言われるように、わかりやすくにおいを発しました。期待値を極端に上げてしまうような自己アピールはしないし、きれいによそ行きに飾り立てることもなし。Tシャツ短パンのラフな格好で、いつでも走り出せるように足元はスニーカー。「報酬が良ければなんでもやります」ではなく、社会に良い影響を与えると思えない仕事であれば断るし、マイペースで、好きな人と好きなことしかしたくないので、「依頼を断ることもありえます」と宣言。いつもバタバタ忙しく余裕のない人とは、こっちまで忙しなく貧しい気持ちになるので、距離をおきます。一緒に考えるのではなく、答えを求めて寄りかかってくるクライアントとは、それを得意とする他社を紹介しました。

いつもにこやかで自立して安定感があり、しかもこちらのことを気に入ってくれる。そんな「もの好きな人たち」とだけつきあおうと決めました。当時のWEBのトップページには、社長であるぼくの下手な手描きのイラストをのせて、ゆるいマイペースなスタンスを表明し、頭の固い人が間違って仕事を依頼してこないよう結界を張りました。言いたいのは、どのスタンスが正しいとかではなく(きっとどのスタンスも正しい)、合う人同士が組んだ方がだれにも無理がないし、自分に正直に、ここちよく生きられるようになるということです。(まあ、あたりまえのことなんですが…)無臭を装って、知らぬ間にお互い近づきすぎてしまうから悲劇が起きる。長い期間つきあって我慢が溜まる。ある日爆発し、血をみることになってしまう。

 

300人が気に入れば会社は続く

ある経営コンサルタントにデータを見せてもらったことがあります。小さな会社の顧客の数は、せいぜい300人前後で大丈夫だというものでした。そのくらいの固定客がいれば、ひとつの会社が継続して食べていけると。全世界の70億人の中で、300人くらいはさすがに気に入ってくれる人がいるだろうと力が抜けました。無理して、何千人も何万人もに合わせる必要はないのです。ウェブのおかげで価値観が合う人同士が探して集まりやすくなりました。どんなに「いい人」になっても結婚は一人としかできないし、自分の会社を立ち上げるのにも、まずは数人の仲間で事足ります。インディペンデントに生きる人たちは、それぞれが独特なにおいを発しあおう。合う人とは関係を深めていくし、合わない人たちとは、においが気にならないくらいの距離をにこやかに保つ。これが自分と人を傷つけない、争いのない世界をつくる考え方の1つじゃないかな。

 

 

【やさしい虫よけのつくり方】
STEP1. ハッカ油の匂いを蚊は嫌うのだ
STEP2. 水(100ml)にハッカ油(20滴)を混ぜる
STEP3. スプレーに入れて刺されたくない箇所に吹きかけよう
STEP4. 体だけでなく、服や網戸などにふりかけてもOK。部屋中にふけばゴキブリなどの苦手な隣人が訪れなくなるよ

 

 

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深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。