TOOLS 03 時をかける贈り物 / 深井次郎(エッセイスト)

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自由に生きるために

手間を惜しまず丁寧に伝えよう

 

喜ばれる贈りものとは

たとえば、あなたがもらって嬉しかったプレゼントは何ですか。それはもしかしたら時間なんじゃないか、という話をします。

働くことは、贈りものです。働くとは「ハタ( 傍 / そばにいる人 )を楽にすること」とよく言われるように、相手に喜んでもらえたら成功です。「贈りものとはなんだろうか」ということを考えることが、いきいきと働くヒントになるのではないでしょうか。

 


贈りものには、大きくわけて2種類の要素があります

【要素1】夢を叶えるサポートをする
その人の欲求を満たすためのモノ。食べもの、雑貨、服など、その人が好きそうなモノ。もしくはその人が目指している夢の実現に役立つモノとかお手伝いとか、アドバイスも言葉のプレゼントです。

【要素2】愛情を伝える
愛情とは、「あなたのことを大切に思っていますよ」ということ。恋愛という狭い意味ではありません。人間愛というような大きな概念の愛です。友人への愛情は友情というように「大切に思う気持ち」を愛情とします。旅行のお土産も、クマのチョコレート自体が嬉しいのではなくて、「旅行中もあなたのことを考えていましたよ、あなたはぼくにとって大切な人ですよ」という、荷物になるのに手間をかけてくれた、この気持ちがうれしいわけです。(この2つに加えて、ただの「交換欲求」という要素もありますが、今回は省きます)

割合はともかく、この2つの要素、両方が含まれている場合が多いかなと思います。1の場合は比較的わかりやすいのですが、2はなかなか難しいものです。1がすでに十分満たされている相手の場合、あとは2を贈るしかありません。大切思う気持ちの重さはどうしたら伝わるのでしょう。言葉も大事だけど、行動のほうが伝わります。行動とは、わかりやすくいうと時間。相手のことを思った時間です。

 


あなたが一番感動した贈りものは何ですか?

一番、と言われると、比べられないので回答に困りますが、ぼくの場合は、手紙かと思います。ちょっとその話をします。

こないだ、3歳の男の子からの手紙が届いたのです。自分の顔や家族、身の回りの田んぼ、山、動物を力一杯描いていて、どれも可愛くてワクワクするものでした。それはノートの切れ端をホチキスで止めただけの簡単な本(ZINEというのかな)でした。ぼくは子ども向けの本は書いていません。どうしてファンレターなんて贈ってくれたのだろう。この子はいったい…。

実はその男の子とは、当時3歳のぼく自身だったのです。送り主は、母の古い友人のカオルさん(仮名)。生まれた時からぼくたち兄弟のことを我が子のように可愛がってくれた女性です。一緒にスキーに連れて行ってもらったり、いろいろ遊んでくれた。そのカオルさんが、ぼくが3歳のころにきっと人生で初めてつくったであろうこの本を、30年後に贈ってくれたのです。タイムカプセルみたいに。

30年前につくった本

30年前につくった本

 

こんな下手な子どもの、なんでもない落書きを、よくぞとっておいてくれたものです。この30年間で、何度も引っ越しや大掃除もしただろうに捨てないでいてくれた。「いつか次郎くんが素敵な大人になったら渡そう」と、30年間大切に保管してくれていた。何に感動したかというと、時間です。30年という重みに思いをはせると、こみ上げるものがあります。よくぞまあ、こんなサプライズを。

 

どんなモノより時間の重みは別格です

特に大人になるにしたがって、時間の重みに対して感動するようになり、涙腺が弱くなりました。映画でもドキュメンタリーでも、夢を叶えるために30年コツコツ継続みたいなストーリーにボロボロ泣けてしまう。少しずつ人生経験が増えるごとに、時間の積み重なりがよりリアルに想像できるように、感情移入できるようになってきました。手書きの手紙。今どき書く人はめっきり少なくなったけど、この面倒で手間のかかる行為が、手間がかかるからこそ相手に思いを伝えるのです。下書きが薄ら残っていたりして、そうか下書きまでしたんだなぁとか。几帳面な人は、定規で線を薄くひいてたり、頭をひねり、手間と時間をかけてくれたことが想像できる。

「肉体労働よりも頭脳労働の方が5倍大変である」そんな研究発表を海外の学者がしていましたが、そんなデータを見るまでもありません。喜ばれる企画を考えるとか、思いを綴るというのは非常に労力のいる行為です。貴重な時間とエネルギーを、あなたのために使ってくれる。あなたのことを思って、時間をかけて念をこめて書いてくれる。思ってくれる誰かがいるというのは、心があたたかくなります。

 

幸せ感は人間関係の中で生まれる

それは貧しいけど世界一幸せな国ブータンの例を出すまでもありません。「収入が上がりさえすれば幸せになれる」。戦後、国の経済成長のために、そんな幻想を植え付けられたものだけど、その間違いにほとんどの人々はもう気づいてしまいました。ビジネスや投資で成功して稼いで贅沢なものに囲まれているのに、心は満たされない。心許せる友人や仲間もいない。心からの尊敬や感謝をされることもなく、毎日のマネーゲームで心は乾いてしまっている大人たち。

スローなものの価値もある

スローなものの価値もある

そうなりたいと願う若者はほぼいない。震災以降は特に、家族や友人との絆、つながりの中にこそ幸せがあると再確認した人も多いでしょう。

「スピード、便利、簡単…」効率的なものだけでは、豊かな人間関係はつくれません。人間は手間ひまでつながっているのです。時間と心のゆとりがないと関係を深めることは難しい。人に喜んでもらうのに、お金は必要ない。郵便代と封筒代だけ。あの手紙で、ぼくは涙が止まらなかった。

 

「クリスマスプレゼントの金額は?」

平均はウン万円ですよ。という雑誌記事がよくあるけれど、金額で気持ちはわからないのになぁ、と思います。「彼女にクリスマスプレゼントを買う時間がなかったので、現金2万円を渡したら激怒された。なぜなのか理由がわからない」という若い男子がいて笑ったけど、それはそうですよね。

その話を聞けば誰だって、みんな笑いますが、これが仕事の現場になると、意外に同じことをしていたりします。こちらのミスでお客さんの気分を害しても「返金すればいいんでしょう、交換すればいいんでしょう」とお金で解決しようとする我が身に疑問を持たないものです。


すべて満たされている人に贈るもの

幸運なことにぼくは20歳の頃から、40代から80代まで粋な人生の先輩方の元で学ばせていただきました。社会貢献とビジネス、クリエイティブについてですが、知識よりも何よりたくさんの愛と時間をいただきました。先輩方はいわゆる社会的に成功したと言われるような人物ばかりで、ぼくから見るとすべてを持っている。その人生にはもう何も足すものはない、ぼくが与えられるものなどないなぁと、贈りものに困ったものです。

「何をしたら、恩返しになりますか?」ある時、ストレートに聞いてみたことがあります。恩返しなんて要らないよ、と笑っていました。そして、できるならでいいんだよと前置きして、「きみが成長して、次の世代のために役に立ってもらえると嬉しい」とおっしゃいました。

ぼくも30代になり大学でクラスをもったり、下の世代に教える機会も出てきて、その気持ちが理解できるようになってきました。ぼくが教えてもらったことと同じことを今してあげられるかというと、まだまだ難しいですが、かける時間、共に過ごす時間だけは惜しまないようにと思っています。

たった今この原稿を書いている時に、「じいちゃんが死んだ」と連絡がありました。祖父はクリントイーストウッド似で渋く、村の農家たちのリーダーでした。91歳、大往生です。よく頑張りました。と同時に、ぼくは目の前のいろいろにかまけて、なかなかお見舞いに行けてなかったな、という後悔も沸き上ってきています。時間を後悔なく扱う、ということは難しいものです。

 

喜ばれる贈り物のつくり方
1. 相手のことをたくさん考えます
2. 時間を惜しまず丁寧に
3. あなたにしかできないオンリーワンのものを


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。