TOOLS 72 ワークショップの沈黙を楽しむ/中山 隆文( ファシリテーター / Office NT 代表 )

なぜ、にぎやかなワークショップが良いと考えていたのか。きっとそれは自分を基準に考えていたからかもしれません。たぶん今、社会人の方が小学校から高校で受けた授業のほとんどが、講義形式の授業だったのではないでしょうか? 先生の
TOOLS 72
ワークショップの沈黙を楽しむ
中山 隆文  ( ファシリテーター  /  Office NT 代表 )

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自由に生きるために
沈黙を楽しみ、味わう喜びを知ろう

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良いワークショップとは、どのようなイメージをもっていますか?

以前のわたしは、ワークショップに参加したとき、賑やかで対話が多く、「全員が発信しているワークショップ=楽しいワークショップ」というイメージがありました。

また、発言が多い参加者こそが積極的、発言が少ない参加者は消極的に参加しているという考えもありました。全員が見た目にも音量的にもアウトプットされている状態が良いワークショップと考えていたのです。

さらに開催側になった時は、ワークショップの参加者には、内容に満足してもらい、参加して良かったと感じてもらえると嬉しいですし、そう感じて気づき発見をしてもらえるプログラムを考えたいです。当日の雰囲気も和気藹々として、開催者側も参加者側もリラックスした状態で、滞りなく進めることができればなお良いと考えていました。

 

ワークショップとは、参加型の学びや創造のスタイル。講義形式との違いは、一方的な知識の授与が目的ではなく、参加者たちで協同し解をつくり出していくところ。新しいプロダクトやコミュニケーションを生み出す場であり、教育、アート、まちづくり、ビジネス、社会改革など多岐にわたる分野で実践されています。

 

 

なぜ、にぎやかなワークショップが良いと考えていたのか

 

にぎやかなほうが楽しい。きっとそれは自分を基準に考えていたからかもしれません。

たぶん今、社会人の方が小学校〜高校で受けた授業のほとんどが、講義形式の授業だったのではないでしょうか? もしかすると大学もそうと言う方もいるかもしれません。先生の話を静かに聴き、手をあげて意見を発言する。ときどき黒板に書く。グループ(班分け)内で話し合いをして答え合わせや感想を言う。それを全員または代表して誰かが発表します。

少し思い出してみてください。

印象に残っている先生や科目。クラスメイトのエピソードや体験学習なのでの経験など、いろいろな授業を受けて、いくつか今も思い出に残っているのは、どのような授業でしょうか?
わたしが今も思い出す、嫌な思い出の授業と、楽しい思い出の授業があります。

嫌な思い出の授業は…

小学校5年生の授業。科目は忘れましたが、先生が質問した内容に、手を上げずに思わず声を出して答えを言ってしまったのです。言ってみれば大きな独り言です。何気につぶやいた内容が質問の正解だったようで、たぶん先生はみんなに考えてもらいたかったんでしょうね。笑顔だった先生の顔が真顔になり、私を見たときの表情や眼差しは今も忘れられません。

何もなかったかのように、違う質問をして続く授業は、先生から私の存在が一瞬にして無くなったような気がして、その以降、卒業するまで担任だったその先生の授業で発言するのは指名された時だけになりました。

成績表には学力以外に生活面での評価もありますが、小学校では「人の話をよく聴く」が「がんばろう」でした。「よくできました」になったことがありません。その時、なぜ駄目でどう改善したらよいか教えてもらえた記憶もないので、もしかすると、そのような言動が話しを聞けてなかった理由かと今でも考えるときがあります。

楽しかった思い出の授業は…

中学2年のまだ新学年となりクラスメイトも変わって打解けてない春に、歴史の授業で、先生が原始人から現代人に進化する様子を演技して教えた時間です。サルから人間に進化する過程を描いたイラストを見た方は多いと思いますが、普段から真面目で硬い印象の先生が全身を使って演技するので、クラス全員が爆笑です。全員が先生のするモノマネを見て、猿人、北京原人、ネアンデルタール原人と声に出して、背中を伸ばして歩きながら覚える授業は楽しく原始人の名称を全員が覚えていました。私はお調子者ですから、ここぞ!とばかりに声を出して真似をして楽しんでます。

ほかにも、体育でも声を出して盛り上げる。美術の時間も会話しながら絵を描く。そのためか、沈黙が耐えられないので、何か言う。図書館での勉強は苦痛であり、静かな環境では落ち着かなくなります。

にぎやかな時間 = 楽しい時間
静かな時間 = 退屈な時間

という考えは、このような経験があったからかもしれません。

静かなワークショップを普通にイメージできている方もいるかと思いますが、わたしの場合は違いました。無口な方や、会話量が少ない方や、沈黙が発生したときは、

・話しやすい環境をどうすれば良いか?
・質問の方法を変えたほうが良いか?
・応え方や発言の例を伝えて、口火をきるキッカケを作ったほうが良いか?
・順番を決めて発言できるようにしたほうが良いか?

ワークショップを進行するときに、自分が想像していた状況と違う(静かな)様子に遭遇し、何が原因なのか不安や疑問を感じ、その場で臨機応変に対応する方法を探っていました。

 

 

自分と同じタイプばかりではない
沈黙を必要としている人もいる 

 

いろいろなワークショップに参加していくと、自分には、びっくりした意見を聞く機会が続きます。

「自己紹介のあと、何か一言が苦痛なんですよね」
「最後に整理してから発言します」
「普段は話が苦手なので、今日は克服したく参加しました」
「メモでも取りましょうか」
「少し考える時間を作りましょうよ」

対話しながら進めるワークショップに参加した方から、自分が想定してない意外な意見があり、他の方も同意・同調するのです。

「え!」

わたしは、「話しながら考えた方が良いのでは」「自己紹介プラス一言なんて、適当で良いから楽勝じゃないですか」「今、教えてくださいよ」と言ったりしたこともありますが、回数を重ねて、そうでないことを学ぶことになります。

世の中には、学ぶ意思(目的)を持ってワークショップに参加している人の中には、人見知りで物静かで、無口な方がいます。または、おしゃべり好きで人と関わりを持つ時間が大事だと考える方もいます。発言よりもメモを取って整理することに専念する方や、わたしのように思いついたら、すぐに言ってします人もいれば、思考を巡らせ、よく考え整理してから話をする方もいますし、わたしのように他人に話をすることで、思考が進み整理するものもいます。ほかにも、自分からの発言は少ないが人の話を聞くことが好きだという方もいます。

ワークショップのプログラムに参加者同士で対話していただく時間を作ったとき、全員が発言を活発に行うとは限らなかったのです。

 

沈黙をこわがらないでいい
今この瞬間を味わっているのだから 

 

わたしが考えるワークショップとは、「みんなで楽しみながら考え、発見を共有する場」です。

本を読む、絵を描く、工作する、何かに取り組む場面で静かになる時がありますが、会話、対話を行うときにも、「考え」を巡らせ、理解を深め静かになる人が存在し沈黙の時があっても良かったのです。

仕事の会議などでは「会議で発言しない方は欠席していると同じだ。」という考え方もありますが、ワークショップは仕事ではないのです。それぞれが学び気づき発見する場なので、感じ方も気づき方も参加者それぞれ。

もしプログラムや質問がイマイチだったとしても、沈黙に不安を感じて、その場で参加者からの講評を聞く必要はなく、ワークショップを終了してから、開催者側も気づき発見が持てる時間を確保し、次回に生かすことが大切となります。

コミュニケーションをテーマにしたワークショップを開催するなど、会話の量を目安にする場合などは別として、参加者同士が話し合うプログラムを設けたときに沈黙が続く場合もあることを想定していても良いかもしれません。

問いに対して、対話を忘れてしまうほどに、一生懸命に考えることに集中している方もいる可能性もあります。または、誰も想像していない疑問を発見しているかもしれません。

対話の量ではなく質かもしれない。ときに沈黙は、新しい気づきの予兆になることだってありうるのです。

みなさんが考える良いワークショップとは、どんな様子でしょうか?
開催者側の様子は、どのような状態でしょうか?
参加者側の様子は、どのような状態でしょうか?
場(会場や教室)の様子は、どのような状態でしょうか?

 

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誰もが学びあえるワークショップをつくる方法
1.   沈黙は積極的に集中して考えている瞬間
2.   勇気を持って、沈黙を味わってみる
3.   参加者の感想を楽しみにしてみる


Photo: Alícia Roselló Gené


中山隆文

中山隆文

(なかやま たかふみ) ファシリテーター、コミュニケーションプランナー、クリエイティブディレクター。1973年、京都府生まれ。映像、印刷、WEBの制作経験と、社内広報や社内業務設計の経験を通じて、制作側と発注側、個人とチーム、チームと組織、それぞれの立場から見た問題解決案を企画提案を生業としながら、現在、チームファシリテーション研究会メンバー、アートファリテーションプロジェクトメンバーとして、チーム内コミュニケーションの活性方法を研究し、チームコミュニケーション、チームビルディングを学ぶワークショップをほぼ毎月開催。Office NT代表。日本ファシリテーション協会会員、千歳船橋駅前広場運営準備会メンバー。