よろこびの大きさは、それぞれが越した冬にかかっている。
【連載】菊池裕子の「ハナサクトキ」 Vol.7
桜を見上げる想い
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寒かったこの冬。
先月までその寒さを引きずっていましたが、一気に暖かくなった東京の桜は、待ちわびていたかのようにいっせいに咲き始めました。仕事上、いつも真っ先に季節の移り変わりを感じられる花屋にとっても、桜の花は特別です。儚い一瞬の喜びの時間に、毎年うっとりと酔いしれています。
桜が咲くたびに思い出す、写真家の星野道夫さんの言葉があります。
『よろこびの大きさは、それぞれが越した冬にかかっている。
冬をしっかり越さない限り、春をしっかり感じることはできないから。
それは、幸福と不幸のあり方にどこか似ている。』
桜の花も同じで、越すべき冬が厳しければ厳しいほど、暖かくなる春には綺麗な花を咲かせるのです。人も、花も、自然とともに生きるものとして同じなんだなぁと思いました。
わたしが主宰する小さな花屋にも、これまで幾度となく冬と春が巡って来ました。
体力的にも精神的にも金銭的にも厳しかった修行時代から始まって、駆け出しのフリーで仕事がない頃は、生活のためにしていた仕事の比重の方が大きく、花屋という肩書きを名乗るのに躊躇したことも。お店を持つ夢を諦めかけた大きな出来事もありました。でも、それ以上に素晴らしい出会いや転機もまた、たくさん訪れました。願っていた場所でお店が出来ているのも、点と点が線で繋がったおかげだったり…。これまでを振り返ると、その全てに意味があって今の自分があるのだと、心から思えています。だからこそ、桜を見上げるといろんな想いが込み上げるのかもしれません。
お店近くの駒沢公園の桜も、有名な目黒川の桜もそれぞれに素敵ですが、私には近所の緑道の桜並木が一番落ち着くお花見場所です。のんびりした時間がゆっくりと流れていて、当たり前の何気ない時間こそ大切で幸せな時間なんだと思わせてくれる大好きな場所です。少しの時間でもそんな気持ちに帰れるように、早速空きそうな時間を見つけてはお花見の予定を立てています。(そこに美味しいご飯や美味しいお酒が加わることも条件ですが。)
さてさて。今のわたし、今年の桜はどんな想いで見上げるのかなぁ。
*お知らせ*
連載も前回でちょうど半月を迎えました。ちょっとしたリニューアルという事で、今月からは小さい花屋の”これまで”や”いま”を綴る内容に変わります。季節のお花を紹介する代わりに、花屋のいろいろをご紹介して行けたらと思っています。連載のお届けは毎月月初め。小さな花屋の奮闘記、どうぞよろしくお願いします。 | |