ひとつの星座 – 3児のママが小説を出すまで【第10話】 生きたい場所が明確になる 2017年~ / 諸星久美

morohoshi

完全なる、ダブルブッキング。本来なら、先に予定のあった送別会を選ぶのが筋。けれど、勘違いに気づいた時の私は、頭で考える当たり前よりも、体が選びとった選択に身を任せた。体はまっすぐに、また吉満さんに会いたい。今、会いたい。と
連載 「 ひとつの星座 」 とは  【毎月25日公開】
母になっても夢を追うことはできるのでしょうか。諸星久美さんが約15年前、27歳で母になると同時期に芽生えた夢。それは「物語を書いて多くの人に読んでほしい」という夢でした。とはいえ、3児の子育てあり、仕事あり、書く経験なしの現実。彼女は、家事や育児、仕事の合間をぬって、どのように書いてきたのでしょう。書くことを通じて出会ってきた方たちや、家族との暮らし、思うようにいかない時期の過ごし方など、記憶をなぞるように、ゆっくりとたどっていきます。42歳の現在、ようやく新人小説家としてスタートラインに立ったママが、本を出版するまでの話。

.

第10話   生きたい場所が明確になる 2017年~

TEXT : 諸星 久美

 

前回は、書くことを通して動き回る中で得たありがたいご縁、元・ダヴィンチの横里隆さんについてのお話でした。

今回は、前々回の続きに戻り、天狼院書店で「本気で小説家を目指す 小説家養成ゼミ」と「人生が変わるライティング・ゼミ」を受け、私の人生がどのように変わり始めたか……というところから連載を進めていきたいと思います。

 

. .

 生きたい場所が明確になる 2017年~

 

私は、案外極端な性格で、自分の関心が向かないものには微塵も頓着しないが、関心が向けば、人でも、本でも、音楽でも、とことんという粘着質な面がある。こと音楽に関しては、シンパシーを感じて気に入った曲に出会うと、数週間、数か月と、呆れるほどループで聴き込み、その時々に自分に必要なメッセージを、その一曲から勝手にもらってきたように思う。

高校の時、つき合っていた彼がアルゼンチンにサッカー留学していた時期を支えてくれた曲や、その時期、心のすき間に入り込んできた男の子から教えてもらった、切ない曲。夫との出会いの瞬間を忘れたくなくて聴き込んだ曲もあれば、初めての出産時、分娩台でループしていた曲にいたっては、子育てに悩む時などに聴き返し、初めて抱いたわが子の、小さくも大きなエネルギーを思い起こす材料にしている。

そのように、音楽はいつも私の身近にあり、私を励ましたり、慰めたり、その時々の私の心模様をかたどるように、耳と記憶に刻まれている。そして、横里さんに記事を読んでもらった2016年秋から年の暮れにかけて、強いシンパシーを感じてループで聴き込んでいた曲が、ONE OK ROCKの『C.h.a.o.s.m.y.t.h.』という曲だった。

~相変わらず あの頃に話した 夢を僕は追い続けてるよ
 もう今年から 忙しくなるよな? でも変わらず この場所はあるから~

という序盤の歌詞をはじめ、後半に出てくる言葉も含め、初めて耳にした瞬間から脳内にズドンと入り込んできて離れず、何でこんなに気になるんだろ? もしかしたら、そろそろ何かが動き出すのかな? 動き出すといいな……などと、期待が存分に混ざる思い込みを抱きながら2017年を迎えた。

 

 センジュ出版、初訪問 

 

日々『C.h.a.o.s.m.y.t.h.』をループで聴き、天狼院書店に通いながら書いた長編を、さてどこに応募しようか、と思案していた2月のある夜、私は「センジュ出版」で開催されたイベントに出かけた。

千住で働いているにも関わらず道に迷い、同じように道に迷っていたイベント参加者の女性と、古いアパートの外階段を上って扉を開けた六畳一間の和室に、私は武士を見つけた。無論、実際に武士がいたわけではないし、武士を見たこともないのだが、畳の上で、ひとり背筋を伸ばして座る静かな佇まいが、私には武士のように見えたのだ。

その方は、つい1週間前の5月19日(土)に大・大・大盛況で終わった「作家31人合同サイン会まつり」の発起人、くまざわ書店南千住店の店長、阿久津武信さんだった。阿久津さんと名刺交換をし、次いで、小さく可愛らしい笑顔の女性、センジュ出版代表の吉満明子さんと挨拶を交わした。

その夜は、センジュ出版から出版された2冊目の本、『いのちのやくそく』の著者、上田サトシ先生(池川明さんとの共著)を招いてのイベントで、編集者でもある吉満さんの、本作りへの真摯な姿勢や、1冊の書籍を生むまでの熱量を間近で聞きながら、「この人のもとで出版できる人は幸せだろうな……」と、私は上田先生を羨ましく思いながら耳を傾けていた。

そしてイベントが終わる頃には、羨ましさは「私もいつかここで出版させてもらいたいな……」という欲に変わり、私はその欲を胸に秘めたまま、吉満さんと名刺交換をさせていただき、その夜はそのままセンジュ出版を後にした。

 

 

 2度目の夜 

 

3月24日18:00~ センジュ出版イベント
3月25日18:00~ 送別会・北千住

スケジュール帳にも、自宅のカレンダーにも上記のように予定を記していた3月の後半は、確かに家の中がバタバタとしていた。

長男に続き、次男も私立中学に入学が決まり、もう少し今の職場で仕事時間を増やそうか、もしくは、またフルタイムの保育士に戻るか……と思案しながらも、まだ『C.h.a.o.s.m.y.t.h.』は私の耳を離れず、何かが動き出すような、漠然とした予感のようなものも消えずにいた。

そんなもの、自分の期待が生み出した思い込みでしょ……。
もうそろそろ、本腰入れて家族のために働きなさいよ……。

脳内でそう自分を叱咤してみても、私は、もう少しだけ思い込みにすがっていたかった。

今フルタイムで働いたら、何かが動き出したときに対応できなくなる……。

そんな、誰に話しても理解してもらえない、けれど、どうにも胸が痛むような予感を拭えなかったのだ(とはいえ、夫は理解してくれた。感謝!)。

そんな日々の中、3月22日になって、私は職場の送別会が3月24日だったことに気づきギョッとした。完全なる、私のミスによるダブルブッキング。これまでに、一度もしたことのない凡ミスだ。あちゃ~、と反省しながらも、さてどちらに行こうと思案する間もなく、私はすぐに送別会欠席の謝罪メールを幹事に送っていた。

考えるより体が先に動く瞬間を私は信じていて、振り返れば、この選択こそが、大きなターニングポイントになったと思っている。なぜなら、先に予定が入っていたのは送別会だったからだ。ミスを起こさず、3月24日18:00~送別会・北千住とスケジュール帳に記していたら、私は同日にセンジュ出版で行われるイベントへの参加表明はしなかった。けれど、人生初めてのミスにより、私はセンジュ出版のイベントに堂々と申し込み、3月22日になるまで、ミスに気づきもせずにいたのだ。

本来なら、先に予定のあった送別会を選ぶのが筋。けれど、勘違いに気づいた時の私は、頭で考える当たり前よりも、体が選びとった選択に身を任せた。体はまっすぐに、また吉満さんに会いたい。今、会いたい。と動いたのだ。

 

 始まりの合図 

 

3月24日、2度目のセンジュ出版の夜。

私は、「Book salon 本の贈り物」イベント終了後に、吉満さんをはじめ、またお会いすることのできた阿久津さん、もう一人の参加者である、読書好きの素敵ママに、数年前に自費出版した『Snowdome』をプレゼントした。

そして厚かましくも、「私の書いた原稿を読んで頂けませんか?」と吉満さんに訊ね、ありがたくも了解をいただき、満ちた気分を抱いて、終了間近の送別会会場を目指して、千住の街を走った。

その夜のうちに、吉満さんがイベント参加者のFacebookグループを作って下さり、2日後には、当日参加してくれた素敵ママが『Snowdome』の感想をあげてくれ、追うようにして阿久津さんも感想をあげてくださった。このスピード感こそが、私の予感が動き出した始まりの合図だったように思う。そして私は、間を開けずにまたセンジュ出版を訪れ、吉満さんに原稿を託したのだ。

その結果については、次の連載にて。

 

 お知らせ

*インタビュー掲載

一人ひとりが輝く未来のウェブマガジン「STARRY FUTURE」にて、中安加織さんにインタビューしていただきました。連載と合わせて読んで頂けると嬉しいです。
「妻であり、母であり、私である」諸星久美さん(主婦・保育士・小説家志望)

 

.
.

<本の紹介> 「千住クレイジーボーイズ」諸星久美
『千住クレイジーボーイズ』は、かつて一世を風靡したことのある芸人、辰村恵吾(塚本高史さんが演じられています)が、千住のまちの人たちとの関わりの中で成長していく物語。ノベライズ本を書くうちに、恵吾との共通点に気づいた私は、作中に、ものを書く世界でどのように生きていきたいか、という私の想いも重ねて語っていますので、それも含めて、本を楽しんでくれたらうれしいです。

本のご購入方法は、版元であるセンジュ出版のウェブサイトにて。              

.
.
.

.

<ドラマの紹介>

ドラマ「千住クレイジーボーイズ」【放送されました】ドラマ『千住クレイジーボーイズ』2017年8月25日(金)19:30~ NHK総合テレビ  ウェブサイトはこちら   .  

(次回もお楽しみに。毎月1回、25日に更新予定です) =ーー

ご意見ご感想をお待ちしています 編集部まで


.
.

連載バックナンバー

第1話 2017年、痺れるほどに熱い夏(2017.8.25)  
第2話 理想の母親にはなれず、もがく中で書くことに出逢う 2002年(2017.9.25)
第3話 多忙で書くことから離れ、読書に明け暮れる日々。2004年(2017.10.25)
第4話 書くことを再熱させてくれたもの 2009 – 2011年(2017.11.25)
第5話 自費出版から営業へ。数年後への種まきシーズン。2012 – 2013年(2017.12.25)
第6話 12歳の長男が、夢の叶え方を教えてくれた。2014 – 2015年(2018.1.25)
第7話 書きたいものを模索する日々 2015 – 2016年(2018.2.25)
第8話 小説を学ぶ中で、自分の不足と向き合う日々 2016年(2018.3.25)
第9話 動いたことで繋がったご縁について 2014年(2018.4.25)

 諸星久美さんの家族エッセイ 

TOOLS 68  子どもの情緒を安定させるアイテム <BOOK編>
TOOLS 62  子どもの情緒を安定させるアイテム <音楽編>
TOOLS 59  子どもの自立心を育むには
TOOLS 56  子どもの危機回避力を高める4つの方法
TOOLS 52  感謝の心を育てるには
TOOLS 48  運動神経の育てかた<ゴールデンエイジ篇>
TOOLS 43  シンプル思考で「まずは動いてみる」
TOOLS 40  孤立に耐える、という経験が育むもの
TOOLS 36  肯定のループが育む賑やか5人家族
 

 

 


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。