PEOPLE 06 青木亮作(プロダクトデザイナー)

OKAERI ROBOT の試作から完成までを語ってくれた

OKAERI ROBOT の試作から完成までを語ってくれた

社会が、環境が、と言われると動けなくなっちゃうんですけど、まずはスケールを自分に引き寄せてモノづくりをして、それが他の人にも役立てば良いんじゃないかと。僕の場合には、まずは目の前のことを1つ1つ解決する方がうまくいくし、結果的に人にも喜んでもらえるみたいです。
 INTERVIEW 

「変だな」を1つ1つあるべき状態に
  丁寧な積み重ねが世の中を良くすると思

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新緑の初夏、オーディナリー編集部はTENT <テント> の青木亮作さんを訪ねました。TENTは BOOK on BOOK <ブックオンブック> や OKAERI ROBOT <オカエリロボ> など、見たら使ってみたくなるユニークなプロダクトや、デザインプランニングなどで活動しているデザイナー2人のユニット。居心地のいいシンプルなオフィスで、好きなことを仕事にするまでの転機など、お話を伺いました。  聞き手: 深井次郎  オーディナリー発行人 / 文筆家

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【お話してくれた人】
青木亮作(あおきりょうさく)
プロダクトデザイナー / 株式会社TENT共同代表
1979年生まれ。大学院卒後、オリンパスイメージング株式会社、ソニー株式会社にて録音機器やカメラ、PCおよび周辺機器のプロダクトデザインをはじめ商品戦略や企画を行う。2011年独立し、1年間のフリーランス活動の後、治田将之と株式会社TENTを設立。見て楽しく、使う程に愛着が湧くアイテムづくりをテーマに、テーブルウェア、家電、インテリア用品などのプロダクトデザインを中心にコンセプトからトータルなデザインを行っている。2012年パリのメゾンオブジェにて LES DECOUVERTES 受賞。ベルギーにて HOME&DECO Trophy 受賞。
TENT http://tent1000.com

 

天職、プロダクトデザインに出会うまでの紆余曲折
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— いきなりですが、青木さんのお父さんのブログ面白いですね。只者じゃないです。

父の話ですか(笑)。古民家再生ブログですね。そもそも父は田舎が嫌で家出をして、名古屋で30年くらいプロダクトデザイナーとして活動していたんですが、祖母の老後の心配もあり、本人的には道半ばで、悔しい思いで故郷に戻ることになってしまったんです。ところが田舎暮らしを始めたら、それまでに見たことないくらい元気になっちゃって、薪割りしてるから体なんてムキムキで(笑)。この間は、150kgの鉄のストーブを、クレーン借りる金もないから悩んだ結果、長い角材をテコにして家に運び入れたらしいんです。テコの原理なんて小学校の理科で習うローテクですけど、こんな時に思い出さないじゃないですか。この話を聞いた時「新しい技術なくても人間て結構なんでもできるんじゃん」ってショックでした。ガソリンもいらないし、むしろクリーンだったりして、進歩ってなんなのか、わかんなくなりますね。

青木さんと深井次郎

青木亮作さんと深井次郎


— デザイナーになったのは、同業だったお父さんの影響が大きいですか?

中学の時までは意識していなかったんですが、入った高校に全然なじめなくて小動物みたいに息をひそめて生きていました。周りと話も合わないし、どうしてだろうと悩んで。考えてみれば、その高校には美術と音楽の授業がなかったんです。小さな頃から家には父の車雜誌とかデザインの資料がたくさんあって、暇な時には自然にペラペラ読んでいた。知らず知らずのうちにデザインの情報ばかりに興味を持っていたんですよね。かなり偏っていたみたいです。だから、美術と音楽がない状態は、羽をもがれた状態というか。かなり息苦しくて。それではじめて家庭環境の影響に気づきました。

— 大学は美大とかデザイン関係ではなかったんですよね。

高校が付属だったので、そのまま何も考えずに続きの工業大学の建築学科に進学しました。卒業間際の頃にはゼネコンでバイトしてみたんですが、すごい不況の時代だったし、仕事のやり方が自分の嗜好と合わないかもしれないと思ったので、プロダクトデザイン専攻で大学院に進学しました。

大学院に入って初めて、周りの同世代と普通の日常会話で「何を作ろうか」みたいな話ができるという体験しました。それまで「かわいい・カッコいい、欲しい・欲しくない」という話はできても「それをどうやったら作れるのか」みたいな話ができる相手が親と姉以外にいなかったんです。ようやく本音で話せる仲間に会えたという感じでした。

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扱いにくい新人あらわる
オリンパスの “生意気” デザイナー時代

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— 最初の会社はオリンパスでしたよね、プロダクトデザイナーとして採用されるのは、狭き門だったのではないですか。就活は大変でしたか?

当時はあまり周りのことが見えていなかったので、数少ないチャンスの中でメーカーのデザイナーになれるかどうかで「勝ち組・負け組」に別れてしまうと思い込んで必死で就職活動しました。本当は勝ち負けなんてないんです。当たり前ですけど。でも学生時代にはわからなかったですね。そういう空気ができているから。

プロダクトデザイナーの入社試験って、1週間の泊まりがけでやったりするので、そう何社も受けられるものではないんですが、冬に2~3社落ちて反省して、大慌てで就職試験対策としてスケッチを練習したりしました。そうして夏にようやくオリンパスに採用してもらえました。

— オリンパスには何年いたんでしたっけ?

4年間です。入社したての頃のオリンパスは、デザイナーの仕事はエンジニアの人から図面を渡されてから、見た目上かっこいいと思う形に仕立て直すというものが多かったんです。そのやり方に物足りなさを感じていたんですが、尊敬できる仕事ぶりの人がいて、勝手にその人に張り付いて仕事を教えてもらいました。その人はデザイン事務所から転職してきたばかりの人で組織の中のルールというよりは、自分の信じるやり方を貫く人でしたね。僕も新人のくせにやり方が変だとか言ったり、うるさいやつだったから、ほかの方には面倒に思われていたかもしれません(笑)。

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誰が使うのかを明確に
プレゼントを作るようにデザインする
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— オリンパスで手がけて面白かった仕事もありましたか?

入社3年目に新規事業の少数企画チームが結成されて。「そんなにやり方が変だと言うなら思い切りやってみろ」と、そこに配属されました。そのチームの上司になった人が変わった人で「出来るだけ会社に来るな」っていうんですよ。「会社に来るくらいなら、どっかいってアイデア拾って来い」と。そこでは何をしても良かったので、自分たちでどんな仕事の進め方が良いかを考えて、社内では過去にはなかったようなアプローチをしました。人から渡された図面を仕立て直すのではなくもっとその前。そもそも何を作るかから考えました。誰が使うのかを明確にして、その人へのプレゼントを作るつもりで、少人数で企画から実働プロトタイプまで作り上げる。外部のクリエイターとも組んで、プロダクトデザインだけではなくかわいい説明書を作っちゃえとか、絵本もつけちゃえとか、かなり自由に広範囲にやりました。社内営業もしたり、好き放題にやらせていただいてありがたい経験でした。

— 試作品ではなく、世の中に出た仕事もあったんですか?

自分の姉でも買いたくなるカメラはできないかと考えた結果、レンズ等の性能の新しさじゃなくて、おしゃれで遊べるデジカメを作ろうと立ち上げたプロジェクトがありました。フィルターを使って変な写真を撮って遊ぶもの。今で言うインスタグラムみたいな機能を搭載したカメラです。社内の話の合う技術の方と協力して実際に動くプロトタイプも作って。当時はインスタグラムどころかiPhoneも存在してなかったので、このプロジェクトは社内の他部署でも評判になって、あの時は、恥ずかしながら完璧にテングでした(笑)。

でもデザインの部署内では相変わらず浮いているし、誰も誉めてくれない。僕はもっと評価されるべきだとテングになるあまり転職を考えました。辞める前にこのプロジェクトを形にしたくて、勝手に会社の偉い人に声をかけてプレゼンテーションしたんですけど、いいフィードバックは得られなかった。それで新しい環境でチャレンジしてみようって思って、ソニーへ行こうと決心しました。その1年後に、明らかにこのプロジェクトを反映したカメラがオリンパスから発売され、大ヒットになりました。悔しかったですね。

— その後、せっかく移ったソニーも辞めてしまう

2年で辞めてしまいました。ソニーでいざ仕事を始めてみると、新しいチャレンジというよりはむしろ、オリンパスで少数企画チームを立ち上げるよりも以前のやり方に戻ってしまった気がしてしまったんです。今思えば転職したてだったし、部署やプロジェクトによっても様々なチャンスはあったのかもしれませんが、あの時は自分の力が出せないことが本当に辛くて、ついに鬱っぽくなってしまいました。

その頃たまたま結婚したばかりだったのですが、奥さんに毎日会社の愚痴ばかり言っていたんです。ある日、うんざりした奥さんから「悩んでる暇があったら、本当は何がしたくて、それでどうやって食べてくのかを、さっさと考えなさいよ!」って言われて。念のため1年間の生活費を計算したら、節約しなくても300万円あれば大丈夫だということがわかって、貯金もあったので「まずは1年という時間を買おう」と考えて仕事を辞めました。

何もしない時間を
300万円で買ってみた

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— ついに会社をやめて、フリーになったわけですね。辞める少し前に、自由大学の講義に参加されて、ぼくは「辞めない方がいいんじゃないですか、よく考えて」って言ってたら、翌週かな「辞めちゃいました」ってスッキリした顔で。辞めてからは、どう過ごしました?

何もしない予定だったんですけどね。実際には寂しくて(笑)誰かと喋りたくてしょうがなくて、自由大学周りでポートフォリオをつくるワークショップをやってみたり、ペダルライフデザイン展の豪華本づくりをやったり、深井さんなど人との出会いで頼まれたことをやりました。力になれるなら、という形で。

— TENTのパートナー治田将之さんに出会ったのはこの時期ですか?

治田さんにはオリンパス時代にすでに出会ってました。さきほどお話したフィルターを使ったカメラのプロジェクトを手がけた時に、社外のデザイナーとして参加してもらったのが縁です。彼は僕より9歳年上なんですが、話しやすいし、興味が似ていて、一緒にプロジェクトを進めやすいなと思っていました。

— お互いフリーになったから、じゃあ一緒にやろうと?

最初は組むつもりは全く無かったんです。僕が暇だったので週に一回、近所にあった彼の事務所に通わせてもらって。世間話をしたりアイデア出しをしたり、たまにお互いの仕事を手伝ったりしました。そのうち展示会に何か出してみようという話になり、あくまで展示会出展のための仮のユニットとしてTENTが結成されました。この展示会の評判がすごくよくて、お仕事が入り始めたので慌てて法人化した感じです。1人のときにはどうしても自分を大きく見せようと背伸びしてしまっていたんですが、2人になってからはかなりリラックスして仕事できているので、狙ったわけではないのですが、結果的には自分に合った働き方を手に入れられたと思っています。


自分でいいと思ったものを作れば、社会の役に立つ
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— どういった時に達成感を感じますか? またこれからやりたい夢はありますか?

うーん。難しいですけど、漠然とした言い方になりますが、僕は「もっとこうなればいいのに」と仮説を立てて制作して、世に出した結果、仮説通りの反響を得たという時が一番気持ちいいし、達成感があるのかもしれません。

例えば「社会を良くしたい!」という大きくて強い夢があるとかではなくて。目の前の「変だな」を、1つ1つ「あるべきだと思う状態」に変えていって、喜んでくれる人がいたら嬉しいという。

例えば2011年の震災の時に、原発事故だ、節電だと情報ばっかり受けて僕は動けなくなっちゃって。でもある日ふと「停電の時のためにソーラーの照明が欲しいな」と思って、ホームセンターでソーラーの照明を買ってきて、そのままでは使う気にならないので自分で改造してみたんです。これがそのマドギワランタンです。それで、ああ、これだと思った。社会が、環境が、と言われると動けなくなっちゃうんですけど、まずはスケールを自分に引き寄せてモノづくりをして、それが他の人にも役立てば良いんじゃないかと。僕の場合には、まずは目の前のことを1つ1つ解決する方がうまくいくし、結果的に人にも喜んでもらえるみたいです。

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— TENTはデザイナー2人のユニットですが、どういうふうに働いているんですか?

よく聞かれます。僕らは「藤子不二雄スタイル」と呼んでいるんですが、2人ともできることが同じ状態で、いつでも交代できるのが理想です。また1人だとアイデアの善し悪しを見極めるのに時間を置く必要があるんですけど、2人だと相方にすぐ意見が聞けるから、早いし楽だし効率がいいので、今の所このスタイルは欠点が無い感じがします。ただ最近、おかげさまでお仕事が増えてきて、だんだん2人だけで回せなくなってきたので、今後TENTをどんな規模の会社にしていくか悩んでいる状態です。

 

— ますますTENTから目が離せませんね。いやー、今日は楽しかったです。ありがとうございました!

 

最後に、青木亮作さんの作品の一部を紹介
青木さんは、ただ頼まれたものの表面をカッコ良くするだけのデザインではなく、そもそもの問題の本質を発見するひらめきがある。そしてそれを解決する視点がユニークなのです。「今まで気づかなかったけど、そういえばあると便利だよね」というアイディアが、いつもぼくらをワクワクさせてくれます。パパになって家庭ではすっかり脇役になってしまったという青木さん。子育ては発見の連続、ここからもまた面白いTENTグッズが生まれるかも。【深井】

 

KEY KEEPER

KEY KEEPER

ポケットの中で他のものを傷つけない鍵カバー

ポケットの中で他のものを傷つけない鍵カバー

BOOK on BOOK

BOOK on BOOK

本を置いたまま展示できる透明の本

本を置いたまま展示できる透明の本

OKAERI ROBOT

OKAERI ROBOT

帰宅した人を優しくお迎えする、人感センサー内蔵のLED照明

帰宅した人を優しくお迎えする、人感センサー内蔵のLED照明

結婚式の本

結婚式の本 自らの結婚式も手づくりで

自らの結婚式も手づくりで。『カメラ日和』などの雑誌でも話題に

『カメラ日和』などの雑誌でも話題に

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青木さんの関わる最新プロジェクトのひとつ
便利さと共に、温もりのある暮らしを提供できるように。
SimplismとTENTからの新しい回答「ニュアンス」に注目です。

毎日の暮らしの中で、デジタルデバイスはいつもそばにいます。 リビングルームやベッドサイドなどのリラックスする空間でも最先端のデジタルデバイスが自然と寄り添うように

毎日の暮らしの中で、デジタルデバイスはいつもそばにいます。
リビングルームやベッドサイドなどのリラックスする空間でも最先端のデジタルデバイスが自然と寄り添うように

( 文章を一部加筆修正しました。2015.2.19 )

TEXT : モトカワマリコ(オーディナリー編集部)


編集部

編集部

オーディナリー編集部の中の人。わたしたちオーディナリーは「自由に生きるための道具箱」がコンセプトのエッセイマガジンであり、小さな出版社。個の時代を自分らしくサヴァイブするための日々のヒント、ほんとうのストーリーをお届け。国内外の市井に暮らすクリエイター、専門家、表現者など30名以上の書き手がつづる、それぞれの実体験からつむぎだした発見のことばの数々は、どれもささやかだけど役に立つことばかりです。