【第184話】汗とクラウドファンディングの関係 / 深井次郎エッセイ

「ちぇ、集まらなかったぜ」

「ちぇ、集まらなかったぜ」

アイデアにではなく
汗に対してお金は集まるのです

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自腹を切ってない人は、信用されません。数年前からクラウドファンディングが増えてきています。だれかのプロジェクトに「いいね」と共感したら、お金を払って応援するしくみです。

クラウドファンディングによって、夢がある人たちがお金を集めやすくなっています。いままでは、エンジェルと呼ばれるようなお金持ちに、まとまったお金を投資してもらい、会社を始めるパターン。もしくは、自分の貯金や借金で始めるパターンが多くありました。

一人の投資家から1000万円出してもらうのではなく、1000人の個人応援者から1万円ずつ集める。そういうことが、いまはやりやすくなりました。1万円ならなんとか払いやすい金額です。本当に応援したい企画や人になら、たとえ学生でもバイトをしていれば出せる。なので共感を集められれば、スタートに必要なお金を集めることができるのです。

これは素晴らしいことだと思います。好きなことをして食べていける人が増えてくるでしょう。たとえば、ジャーナリストのWEBマガジンだったら、広告を取ってしまうと真実が書けない場合があります。広告主にご機嫌を伺わないといけないからです。東電から大きい額をもらってたら、書けないことも出てきます。でも、特定の企業からではなく、少額を個人読者から集められれば、縛られずに真実を書き続けることができます。

お金にしづらいけど、誰かがやらないといけない活動というのはあります。たとえば、戦争反対の運動とか、環境保全の運動とか。こういう運動をしてもだれからもお金をもらえません。本人はやりたいし地球のためにやらなければならないと使命感に燃えています。でも、その月の家賃を払わないといけないので、アルバイトもしなければならない。

本当に大切な活動や研究だけに専念したいのにできないでいる人は多くいます。専念できたらもっとスピードを上げて、もっと大きなうねりが起こせる。だけど、いままでカツカツになりながらアルバイトをしながら活動を何十年も続けている。こういう人は、有志が支えてあげたいものです。みんなの代わりに地球のために頑張ってくれているのです。ご苦労様という気持ちで、1万円を振り込む。そういうのが普通になるといいですね。

ただし、いま誰も彼もがクラウドファンディングを募りすぎとも思います。サイトにはいろんなプロジェクトが並んでいますが、自分のプロジェクトにも関らず、自腹を切っていない人がいるのです。そういう人には、ぼくだったら協力したくないなぁと思ってしまいます。賢すぎる。だって、100万円を集めたいと言っているのですが、自分では1円も出していない。懐を痛めないで、みなさん協力してくださいという。人並みのいい暮らしをしてそうな、その人がそれでは、人の心は動きません。

銀行でも融資でも起業家が開業資金を借りるときは、自己資金を半分以上出さないと借りれません。100万円借りたかったら、50万円は自分で用意しないといけない。自己資本比率50%以上。そりゃそうです。リスクを負わずに手に入れるものはたいしたものではありません。

自分はここまで身銭切って頑張りました。でも、その努力虚しく、いま資金が尽きかけています。続けていきたいので、どうかお願いしますという状態。そうなったら、なんとか応援したい。それが人情です。「あなただったら高い家賃払って、毎週末いいお店で飲んでるんだから、100万円くらい払えるでしょう」そういう人が援助を募っていたり。そのくらいの金額、佐川でバイトしたら3ヶ月で貯められるよ、と言われてしまいます。本当にそのプロジェクトが夢だというのなら、3ヶ月くらいの努力は苦にならないはずです。

汗をかかない人は、信用されません。お金を余らせていて有望な人に協力したいという人は世の中にたくさんいますが、彼らは見る目もあります。自分は汗をかかずに、他人にお願いしにくる。そんな人は、丁重にお断りされてしまいます。「なんだよ、お金持ちなのに、けち」と思うかもしれませんが、だれだって無駄になるお金はつかいたくありません。多い少ないの問題ではありません。

起業のときも、自分のお金でやるか他人のお金でやるかという選択があります。これも正解はありませんが、ぼくは「自分のお金派」です。師匠たちにそう教わったせいもありますが、他人のお金だと失っても痛くないので、使い方が甘くなります。汗水垂らして稼いだお金でやるからこそ、慎重になるし、やる以上は本気でやります。見栄とかくだらないものに浪費することもありません。まわりの起業家を見渡しても自己資金ではじめた人のほうが生き残っている率が高いようです。そういう意味で、「汗をかかず、リスクを負っていない人」に、協力したところでモノにならないことが多いのです。

自己資本比率がゼロ。つまり一滴も汗を書いていない人には、だれもついてきません。「おらに元気を分けてくれ!」と叫んで元気玉が集まるのは、悟空自身がボロボロになって地球のために戦ってるからです。限界まで戦った上でそれを言うから集まるのです。そこには汗があるんです。

人に助けを求める前に、まず自分がやれることをやったか。これはぼくも気をつけています。わからないことがあると、すぐに近くの人に頼って聞いてしまうからです。グーグル先生で調べればわかるようなことまで、つい面倒くさがってヘルプをしてしまいます。クラウドファウンディングは今のところやる予定がありませんが、いつかトライするときは、限界までやれることは自分でやってからお願いしようと思います。

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(約2235字)
Photo: Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。