【第183話】退化でさえ順調な道である / 深井次郎エッセイ

「なかなか上達しないなぁ」

「上達が止まった。おれは才能がないのかもしれない」

目が肥えるスピードは
腕が上がるスピードの
2倍速い

 

なかなか上達しないなぁ。文章を書きはじめて5年たち、10年たつ人も、同じです。もしかして数年前からほとんど成長していないのではないか。そんな思いにかられるのです。

書いても書いても、まったく上達しない。むしろ、退化しているようにさえ、思える時期があります。ぼくも、書きはじめた最初の1年は、ぐんと慣れて上手くなった実感がありました。しかし、それ以降は、横ばいか、退化している感覚をずっと持っています。「これくらいは書けるはず」というレベルにいつも追いつけないでいるのです。イメージに追いつかない。

続けているのに成長を感じられないというのはつらいものです。こんなに成長しないなら、自分には才能がないのかもしれないと不安になります。向いてないなら、もうやめてしまえ、と投げてしまいそうになることさえ何度かありました。

しかし、そんな時期に、出会った本に救われました。実はこの症状はほとんど全ての書き手が通る道だということがわかったのです。『まだ見ぬ書き手へ』という小説家丸山健二さんのエッセイ本ですが、その理由が解説してあります。

書きはじめると、読む量と質が上がる。すると、目が肥えてくる。目が肥えるスピードは、書く力がつくスピードの2倍速い、というのです。いつまでたっても自分の腕が上達しないように思えるのは、目が肥えて理想が高くなっているからだったのです。2倍のスピードで理想が高くなっていたら、腕は追いつきません。退化しているようにさえ思うでしょう。

これは他のジャンルに関しても同じです。写真をはじめたのも4年前ですが、なかなか上達を感じられません。映像もイラストもそう。料理もそう。やってもやっても成長しないなぁと、不安になっているあなた。それは順調な道を歩んでいます。そういうものなのだと頭で理解して、その道を精進するのみです。理想にはいつまでも届かない。横ばいだって、退化だって、そんなの気にせず。さて、今日も書きましょうか。

 

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(約810字)
Photo: Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。