【第176話】本当のファンとはどんな人か / 深井次郎エッセイ

「全力でやってきなさい」

「結果はともかく、全力でやってきなさい」

「君のために言ってるんだよ」
善人ぶって批判してくる人は
流していい

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応援ってなんなのでしょうね。サッカー日本代表が帰国しました。その空港で温かい声援につつまれたことに「甘すぎる」という声が多いようです。もっと生卵をぶつけられたり、水かけられたり、批判されるべきだ。それくらいひどい試合内容だったじゃないか、というのです。これがサッカー先進国だったら、もっと非難され、攻撃される。これだから日本はいつまでも弱いままなのだ。サポーターが甘やかすから、選手が成長しないのだ。

でも、本当にそうなんですかね。サポーターが暴動起こしたり、攻撃したりするから、選手が批判されないようにがんばろうって思いますかね。だからドイツやアルゼンチンは強くなってるんですかね。そこの因果関係は実証されてるんでしょうか。

ぼくはそうは思いません。試合には負けました。負けたのだから、「これでいい」と思ってる選手はいないはず。言われなくたって、何が悪かったかも選手自身よくわかってる。選手は素人じゃないんです。子どもの頃から十何年もキャリアを積み重ねてきている。厳しく批判しなくちゃなまけちゃうレベルの人は、そもそもプロになれてないし、ましてや日本代表になどなれてない。日本のプロの中のナンバーワンたちなんです。

日本最強の23人。これがあなたの業界で言ったら誰ですか? たとえば出版業界でいったら、井上雄彦、村上春樹をはじめとする雲の上みたいなそうそうたる顔ぶれです。それくらいのハイレベルの人たちですから、客観的に自分の弱点を見つける目も持っている。他人に言われなくても、自らもっと上手くなりたいと貪欲に練習するタイプ。向上心のある人たちです。だからこそ、代表に選ばれるくらい上手くなったわけです。

「甘やかしたら強くならない」とか本当でしょうか。「彼らのために、日本の未来のために言ってるんだよ」とか言いますけど、ただ自分がスッキリしたいだけに見えます。自分の期待通りにいかなかったから腹が立ってるだけ。そんな時はサウナでも行って、汗だしてデトックスしてきたらいいです。負けて倒れてる人をさらに踏みつける文化は、日本には合いません。

「これはね、君のために言ってるんだよ」という上司からの偉そうな批判。こういうものが役に立った経験がありますか。君のために、なんて善人ぶらないで、正直に「私は君にむかついた」とか「ちょっと最近イライラしてるからスッキリさせて」と言われた方がまだ気持ちがいい。「君のために」とごまかす上司は応援者でも指導者でもなんでもありません。

卵をぶつけるような感情的な批判で、参考になるものはありません。冷静に分析してレポートにまとめて、具体的に「ここと、ここをこう改善したらいいのでは」という意見なら参考になるのでありがたい。けどそんな手間のかかることはだれもしてくれません。

もし選手が勝ったのなら、「勝って兜の緒を締めよ」と言うことはいい。勝ちつづけると、どうしても油断が生まれるからです。「勝ったけど、この辺が危なかったね」という反省は必要です。

しかし、負けた時に卵をぶつけるのが本当のファンかな。応援者かな。そうは思えません。ただその人の鬱憤のはけ口のように感じます。もし、自分の家族や友人が負けて帰ってきたら、卵ぶつけますか。選手たちにとってW杯は、小さい頃からの夢。毎日練習して、ケガもいっぱいしたし、サッカーを優先したために我慢したこともあったはずです。一番悔しいのは、選手本人でしょう。本当のファン、応援者だったら、こう声をかけているんじゃないかな。「いろいろあったけど、おつかれさま。ゆっくり休んでね」

(約1423字)
Photo:Mark Nye


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。