【第158話】薪の3つの燃えかた / 深井次郎エッセイ

ずっと燃えてるね

「ずっと消えないね」

何にだったら自ら燃えられるのか
自家発電できるものを見つけよう

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人のやる気を引き出すにはどうしたらいいのでしょう、と聞かれます。でも、他人のモチベーションを上げることを、ぼくはしていません。教育や組織マネジメントの話で、「人は3種類に分けられる」という話がよく出てきます。

自燃型(じねんがた) 自分で燃えることができる
他燃型(たねんがた) 他人から火をつけてもらえれば燃える
不燃型(ふねんがた) 何をやられても燃えない
1割
8割
1割


この割合は、やはり上から順に 1:8:1 のようです。この意見には、たしかにそうだなと頷きます。しかし反面、大事なのは「だれもがこの3つの自分をもっているのだ」ということを忘れてはいけません。

ある進学校では、教師がクラスの生徒たちを色分けします。自燃型の子は、ほっといても大丈夫。自分で参考書を読んだり、教師に質問したり、塾に行ったりして先へ先へやってしまうから。そして、不燃型の子もほっときます。何を言っても動かないからかまうだけ労力の無駄です。不燃型がやる気を出さないからと思い悩んでしまっては、教師自身がつぶれてしまいます。力を入れるべきは、他燃型の子。彼らに火をくべ続けるにはどうしたらいいかを考え続けるのです。これはある意味で正しいとは思いますが、人にレッテルを貼ってしまうのは非常に危険です。「彼は不燃型だから」と言っても、すべてのものごとにおいて不燃ということはありえません。「数学」においては不燃だけど、「釣り」だったら自燃ということはあります。

だれにでも、なにかひとつは自燃なものがあるものです。「美味しいものを食べたい」ということかもしれないし、「猫をなでたい」ということかもしれません。だから、教師は、この子は何だったら自燃なのかを見つけるサポートをしていってほしい。そして、生徒は、自分が何だったら自燃になるのかを見つけて欲しい。けっきょく他人に火をつけられないと燃えられないものは、いつかまわりの環境が変わったら、火が消えてしまう可能性があります。けっきょく人は他人をコントロールするのは無理だし、モチベーションを一時的には上げることもできるけど、それを10年も継続して上げ続けることはできません。そして10年くらい続けられないものは、仕事として使いものになる技術は身につきにくい。

ある大学生が、将来自分のやりたいことを考えている時に、こんなことを言いました。「わたしは高校時代まで、何かに引っ張られて生きてきた気がします」この引っ張られる感覚が、他燃であったということです。とりまく家族や先生の期待とか、同級生との競争とか、そういう外部環境によって、頑張ってやる気を奮い立たせて、勉強や部活に打ち込んできたのでしょう。「大学生になった今はこのさき受験もないし自由だから、自分のやりたいことを何でもやってみようと思う」と言っていました。

自分が何にだったら自燃になれるのか。これを知っておけば、社会に出てから楽しく過ごせます。「社会人になったら遊べなくなるから、学生のうちに気のすむまで遊んでおけ」そういうアドバイスをする大人がいます。ぼくはそんな大人からは、すぐに離れたものでした。そんな大人になりたくなかったからです。大人になってまで、他燃の毎日などつらすぎます。自分にとって仕事が自燃のものであれば、それは仕事なのか遊びなのか、境目なく混じり合うのです。

(約1367字)

Photo: Chris Ford


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。