【第152話】すべては灰色の世界で / 深井次郎エッセイ

面倒だし、買った方が安いし早いんだけど、やっちゃうんだよね

面倒だし、買った方が安いし早いんだけど、やっちゃうんだよね

にもかかわらず好き
好きはグラデーションの中にある

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何かを好きになるにも、いろんな段階がある。欠点が1つも見つからないほど、完璧に好きなもの。こういうものには、なかなか出会いません。最初は一点の曇りもなく見えたけど、その世界に入ってみると何かは欠点が見えてくるものです。

好きなことを仕事にする時もそう。最初は憧れと夢を抱いてはじめてみるけど、実際は大変なことも多い。好きとは、「にもかかわらず好き」ということです。めんどくさくてお金もかかるし、大変なことばかり。「あんなののどこがいいのかしら」とまわりに不思議がられる。にもかかわらず、やめられない。続けてしまうのです。

書いたって、すぐにお金にならないじゃないか。なんの得もないじゃないか。時間ばかりかかって、手間ばかりかかって実り少なし、ということをいう人がいます。実は、書くことを続けている人も同じように思っています。そんなことわかってます。でも、割に合わないにもかかわらず、書いてしまうのです。

好きか嫌いかは、はっきりした白黒二元論ではありません。真っ白のものなど、ありません。同じように真っ黒のものもない。

善い行いをする人のみ好きな人は、人間を好きになれません。悪行もしてしまうのが人間で、それも含めて、「人間ってそういうものだよね、愛おしいよね」と思えるか。教育者やマネジメントをする人は、人間が好きな人にやってほしいと思います。優秀で、素直で、明るくて、礼儀正しい生徒は、だれだって好きで当たり前です。でも、そんな完璧な生徒など、どこにもいません。みんなどこかダメで、面倒な部分があるものです。人間を扱うことが、いちばん面倒です。だれもが個性の塊で、常識など人の数だけ無限にあるのですから。

にもかかわらず、の要素が大きければ大きいほど、好きの度合いは高いものです。そんなのよくやるね、わりに合わないよね、と不思議がられたら、「ああ、自分はそんなにこれが好きなのだなぁ」と、好きなことに出会えた喜びをかみしめるのです。好きなことに出会えないという人は、真っ白ばかりを求めていることが多いです。グレーのグラデーションの中に、情熱を傾けられるものがあるのです。

(約896字)

Photo: Jace Cooke


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。