【第150話】ごぼう運転から学んだこと / 深井次郎エッセイ

「奥さん、安全に乗ろう」

「奥さん、安全に乗ろう」

的外れのところで
謝っている時があるわたし何かやってしまったようだわ

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このところ自転車の交通ルールが厳しくなりましたね。歩道を走ってはいけないとか、右側通行とか、無灯火とか、おまわりさんに注意されるようになりました。昔はもっとゆるかったですけどね。2人乗りも、いまじゃ見逃してくれません。でも、お母さんが小さい子を乗せてるケースは、3人乗りでも注意されてませんね。「しょうがないよね」という広い心でスルーしてくれているのでしょう。よいことです。

そんな話をしていたら、ある奥さんがおまわりさんに止められた話になりました。奥さん、その日は、スーパーでけっこうたくさん食材を買いました。なかでも、ごぼうは珍しいほど太くて長い。それは立派なものだったそうです。こりゃすごいなと、きんぴらにするぞと晩ご飯のメニューをシミュレーションしながら自転車で走ってた。自転車のカゴからは、長いごぼうがニョキッと飛び出してフラフラしています。すると、ピピピッ。笛を吹かれて、ドキッとすると、「ほら、だめだよー!」前方におまわりさんが立っているのが見えました。

ああ、わたし何かやってしまったようだわ。自分の落ち度を探します。でも、なんだ? ちゃんと車道の左側を走っているし、まだライトが必要なほど日が落ちてはいない。頭をぐるぐるさせて、ようやくピンときた。はっ、そうか、これか!

「ご、ごめんなさい」
自転車をあわてて降りて、おまわりさんのところに低姿勢で駆け寄り、謝りました。そして、目の前でポキッと折ったのです。ごぼうを、半分に。
「すみません、交通の邪魔でしたよね」
「あ、奥さん、ごぼうじゃないよ、傘だよ、傘」
雨の中、傘さして運転したら危ないからね、注意してよということでした。奥さんはごぼうのことばかり考えていたので、それしか思いつかなかったのです。「もう、恥ずかしくって」と顔を赤らめていました。

たしかに、ごぼうも狭い道をすれ違うときは、あぶないといえばあぶないです。そのうち「ごぼう運転」も禁止になってしまうかもしれないですね。「ただし、専用バッグに入れて背負うならよい」そんな規則ができるかも。それなら、時代を先取りして、ごぼう専用キャリーバッグをオーディナリーでつくろうかな。

それにしても、こういうことって、ありますよね。すごく謝ってるんだけど、的外れなところで謝ってしまうこと。「こんなに謝ってるのに、なんで相手はちっとも許してくれないんだ」そんな場合は、そのまま押し進むのではなく、いちど己を俯瞰してみる目を持ちたいものです。「もしかして、ごぼうを折っていないだろうか」と。

(約1032字)

Photo:Cameron Adams


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。