【第142話】静かに広がる水紋のように / 深井次郎エッセイ

復興プロジェクトの仲間たちと。(仙台若林区 2011年夏)

復興プロジェクトの仲間たちと。( 仙台若林区  2011年夏 )


過剰な露出は逆効果

同じセンスの仲間たちから
共感の輪を広げていこう

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テレビに取り上げられた飲食店は傾く。これはよく聞く話です。ミーハーな一見さんによって、お店の雰囲気が変わってしまうからです。本やWEBマガジンをやっていても、そう。とにかく宣伝して露出を増やしてという意識になりがちです。なかにはわざと炎上させる、感情を逆なでする書き方をして、アクセスを増やす人もいるようです。しかし、長い目でみないといけません。「目立ったもん勝ち」その考え方は身を滅ぼします。

震災のとき、現地で活動してて、痛い目をみたことがあります。その日は、80名ほどのボランティアツアー客の受け入れをしました。津波を被った畑から瓦礫をとりのぞく作業です。機械では無理なので、手作業するしかない。当時、ひとりでも多く手が欲しい状況でした。自分たちのネットワークだけで告知するよりも、大手旅行代理店が宣伝したほうが人手は集まります。そういう提案をもらったのです。旅行代理店のすでにある何万もの会員たちに告知してもらえるわけです。これは助かると期待した。まあ、そういう下心が災いしたのでしょう。ふたを開けたら、後悔することになってしまいました。

ミスマッチ。つまり、旅行代理店の会員の属性と、被災地で必要なボランティアの属性が全然違ったのです。その日、バスで訪れた人たちの多くは、「遊びや息抜きとして旅行する人たち」と「もてなされたい、受け身の人たち」でした。もちろん、被災地に興味をもってもらえただけ、来てもらえただけで感謝すべきかもしれません。こちらもミスマッチがないように、もっと詳しい情報を提供すべきだったのかもしれません。

広大な畑の瓦礫を手で取り除くのですから、たしかに地味で面白くもない。草取りのような作業です。15分もしたらすぐに飽きてしまって、座り込んでしまう人がでてきました。もちろん安全第一です。「疲れた人は休んでいてくださいね」にこやかに飲み物を出して、屋根の下で休んでもらっていました。

その畑からは、その日、近所で行方不明の6歳の子の白骨が発見されました。すぐに警察に来てもらい、ということをします。作業していたみんなは、津波の悲惨さに言葉を失っていました。「テレビの中の話ではないんだ…」参加した女子高生たちは目に涙を浮かべていました。

そういう出来事が起きますので、なかなか予定通りとはいきません。お昼ごはんのカレーの炊き出しが遅れてしまったのです。こちら受け入れ側も、炊き出しのプロではありません。ごはんの量が足りなくて、急いで炊き直したりして、予定よりも40分ほど遅れてしまった。高校生の団体の子たちは、「なにか手伝えることありますか」などと協力してくれました。しかし、いい大人のおばさんたちの中には、露骨に「うそー、ごはんまだなの? えー、おなかすいた!」とぐったりされる方もいました。

これにはぼくも耳をうたがった。しかしすぐさま「ごめんなさいね、いまみんな頑張ってやってますから」にこやかに彼女たちをなだめながら、ハッと振り向くと、被災地のお父さんお母さんは悲しい顔をされていました。ツアーで来た人たちは、完全に「お客さん意識」なのです。お金を払っているから、それはある意味あたりまえかもしれません。「それなりのサービスをしてもらいますよ」ということでしょうか。とはいえ、こちら受け入れ側スタッフだって、だれもお金なんかもらってません。全員ボランティア、みんな持ち出しでやってます。プロでもないし、商売なんかじゃないんです。ここは「みんなで協力してやっていこう」という人間じゃないと、足手まといになってしまいます。

この件は、もちろん、だれも悪くありません。クレームをつけたお客さんの理屈だって、たぶん正しい。旅行会社だって、よかれと思って人集めに協力してくれた。みんな、だれも悪くないんです。でも、この企ては成功と呼ぶ気持ちにはなれません。

価値観やセンスがあきらかに違う人はいます。合わない方まで、やみくもにとりこんでしまうと、トラブルが増えるだけ。余計に歩みが遅くなることがあります。あのお昼のカレーが遅くてイライラしたおばさま方は、帰ってまわりに「被災地ボランティアは最低だったよ」と言っておられるかもしれません。マイナスのクチコミができてしまっては残念です。

「好きを活かして自分らしく生きよう」このオーディナリーの価値観も、きっと合わない人が一定数いるでしょう。WEBマガジンを立ち上げたからと言って、やみやたらに露出を増やすことはしません。ミスマッチを極力減らしながら、丁寧にじわじわ仲間の輪を広げていきたい。SNS的に、友だちからクチコミで広がっていくのが、いちばん良い形だと思います。類は友を呼びますから。丁寧に、本当に読んで欲しい人に読んでもらう広め方を考えていきたいです。

 

(約1972字)

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。