【第135話】むしろなめられたい理由 / 深井次郎エッセイ

今から作品をつくります

「今から作品をつくってみましょう」 法政大学キャンパスにて


自分にもできるかもしれないと

勇気を与える存在になろう

 

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見た目の話。ある大学教授や研修講師たちと話したんですが、「学生たちになめられないようにビシッと決めてる」という先生がいました。その意見に、多くの先生方が賛同していました。隙を見せないように、スーツで決める。そして余裕を感じさせるために汗もかかないようです。そうでもしないと、なめられてしまって話を聞いてもらえないのではないかというのです。

ぼくは、Tシャツに短パンで学生たちと普段通りに接しています。夏は暑いので当然汗もかくし、いっしょにアイスを食べたりしています。合宿などではいっしょに温泉にも入りますし、いっしょに遊んでいます。「その距離感でよく真面目に話を聞いてもらえますね、なめられないのですね」と驚かれましたが、なめられても全然かまいません。むしろ、なめられたいと思っています。

学生時代、いろんな大人と遊んでもらいました。起業のまねごとのようなことをやっていた関係で、経営者やクリエイターたちに、食事に連れてってもらったり、温泉にいったり。可愛がってもらう中で、多くのことを学びました。メディアで有名になってる人もいましたし、本を書いてる人もいましたし、何億と儲けている人もいました。そんな先輩方は、講演会や雑誌のインタビューなど外から見てる分には、スーパーマンで、雲の上の人。凡人の自分にはどうしたって届かない存在だと思ってしまいます。

でも、そんな先輩方と接していると、ものすごく人間くさいのです。もちろん天才的な部分もあるのですが、あきらかにダメ人間なところもあり(ごめんなさい!)、ただのおっちゃんだったり、愛すべき「普通の人」だったのです。悩むこともあるし、ビビることもあるし、失敗して彼女にフラれて泣いちゃったりしているのです。「うわ、こんなんでもやっていけるのか」途端に自分の夢が身近に感じられたのです。

スーパーマンでなくてもいい。この人でやっていけるなら、ぼくにももしかしたらだけど、やっていけるかもしれない。そう意識が変わりました。そういう素敵な勘違いから本気で「独立して生きていく」というリアリティーが出てきたのです。

その学びがなかったら、今の自分は絶対にいないと言い切れます。「こんなダメ人間でも、なんとかやっていけるんだ」そういう自信と勇気を与えたい。それが次世代に対するぼくの役割だと思っています。プロフェッショナルとか、一流とか、そういう優秀な人たちばかりが、メディアではスポットライトを浴びています。そうすると、普通の自分と比べて、「あれは別世界の話だよね」となってしまうのです。

ぼくは幸か不幸か、ブランドを1つも持っていません。有名大学も有名企業も出ていませんし、資格だって、えらい賞だって獲ったことはありません。仕事だって遅いし、朝には弱いし、そういう至って普通の男でも、好きなことにフォーカスして愚直に続ければなんとかやってける。学生たちに直接は言わないですけど、ぼくと時間を共にすることで、そう感じてもらえたらいいなと思っています。ぼくにとっては先輩方から人間くささをみせてもらうことが一番の教育だったので、それを下の世代にもやってます。「むしろ、なめられたい」というのは、そういう理由です。

 

(約1318字)


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。