【第122話】世界中に友達をつくる若者たち / 深井次郎エッセイ

いいやつだよね

「アイツは反対派だけど、いいやつだよ」

立場のちがう友達を
たくさんもつと
やさしくなる

 

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世界一周に旅に出る仲間がいます。ぼくらオーディナリーのまわりで、ここ一年ほどで3人も旅立ちます。どの方も20代後半から30代前半のアラサーといわれる年代で、大手企業を辞めて、1-2年かけてまわるのです。世界一周とまではなかなか大変だけれど、海外に旅に出る人が増えるといいなあと思っています。理由は、世界平和。なんていうとまた大仰な話になってしまいますが、世界中に友達がいる人が増えれば、争いは減るのではないでしょうか。もっと国を超えた行き来が盛んになればいい。飛行機代も安くなってほしいものです。

よく「韓国人は日本人のことを嫌いだ」などとメディアでは言われています。フィギュアスケートの浅田真央選手とキムヨナ選手のぶつかり合いも、ファン同士がいがみ合っていました。「韓国人はわれわれ日本の悪口言ってひどい人たちだ、あんな国の人は嫌いだ」などどいう騒ぎになります。すぐに国対国のケンカのように煽りますが、もっと森の中の木を一本一本みてみる必要があります。メディアの情報はわきにおいといて、実際にあなたが直接イヤな目にあったのでしょうか。少なくとも、ぼくが旅先で出会った韓国人で、イヤな人はいないんです。中国人には騙されたことあるけど、いい人もいました。インド人もそう。1人でもいい人がいれば、その国の印象が変わります。

友達のいる国と戦争はできません。相手の国を攻撃したら、「あの友達が悲しむな」と顔が浮かびます。顔が見えない相手には、いくらでもヒドい仕打ちができてしまう人も、顔の見える友人のことを殴れる人はいません。大人になり、同じ生活を続けると、ついつい自分と同類しかまわりにいなくなります。そんな中でも、ゆくゆく国を動かすリーダーになっていく若者たちは、できるだけたくさんの国の人と友達になっておきたい。それは海外に出なくても、日本にいながらも、大きな街であれば、いろんな外国人と友達になることができます。旅とはただ珍しい風景を観に行くことではなく、価値観の違う人との出会いです。日本にいたって、自分の住む町にいたって、出会いをつくれば旅はできるのです。

不景気の時代は、公務員が給料をもらい過ぎだと批判されたりします。「安定してて羨ましい」という嫉妬がほとんどでしょう。しかし、友人や身内に公務員がいる人は「まあ、彼らも頑張ってるよね。公務員もすごく大変だよ」とわかります。政治家は腐ってると糾弾する人は、政治家の友人がいない人です。彼らがどれだけ高い理想をもって、弱者のことを大切に思っているのか知らないのです。売名やお金のためだけに選挙にでて、議員として活動することはしんどくてできません。売名やお金のためだったら、よっぽど他のビジネスをしたほうが割に合います。もちろん、政治家の中にもだらしない人もいますが、ひとまとめにして批判することだけは、できないのではないでしょうか。

1つの問題で対立している同士。かれらが、個人的にも憎しみあっているかというと、そうではありません。公私の別があります。原発問題でも、賛否で対立する派閥のリーダー同士が個人的には友達だということがあります。2人ともその街の幼なじみの同級生で、友達だったりする。組織としては、もう40年もぶつかりあっている。でも個人としては、推進派の市長と、反対派の漁師組合の親分と、たとえば「しげちゃん」「たくちゃん」で呼び合う仲だったりするのです。お互いの理想をめぐって組織同士はぶつかるけど、個人的に殴り合うまではしません。フェアプレイのスポーツみたいなもので、試合が終わったら握手の関係です。やくざの親分と警察のトップが中学の同級生で友達だったりという話もあります。

そういうのって、いいなと思うのです。いろんな場所に友達がいたら、利害が反する組織にこそ友達がいたら、相手の立場を思いやることがしやすくなります。相手の組織をもっと大切にできると思うのです。ぼくはマメではないので、そんなに友達を増やすのは向いていないけれど、できるだけいろんな立場にいる多様な友達をつくっていきたいな。

 

(約1610字)

Photo:  piotr


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。